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「Board3.0」はガバナンス改革のパラダイムを変えるのか

2022年04月01日 山田英司


ガバナンス改革で「監督」機能は強化されたが……
 2015 年以降、日本ではコーポレートガバナンス・コードの施行と、その後に続いた各種の実務指針の公表によって、企業における具体的な取り組みの方向性が示されてきた。これらによる一連のガバナンス改革における重要なポイントの一つは、取締役会の改革にある。具体的には、執行と監督を分離し、取締役会は主に監督を担うという、いわゆるモニタリングモデルへの移行を求めるものである。実際、昨年6 月のコーポレートガバナンス・コード改訂でも、監督機能を果たす独立社外取締役の増員や、スキル・マトリックスの作成・開示を要請するなど、質・量双方の充実を求めている。
 こうしてガバナンス改革が進む一方で、現実にはガバナンス問題が顕在化する企業が後を絶たない。そのため、これまでのガバナンス改革に対しては形骸化の指摘のほか、改革の有効性を疑問視する声さえも上がっている。
 ガバナンス改革は、「監督」および「執行」両機能の強化を図るのが本来の姿である。しかし、近年では「監督」機能の強化に傾きがちであったことが、こうした批判の背景となっている。今後は、監督および執行の両面から、取締役会の機能の在り方への議論を深めることが必要となる。

米国で提唱される「Board3.0」とは
 このような課題は、ガバナンスで先行する米国でも早くから認識されている。ロナルド・ギルソン教授(スタンフォード大学/コロンビア大学)とジェフリー・ゴードン教授(コロンビア 大 学 ) は 、 共 著 の 論 文 「 Board3.0: What the Private-Equity Governance Model Can Offer to Public Companies」において、長期投資家が取締役を選定する形で経営に参画するという「Board3.0」を提唱した。
 この論文では、執行へのアドバイスを主眼とした 1950~1960 年代の取締役会(Board1.0)が、企業の不正・違法行為を察知・抑制する機能を果たせないことから、1970 年代以降、執行から独立して監督機能を果たす「Board2.0」へと転換を遂げた、としている。しかし、事業環境の変化や戦略の複雑化、企業の巨大化などに対し、Board2.0 の独立社外取締役では、情報やリソース、意欲の面で制約があることを指摘した上で、これを克服するものとして「Board3.0」を提唱する内容となっている。
 Board3.0 は、豊富な情報とリソースと意欲を有する社外取締役を長期投資家が選定し、Board2.0 における独立社外取締役中心の取締役会に参画させる形となっている。これによって、取締役会の機能を高め、企業価値の向上を促せるとしている。

日本企業の「Board3.0」は「Board1.0+2.0」で実現
 この「Board3.0」は、今後の日本企業にどこまで浸透し、有効に作用するのであろうか。現在、日本では、コーポレートガバナンス・コードの再改訂によってガバナンス改革が進みつつあるが、現状は業務執行取締役が多数を占めるマネジメントモデルである「Board1.0」から、独立社外取締役が執行を監督するモニタリングモデルである「Board2.0」への転換途上である。そのため、執行の監督を意識する社外取締役と、経営の助言役という認識にとどまる社外取締役が混在する状態となっている。もちろん、グローバルな投資家の要求に応えるためにも、取締役会における監督機能の強化は必要であることから、独立社外取締役の質・量双方での充実は継続して必要となる。しかし、その一方で、日本企業の課題としてかねてから指摘される「稼ぐ力」の強化については、監督機能の強化だけでは対処が困難である。
 そこで日本においては、「Board2.0」から「Board3.0」への パラダイムシフトというよりも、「Board1.0+2.0=Board3.0」と いう形での取締役会の機能強化がより自然な形ではないか。「Board2.0」を否定せず、監督機能を担う独立社外取締役を維持しつつ、中長期視点で企業価値向上に向けての助言を行う社外取締役を迎え入れる。つまり、2 種類の社外取締役によって「攻め」と「守り」のガバナンスを充実させるのである。もちろん、戦略に関与する社外取締役については長期投資家が選出することが唯一の選択肢ではなく、利益相反の回避にも十分な配慮が必要である。しかし、周回遅れのガバナンス改革のスピードを速めるためにも、日本企業の実態に即した「Board3.0」の議論が必要と筆者は考える。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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