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保育の質に関する保育者向け・保護者向けアンケート調査結果

2022年08月09日 小幡京加、亀山典子石井隆介


1.本調査を実施した背景・目的

 2023年に発足予定の「こども家庭庁」では、基本政策の一つとして「就学前のすべての子どもの育ちの保障」をうたう。それには、施設を問わず質の高い教育・保育を提供できる体制の整備が欠かせない。
 これまで日本では就学前の子どもに関しては、「預ける場所の不足」という量的な面が課題とされてきた。そこで、保育所等の整備が各地で進められ、近年では待機児童数は減少傾向にある。今後SDGsの観点からも、全ての子どもが、心理社会的な幸福の面から順調に発育するよう、質的な充実に転換する必要がある。
 就学前の子どもの教育・保育は、子どもの人格形成の基礎を培う上で重要な役割を担うと言われている。例えばノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・ヘックマン教授の研究によると、就学前の豊かな経験が後の人生に大きな影響を与えること、幼少期の非認知能力の向上が大事であることが明らかとなっている。非認知能力の向上には、対話から生まれる安心感の醸成や好奇心を大切にすることが必要であり、保育所・幼稚園等における集団保育においても、子ども一人一人への寄り添い・個に合わせた成長支援が重要となる。しかしながら、現状、慢性的な保育士不足等の中で、「子ども一人一人」に合わせた保育の提供は十分に実現できていない施設が存在すると考えられる。
 保育者・保護者ともに理想と現実の保育のギャップを感じているのではないかとの仮説のもと、本調査では、保育者・保護者向けの保育の質に関するアンケート調査を実施した。

2.アンケート調査概要

 アンケート調査概要は以下の通り。
・調査名称 保育の質に関するアンケート調査
・調査目的 就学前の子どもの保育・教育に関する、保育者および保護者の意識の把握(現状の保育と理想の保育の把握)
・調査方法 インターネット上での回答
・調査期間 2022年3月

 以下の①保育者調査 ②保護者調査 の2つの調査を実施した。

①保育者(保育士・幼稚園教諭)の保育の質に関する意識調査
調査対象・対象者数 全国のGMOリサーチパネルのうち保育士1,500名、幼稚園教諭500名
主な調査項目
・施設への満足度、転職経験・理由
・理想とする保育と、現在の保育とのギャップ
・個々の子どもに寄り添うための方策

②保護者の保育の質に関する意識調査
調査対象 全国のGMOリサーチパネルのうち末子が小学校4年生以下の保護者(父親または母親) 
調査対象者数
未就学児の子をもつ親 3,000名(0歳児―5歳児 各学年500名)
小学校1-4年生の子をもつ親 1,000名(各学年250名)
※施設に通っていない子どもも対象。
※小学生の親には、過去を振り返り、「未就学時に通っていた施設」に関して回答を得た。また、小学生の放課後等に通う施設についても回答を得た。
主な調査項目
・未就学児向け施設の利用状況、満足度
・未就学児向け施設に求めること、現在通う施設とのギャップ
・子育てについて
・小学生の現在通っている施設、満足度
・こども家庭庁創設に関する意識

3.主な調査結果と示唆

①保育者(保育士・幼稚園教諭)の保育の質に関する意識調査

a.就職・離職理由、働いている施設の満足度
 保育者が就職の際に重視した要素、現在働いている施設の満足度ともに、「アクセス」、「施設の雰囲気・人間関係」の順に多い。
 離職理由は、「結婚、妊娠・出産・子育て・家事、介護、家庭の事情」が32.9%と最も多いが、次いで「職場の人間関係」23.8%、「給料」18.9%、「自分が理想とする保育・教育ができない、意見を尊重してもらえないことへの不満」16.6%、「保育・教育方針への不満」16.1%となっている。
 これらの結果から、「施設の雰囲気・人間関係」のほか、保育者の意見の尊重や保育・教育も就職や離職の際の重要な要素になっていることがわかった。

b.子どもへの接し方、理想とする保育、個々の子どもへの寄り添い状況
 子どもへの接し方は、保育者自身の理想に照らして、95.2%の人が何らかの課題を感じている。課題としては、「子ども一人一人に丁寧にかかわること」が最も多く50.3%、次いで「子ども一人一人の個性の把握、成長支援」が47.4%である。
 理想とする保育・教育において、時間を多く割くべきと思うことは、「子どもの意見を聴くこと」が58.4%と最も多い。
 個々の子どもに寄り添う支援は「したいと思うが、あまりできていない・できていない」が40.5%を占める。要因を聞いたところ、職員人数不足が48.3%、事務等の業務量の多さが42.6%の順に多いが、「保育者間のコミュニケーション不足」も28.9%ある。
 これらの結果から、「子ども一人一人に丁寧にかかわること」 「子どもの意見を聴くこと」等は、多くの保育者が理想とし心掛けてはいるが、理想ほど十分には実現できていないことが読み取れる。

c.個々の子どもへの寄り添いの実現方法
 個々の子どもへの寄り添いの実現方法は、「個々の子どもの個性や成長についての職員間の共有機会」が最も多く52.9%、次いで「日々の保育の振り返り機会」が49.1%である。
 bで、個々の子どもに寄り添う支援ができていない理由として「保育者間のコミュニケーション不足」が挙げられていたことの裏返しで、保育者は職員間のコミュニケーションや日々の保育のフィードバックにより、個々の子どもへの寄り添いが可能と考えていることが読み取れる。

d.よりよい保育・教育の実現のために、施設等に求めること
 よりよい保育・教育の実現のために施設等に求めることとしては、「職員間のコミュニケーション」が最も多く45.7%、次いで「職員のスキルアップ、保育・教育に関する知識の習得機会」が42.1%である。
 「職員間のコミュニケーション」や前述の日々の保育のフィードバックの機会が増えることで、多面的に一人一人の子どもの個性等に対する理解が深まり、子どもにとってよりよい保育・教育環境が実現される可能性がある。

②保護者の保育の質に関する意識調査

a.施設選択理由
 施設選定理由は、 「アクセス」が最も多く49.7%、次いで「施設の雰囲気」39.6%、「安全への配慮」37.4%、「保育者の信頼度」37.1%である。

b.通っている施設の満足度
 通っている施設の全体的な「満足度」を聞くと、54.5%が「満足」と答えている。一方で、「施設の教育・保育方針」等項目別に満足度を聞くと、各項目で「満足」と回答した人の割合は50%を下回る。
 全体的な満足度よりも項目別の満足度のほうが低いことから、保護者は一見すると満足しているように思えても具体的な項目を挙げて聞かれると、実は「もっとこうしてほしい」という要望は持っていることが窺える。

c.転居以外の理由での転園検討状況・理由
 保育内容等が理由で(転居等の理由以外で)、転園、転園を検討したことがある人はあわせて18.2%である。
 転園・検討理由は、「預かり時間等が希望に合わなかった・合わないから」が27.2%と最も多く、次いで「施設の保育・教育方針が合わなかった・合わないから」が22.0%、「保育者(保育士・幼稚園教諭等)の子どもへの接し方に不満があった・あるから」が18.9%である。

d.施設にもっと増やしてほしいと思うこと、保育者に対して感じる課題
 保護者が子供の保育環境に求めるニーズを把握するため、施設にもっと増やしてほしいと思うことを聞いたところ、 もっとも多い回答が「体を動かすこと」で31.2%、次が「子どもの意見を聴くこと」で29.0%と、いずれも約3割の親が選択している。
 保護者が保育者について課題だと感じることを聞いたところ、「特にない」が42.5%と最も多く、次いで「子どもへの接し方」25.7%、「言葉遣い・マナー」18.4%、「子ども一人一人に丁寧にかかわること」16.4%の順となっている。
 保育者同様、保護者も「子どもの意見を聴くこと」のニーズを持っていることがわかった。また、保育者に対しても接し方や一人一人へのかかわりについてニーズがあることがわかった。

e.子どもの個性に関する情報の提供状況
 子ども一人一人への寄り添い・個に合わせた成長支援の視点から、子どもの個性(子どもが得意なこと、日ごろ集中している遊び、集団の中での行動の特徴等)に関する情報の保護者への提供状況について質問した。子どもの個性に関する情報は、93.6%の保護者が知りたいと思っている。しかし、それらの情報が施設から「よく提供されている」割合は26.4%にとどまる。施設に保護者との関係性において求めることとしては、「施設での子どもの成長・個性がわかる情報(何をしてどう行動したか、何ができるようになったか)等を教えてほしい」が45.9%と最も多い。
 生活の様子は連絡帳や掲示等でなされていても、子どもの個性の情報までは施設から伝えきれていない可能性がある。

f.小学生の日常的に通う施設について
 参考として、本アンケートの後段では、小学生を持つ保護者向けに、子どもが日常的に通う施設およびその満足度についても調査を実施した。
 「通わせたいが通っていない」理由として「定員の空きがない等により利用、入会ができない」は、「放課後児童クラブ」が26.4%、「民間の学童クラブ」が23.6%である。
 小学生の放課後の居場所の確保、およびその質の向上についても現状と理想のギャップの存在が想定され、より詳細な状況は今後追加で調査の必要がある。

4.総括

 保護者、保育者ともに「子どもの意見を聴くこと」や「子ども一人一人に合わせた成長支援」を重視したい気持ちは共通であるが、現状は理想ほどそれらが実現できていないというギャップを感じている。保育者は、職員間のコミュニケーションや日々の保育のフィードバックにより、個々の子どもへの寄り添いが可能と考えていることも読み取れた。
 また、子どもの個性に関する情報は、現状では保育者側から保護者にあまり伝えられていないが、保護者側には伝えてもらいたいニーズがある。
 保育者間にとどまらず、保育者―保護者間で子どもの個性に関する理解を深めることで子どもを中心に関係者のコミュニケーションが向上し、一人一人の個性や成長度合いを関係者が共通認識を持つことになり、結果、一人一人に寄り添った支援が実現しやすくなると期待される。

※調査結果(サマリー)については、こちらからダウンロードしてください。
・保育の質に関するアンケート結果報告書<保育者調査>
・保育の質に関するアンケート結果報告書<保護者調査>

【本件に関するお問い合わせ】
 リサーチ・コンサルティング部門
 マネジャー 小幡京加
E-mail:obata.kyoka@jri.co.jp
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