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中国グリーン金融月報【2022年7月号】

2022年08月16日 王婷


「中国グリーン金融月報」7月号をお届けします。

1.今月のトピックス
グリーン債券基準委員会 「中国グリーンボンド原則」公表
 グリーンボンド市場の質の高い発展を促進するため、グリーンボンド標準委員会は「中国グリーンボンド原則」を策定した。中国人民銀行と中国証券監督管理委員会が、これを認可し、このたび公表に至った。
2022-7-29 グリーンボンド標準委員会
http://www.nafmii.org.cn/ggtz/gg/202207/P020220729683303814431.pdf
コメント:中国の統計データによると、2022年上半期に中国で発行されたグリーンボンドとグリーン資産担保証券の総数は256件で、総額は4006.4億元に上った。これは前年同期比64%増であり、世界一のマーケット規模だといえる。今回の原則の策定、公表により、中国国内のグリーンボンド市場における基準の統一が実現する。また、本基準の策定では、国際資本市場協会をはじめとする国際機関からの支援がなされ、内容は国際市場のスタンダードに近づくことになった。今後、中国の債券市場の一層の開放において、グリーンボンドのブランドイメージを確立させ、より多くの海外機関投資家が中国のグリーンボンド市場に注目するようにとの狙いもある。

2.今月のニュース
(1)-① 中央政府・グリーン金融
【財政部】「中国クリーン発展メカニズムファンド管理弁法」の改正版を発表、2022年8月1日より施行へ

 2020年12月31日に財政部の関連会議で採択された「中国クリーン発展メカニズム基金管理弁法」に、生態環境部、発展改革委員会、外交部、科学技術部、農業農村部、気象庁が同意し、国務院に報告されて承認が得られ、2022年8月1日に施行する予定となった。管理弁法は、6章31条で構成され、基金の組織体制、基金の募集、基金の利用、管理監督及び法律責任などの内容が盛り込まれた。気候変動への対応の支援、CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラル、汚染防止、生態保護などのグリーン低炭素活動分野への支援に適用するという。2010年9月14日に公布された従前の管理弁法は廃止される。
2022-6-28 中華人民共和国財政部
http://jsz.mof.gov.cn/zhengcefagui/202207/t20220704_3824384.htm

【人民銀行】2022年第2四半期の金融機関貸出金運用統計報告書を公表。グリーン融資が高い成長。
 2022年第2四半期末の国内外通貨建てのグリーン融資残高は19兆5500億元で、前年同期比40.4%増、前期末比7.4%増となった。上半期を通して見ると、各種ローンの伸びを上回り、3兆5,300億元の増加で、29.6%増となっている。このうち、二酸化炭素の排出を直接もしくは間接的に削減する効果のあるプロジェクトに充当された融資は夫々、8兆元と4兆9,300億元で、合わせてグリーン融資の66.2%を占めた。
 目的別では、インフラグリーンアップ産業、クリーンエネルギー産業、省エネ・環境保護産業向けの融資残高が夫々8兆8,200億元、5兆4,000億元、2兆6,300億元で、前年同期比で夫々32.2%、40.8%、62.8%の増加となっている。業種別では、電力、熱力、ガス、水の生産・供給業のグリーン融資残高は5兆800億元で前年同期比30.8%増、上半期は6,039億元増加した。交通輸送・倉庫・郵便業のグリーン融資残高は4兆3,900億元で前年同期比10.3%増、上半期は2,631億元増加となった。
2022-7-30 人民銀行
http://www.gov.cn/shuju/2022-07/30/content_5703600.htm

(1)-② 中央政府・「3060目標」、その他
【工業信息部等】工信部等3部門共同の「工業分野におけるCO2排出量ピークアウトの実施計画」を発表

 「工業分野におけるCO2排出量ピークアウトの実施計画」がこのたび公表された。計画では、第14次5ヵ年計画期間中に産業構造とエネルギー使用構造の最適化を進め、エネルギーと資源の使用効率を大幅に改善し、多くのグリーン工場とグリーン工業団地を建設し、排出削減効果の大きい低炭素・ゼロカーボン技術や設備製品を数多く開発し、実証・普及させて、工業分野におけるCO2排出量ピークアウト達成の確固たる基礎を構築することを明記した。2025年には一定規模以上の事業所で工業単位価値あたりのエネルギー消費量は2020年比で13.5%減少する見込みだという。
2022-7-7 工業信息部
https://www.cnii.com.cn/gxxww/gy/202208/t20220801_401319.html

【生態環境部】7月定例記者会見、全国炭素市場運営順調と言及
 7月21日に開かれた定例記者会見において、生態環境部幹部が「全国の炭素市場は2021年7月16日に取引を開始してから1年が経ち、市場は安定して運営されており、2022年7月15日現在、炭素排出割当の累積売上高は1億9400万トン、累積売上高は84億9200万元となった。現在、全国炭素市場に組み入れられたのは発電企業2162社で、これらの企業の年間CO2排出量は約45億トンである」とした。 今後の重点任務について、第1に全国の炭素市場の法律・規制・政策体制を強化し、「炭素排出権取引管理に関する暫定規則」の制定を推進すること、第2にデータ品質監督と運用管理レベルを強化し、情報公開と信用調査の懲戒管理メカニズムを確立し、改善し、違反に対する罰則を強化することとした。
2022-7-21 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/ywdt/zbft/202207/t20220721_989385.shtml

(2)-① 地方政府・グリーン金融
【江蘇省】「江蘇省炭素資産担保融資(暫行)運用ガイドライン」が発行・実施

 この程、中国人民銀行南京支店、江蘇省銀行保険監督局、江蘇省生態環境局が共同で「江蘇省炭素資産担保融資(暫行)運用ガイドライン」を策定・発行した。
 運用ガイドラインは第7章30条で構成され、融資の担保に設定される炭素資産の種類を定義し、融資条件、融資期間、融資後の管理などの関連要件を規定し、炭素資産名義の虚偽質権設定防止のために質権融資手続き、処理プロセス、業務要件を詳細に規定している。
 炭素資産担保融資を通じて、企業の炭素資産再活性化の奨励・支援をする狙いである。
2022-7-24 揚子晩報
https://baijiahao.baidu.com/s?id=
1739197474611783795&wfr=spider&for=pc

【広東省】「広東省におけるCO2排出量ピークアウトを支援するグリーン金融の発展に関する実施方案」を公表
 このたび、広東省人民政府は、「広東省におけるCO2排出量ピークアウトを支援するグリーン金融の発展に関する実施方案」を公表した。3章13項目で構成されている。2025年にグリーン融資残高の伸び率を、他の様々な融資残高の伸び率を上回る水準とし、2030年にはグリーンク融資残高が全体の約10%を占めるよう数字目標を盛り込んだ。①グリーン金融開発の全体的計画、②グリーン金融システムの構築の改善、③グリーン金融サービスの革新、④炭素金融市場の構築の更なる加速、⑤広東・香港・マカオべイエリアのグリーン金融分野における協力の強化、⑥グリーン金融リスクの監視・管理の強化、⑦正確で効果的なグリーン金融インセンティブ政策体系の構築など、7つの主要施策を定めた。
2022-7-13 広東人民政府
http://www.gd.gov.cn/xxts/content/post_3972542.html

(2)-② 地方政府・「3060目標」、その他
【深セン市】2021年炭素排出枠割当方案が発表
 深セン市生態環境局は、このたび「深セン市2021年の炭素排出枠割当方案」を発表した。方案では、2021年の炭素排出実績に基づき、2022年深セン炭素排出権取引の年間総量を2,500万トンとし、対象企業数が750社となることを確定した。
 排出枠の割り当てに関しては、無償を主とし、有料で補完することを言及している。すなわち、97%は無償で割り当てられ、3%は有償となる(オークションで売買)予定である。その内、電気、水道、ガス、公共交通機関、地下鉄等の都市インフラと生態環境サービス分野は有償割当の対象から除外されることになる。
2022-7-3  深セン晩報
http://shenzhen.news.163.com/22/0703/16/HBC78VM204178D6R.html

【天津市】グリーン電力取引に関する活動計画を発表
 7月7日、天津市産業情報化局は、「天津市グリーン電力取引活動計画」を発表した。天津市のグリーン電力取引には主に市内グリーン電力取引と市間グリーン電力取引があり、市内グリーン電力取引は天津電力取引センターが運営し、市間グリーン電力取引は北京電力取引センターが運営する。グリーン電力取引プラットフォームで統一的に実施される。
2022-7-8 北極星管家網
https://news.bjx.com.cn/html/20220708/1239856.shtml

【上海市】 「上海市CO2排出量ピークアウト実施方案」の発表に関するお知らせ
 上海市政府はこのたび「上海市CO2排出量ピークアウト実施方案」を公表した。CO2排出ピークアウトの戦略的方向性と目標要件は経済・社会発展のあらゆる側面に統合され、重点イニシアティブ、重点地域、重点産業、重点主体に焦点を当てて、「CO2排出ピークアウト10項目行動」の実施を行うと定められた。
2022-7-14 上海市人民政府
https://www.shanghai.gov.cn/gwk/search/content/75468067a4a848139d2a2eed16ce9e11


(3) 業界・金融機関
【香港】香港取引所、「香港国際炭素市場委員会」を設立
 香港証券取引所・清算有限公司は香港国際炭素市場委員会を設立し、主要企業や金融機関が参加して、香港証券取引所と共同で地域炭素市場の開発機会を探ることを発表した。
 このパートナーシップは国際的な炭素市場の構築に重点を置いている。最初の参加メンバーは香港、中国本土、海外のパートナーで、中国工商銀行(アジア)有限公司、中国林業集団有限公司、中国省エネ環境保護集団有限公司、中国銀行(香港)有限公司、BNPパリバ銀行香港支店、香港上海潅豐銀行、國泰航空有限公司、国家電力投資集団有限公司、スタンダードチャータード銀行香港有限公司、澳新銀行集團有限公司香港、騰訊控股有限公司である。
2022-7-5 香港取引所
https://www.hkex.com.hk/News/News-Release/2022/220705news?sc_lang=zh-HK

【中国炭素排出権申請登録決算有限責任公司】 KPMGと戦略的協力協定を締結
 2022年7月4日、中国炭素排出権申請登録決算有限責任公司とKPMGは戦略的協力協定に関する署名式をオンラインで実施した。
双方はESG情報開示、革新的なカーボン金融、ESGコンセプトの領域で協力し、「ダブルカーボン」目標のタイムリーな達成に向けた強力なサービス保証業務を提供していく方針。
2022-7-6 Sina財経
http://finance.sina.com.cn/roll/2022-07-06/doc-imizirav2131979.shtml


3. 王の視点
中国、地方政府のグリーン金融支援策
 「今月のニュース」欄でお伝えしたように、7月13日には「広東省におけるCO2排出量ピークアウトを支援するグリーン金融の発展に関する実施方案」が公表され、広東・香港・マカオ・べイエリアのグリーン金融分野の協力を強化させることが打ち出されました。これに先立ち、6月22日には、上海市人民代表大会で「上海浦東新区グリーン金融発展に関する若干の規定」が採択されました。深セン、湖州に次ぎ、立法という形態でグリーン金融政策を導入する3番目の地方政府になります。
 深セン市の条例、上海市の規定、広東省の実施方案には、それぞれ策定時期や名前が異なりますが、多くの共通点を見出すことができます。以下5点に整理してみました。
 一つ目は、グリーン金融商品をさらに創出することです。既存の支援策においては、金融機関のグリーン融資を中心としながら、債券、信託、リース、ファンド、保険、資産管理、カーボンデリバティブなど、豊富な種類のグリーン金融商品について言及しています。ただ、中国では約90%以上の資金調達が商業銀行を通じて行われるため、グリーン金融においても金融機関の融資が非常に重要な役割を果たします。広東省の実施方案では、「2025年にグリーン融資残高の伸び率は、様々な融資残高の伸び率を上回るようにし、2030年にはグリーン融資残高が全体の約10%を占めるようにする」など数字目標を明確にしました。
 二つ目は、情報開示を推進することです。情報開示には、企業の情報開示と金融機関の情報開示があります。深セン市の条例では、環境関連の情報開示の対象と開示手法を明確に定めました。上海市の規定では、銀行系金融機関の法人に「金融機関による環境情報開示ガイドライン」に基づく年次環境情報報告書の発行を義務付けるとともに、ノンバンク系金融機関の法人にも報告書の発行を促しています。広東省の実施方案では、グリーン金融情報開示・監督メカニズムを構築し、銀行・保険セクターの金融機関による投融資活動において、環境情報およびカーボンフットプリント開示の実証を行うことを明確にしました。
 三つ目は、グリーン金融基準を構築することです。各地方政府は、国家基準を堅持しながら、独自の地方グリーン評価基準や評価メカニズムの構築を訴求しています。ここでの評価基準には、企業やプロジェクトの評価基準と金融商品の評価基準という2つの種類が含まれています。多くの地方政府の施策では、グリーンプロジェクト評価基準を作成し、地方版グリーンプロジェクトバンクを整備すること、グリーン金融商品の基準を作成し、統一することを明記しています。深セン市の事例では、グリーン金融統計基準の整備も言及しています。
 四つ目は、第三者の認証やサービス事業者を育成することです。広東省は、「炭素会計と検証、グリーン認証、環境コンサルティング、グリーン資産評価、データサービス、その他のグリーン仲介サービスの急速な発展を奨励する」と定めました。上海市は、「グリーン認証、環境コンサルティング、資産評価、信用格付け、データサービス、炭素排出量会計、環境情報開示報告書の検証等を行う第三者機関を支援する」と明記しています。
 五つ目は、ポイントシステムを発展させることです。上海市の規定では、企業と住民に向けて炭素口座を作り、炭素クレジットとポイントシステムとの連携を推進すると定めています。広東省では、「適格な園区、地方、機関に向けた炭素口座、ポイント制、炭素シンクなどのグリーン金融創新を奨励する」と、深セン市では、「金融機関をポイント制に参画するよう支援する」と定めています。
 共通部分以外に、地方の特徴を踏まえた独自な施策もあります。例えば、上海市の規定では、トランジション金融を取り上げて、「金融機関、関連取引所が、環境リスクの高いプロジェクトや市場関係者の低炭素化・ゼロエミッションへの転換を支援する金融サービスを提供する」ことを明示しました。また、広東省の実施方案では、「広州先物取引所は、電力、シリコン、リチウム、その他先物商品の開発を加速させ、炭素金融デリバティブを開発し、全国の炭素先物市場の構築に貢献する」となっています。深セン市では、「金融機関やフィンテック企業は、ブロックチェーン、人工知能、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、モノのインターネットなどのフィンテック技術を活用して、グリーン金融のイノベーションを支援するよう奨励する」とされています。
 中国では、3060目標を実現するために、約20数か所の地方政府がグリーン金融を促進する支援策を策定しているそうです。中央政府が策定した政策や施策、基準を踏まえ、各地方政府は地方の目標を達成するために、各自の優位性を強調しながら、グリーン活動を支援するように取り組みを進めているといえます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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