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CSRを巡る動き:女性活躍の推進 試される企業の本気度

2022年09月01日 ESGリサーチセンター


 2022年7月、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が毎年調査しているGlobal Gender Gap Report2022年版が公表され、男女平等の度合いを示すグローバル・ジェンダー・ギャップ指数で日本は146か国中、116位という順位となった。この調査は経済、教育、健康、政治の4分野・14項目を評価対象とし、男女間の格差を指数化している。各項目の具体的な内容は、経済(労働参加率、類似の仕事に対する賃金の平等性、所得、管理職比率、専門・技術職比率)、教育(識字率、初等教育進学率、中等教育進学率、高等教育進学率)、健康(男女の出生数、健康寿命)、政治(国会議員の女性比率、女性閣僚比率、過去50年の女性首相/大統領の在任期間)である。
 日本の順位が極端に低いのは、経済、政治の分野である。経済においては男女間の賃金格差が大きく、女性の管理職比率が圧倒的に低い。政治においては女性の国会議員比率及び女性の閣僚比率が低い実態が、調査結果から見て取れる。

 政府も手をこまねいているわけではない。6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)では、①男女間賃金格差の開示義務付け、②同一労働同一賃金の徹底による(女性が相対的に多い)非正規雇用の待遇改善、③男性の育児休業取得促進、など女性活躍をより一層推進する取り組みが明記された。
 特に男女間賃金格差の開示については、その後、厚生労働省で6月17日に開催された「第49回労働政策審議会雇用環境・均等分科会」にて算出・開示方法が示され、急ピッチで制度づくりが進んだ。具体的には、①男女の平均賃金を算出した後、男性の賃金に対する女性の賃金の割合と差異を公表する、②全労働者、正規雇用労働者(直接雇用し、期間の定めがないフルタイム労働者)、非正規雇用労働者(パート・有期雇用労働法第2条の短時間労働者と有期雇用労働者。派遣労働者は除く)の3区分で開示する、③算出する賃金項目は基本給、手当、賞与とし、退職手当や通勤手当は企業の判断によって除外可能とする、④開示の対象となるのは常時雇用労働者が301人以上の企業で、100人~300人の企業については、施行後の状況等を踏まえて検討する、と決まった。
 7月8日には、厚生労働省は女性活躍推進法省令を改正し、施行に踏み切った。対象企業は施行後、最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表すると規定されたので、3月期決算の企業であれば、2023年4月頃から2022年度実績を開示する義務が生じることとなる。

 女性管理職比率及び女性役員比率の低さについても、既に多くの企業で重要課題として認識されており、官公庁や調査会社の経年調査からは、徐々にその比率が改善していることが読み取れる。2021年6月に再改訂されたコーポレートガバナンス・コードの補充原則2-4①では、「上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである」と明記されている。このことからも、プライム市場上場企業を始め多くの企業で、今後も女性管理職比率と女性役員比率は中長期的に上昇していくことが予想される。
 ただ、問題はそのスピードだろう。海外に目を転じると、とりわけ欧州の動きはより速い。欧州連合(EU)は6月に域内の上場企業に女性取締役の割合を一定以上に実質的に義務化することに大筋で合意した。これはクオーター制と呼ばれ、ダイバーシティを高めるためにマイノリティの議席や人数を一定比率で割り当てる仕組みである。日本ではまだ本格的な議論はされていないが、今後議論の俎上に載せられるか注目したい。

 女性活躍を推進する目的は、単なる数合わせではなく、多様な人材が多様な価値観や知識を活かし、お互いに受容し合いながら、企業価値を高めることにある。ダイバーシティ&インクルージョンが実践できる企業は中長期的にもパフォーマンスが高いという投資家サイドからの考え方も背景にある。内閣府「ESG投資における女性活躍情報の活用状況に関する調査研究」によると、約7割の機関投資家が女性活躍推進を「企業の業績に長期的には影響がある」と回答し、イノベーション促進、働き方改革による生産性向上、多様で優秀な人材の確保、リスク低減、といったメリットがあると主張する。

 企業にはこれまで以上に本気度が求められるだろう。1986年に男女雇用機会均等法が施行されて以降、既に35年以上が経過し、この時、社会人になった世代は60歳手前を迎えるが、日本の女性活躍はまだ道半ばといわざるを得ない。ただ、内閣府「男女共同参画白書(令和3年版)」を見ると、専業主婦世帯に対して共働き世帯が一貫して増加し、女性自身も子どもができても働き続けたいという意欲も持つ割合が増えていることが確実に分かる。企業はこうした夫婦が揃って安心して子育てと仕事を両立できる環境整備を進める必要がある。その結果は、女性ばかりでなく男性にとっても働きやすく生きやすい社会に繋がるだろう。既に一部の企業は行動変容を起こしているが、今後これに続く企業が増えることを期待したい。

本記事問い合わせ:岡田 昌大


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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