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【北京便り】
中国における仮想発電所マーケットの現状について

2022年07月26日 王婷


 中国では、このところ、全国的に高温状態が続いています。多くの地域では最大電力負荷量の記録が繰り返し更新され、省エネやCO2排出目標を掲げている電力会社や地方政府は悲鳴を上げています。
 「仮想発電所」の概念が注目されるようになりました。仮想発電所とは、バーチャルパワープラント(VPP)ともいい、需要家側のエネルギーリソース、例えば電力系統に直接接続されている発電設備、蓄電設備の保有者もしくは第三者がそのエネルギーリソースを制御することで、発電所と同等の機能を提供することを指します。つまり、太陽光や風力、コジェネレーションなど分散型発電、エネルギー貯蔵施設、制御可能な負荷など、さまざまな種類の分散資源を統合し、最適な運転制御を実施することで、電力を供給するとともに、電力会社にピークカット、バックアップなどの補助サービスを提供するというものです。
 第14次5カ年計画は、初めて「エネルギー貯蔵施設、仮想発電所の整備を推進する」と明確に述べました。7月13日、住宅建設部と国家発展改革委員会をはじめとする政府機関が、共同で都市・農村建設分野におけるCO2排出ピークアウトの実施計画に関する通知を公表しました。この通知では、スマートマイクログリッド、蓄熱蓄電、負荷調整、仮想発電所などの技術応用を促進し、発電された再エネを優先的に消費し、需要側のデマンドレスポンスに積極的に参加することを明確に位置づけました。
 中国では、「仮想発電所」は2~30年前から検討されてはきましたが、13次5カ年計画期間中により重要視されるようになり、政府主導で実証も行われました。特に近年、「インターネット+」、「デジタル化」といった概念が流行するようになり、電力業界のデジタルトランスフォーメーション技術として大きく注目を集めるようになっています。
 現在、山東省、広東省などは、電力スポット取引市場への仮想発電所の参加を加速させており、河北省、江蘇省、江蘇省、広東省、上海など、多くの大規模な仮想発電所の実証プロジェクトが実現しています。需要家側の参加意欲の低さ、ビジネスモデルや基準の不備などの原因で、進展は遅く、まだ初期段階にあるといわれているのも事実です。
 2019年12月、中国初の仮想発電所である国家電網電力IoT仮想発電所の実証プロジェクトがスタートしました。実証の第1段階では、蓄熱式電気暖房、調整可能な産業施設や商業施設、スマートビル、スマートホーム、蓄電、電気自動車充電スポット、分散型太陽光発電など11種類の19の調整可能な施設に、リアルタイムのアクセスと制御を行いました。仮想発電容量は約16万キロワットでした。張家口、秦皇島、廊房の3つの都市をカバーし、秦皇島は仮想発電所の総合的実証地域として、張家口と廊房は、蓄熱電気ボイラー、大規模な産業負荷の特別実証地域として機能しました。
 最近、広州市産業情報技術局が2022年仮想発電所のリストを公表しています。リストには、7つの負荷アグリゲーターと41の電力需要家が含まれています。需要家をグリッドの運転調整に誘導し、ピークカットを実現し、広州市での最大負荷の約3%について応答能力を形成し、グリッドの信頼性と運用効率を向上させることを今後の目標にするといいます。
 現在、中国の仮想発電所は、デマンドレスポンスとピーク調整を収入源としており、十分なキャッシュフローを実現できていません。他方で、中国には潜在的に仮想発電所に参画できる電源が5,000万キロワット分あり、東北証券の予測によると、仮想発電所の市場規模が870億元に達するといわれています。確かに、関係者の参加意欲が低いこと、ビジネスモデルがまだ確立していないこと、ネットワークのデータ安全性が十分でないこと、データ権限や地域間グリッドのスケジューリングなどの曖昧さは、仮想発電所の発展を制約する要因といわれていますが、今後、これらの課題を解決できれば、大きな成長が見込める分野になるでしょう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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