リサーチ・フォーカス No.2022-028 物価高で世界の政府債務は発散局面へーわが国でもドーマー条件不成立、財政黒字化が必須― 2022年08月17日 西岡慎一高インフレを背景に、世界的に長期金利が急騰している。なかでも、南欧諸国の上昇幅が大きく、これには、政府の利払い負担増大が財政を悪化させるとの懸念が高まった点が背景にある。今後、高インフレが持続すると、多くの国でドーマー条件(長期金利<名目経済成長率)が満たされず、政府債務が発散しやすくなる。ドーマー条件が満たされない経路として次の2点が挙げられる。第1に、政策金利の上昇である。現在の高インフレを利上げによる需要抑制だけで沈静化させようとすると、米国では8%、ユーロ圏では7%の利上げが必要となる。供給制約が解消されない場合、中央銀行は需要抑制に向けて大幅な利上げを強いられ、長期金利の上昇と経済成長率の低下を招くおそれがある。第2に、インフレを巡る不確実性の拡大である。高インフレ期には物価が乱高下しやすく、不確実性が増すことで知られる。これが長期金利を上昇させるほか、投資の手控えなどを通じて経済成長率を低下させる。仮に1980年代並みにインフレ変動の不確実性が拡大すると、南欧諸国などでは長期金利が経済成長率を2~4%上回ると試算される。わが国でも、物価や賃金の動向次第で金融政策が正常化され、長期金利が成長率を上回る局面が定着しうる。日本では、この20年間のうちドーマー条件を満たさなかった期間が諸外国と比べて長く、政府債務を拡大させる一因となってきた。インフレの常態化で政府債務が一段と拡大する可能性を踏まえると、基礎的財政収支の黒字化に向けた道筋をつけることが急務となる。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)