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農業・農村のDX推進におけるニーズ調査

2022年07月22日 多田理紗子


 農業振興のための施策として、スマート農業の加速化と農業におけるDXの推進が掲げられています。株式会社日本総合研究所では、農業をはじめとしたビジネスと農村生活に関連する情報や機能をAI/IoT等のデジタル技術で一体化させて新しいサービスを開発し、農村におけるビジネスおよび生活の革新を目指す「農村DX(農村デジタルトランスフォーメーション)」を提唱しています。2019年には、地方自治体を会員とする農村DX協議会(注1)を立ち上げ、地方自治体の農政担当者や地域の農業者の皆様と様々な活動を展開してきました。この度、より多くの地方自治体の「農村DX」の推進に必要な施策を検討するため、農業・農村のDX推進におけるニーズ調査(以下、本調査)を実施しました(注2)

■本調査の主な結果
(1)農業・農村のDX推進にあたり、地方自治体が求める取り組み・支援
 ・「先進的な地域の事例についての情報提供」(66%)、「農業者や地域住民の問題意識やニーズについての情報提供」(44%)が上位に挙げられました(図1)。
 ・情報提供に関する項目を選択した地方自治体に対して追加ヒアリングを実施したところ、「他の地域の取り組みについて情報収集ができていない」、「デジタルやDXの重要性は感じているもののアイデアがない」、「農業者や地域住民の問題意識・ニーズについては、自身の地域での課題を把握するだけでなく、先進的な取り組みをしている地域の現場の声が聞きたい」など、先進的な事例を知り自らの地域の課題と照らし合わせて取り組みを検討したいという意見が確認されました。

図1 農業・農村のDX推進にあたり自治体が求める取り組み・支援


(2)関心のある「農村DX」のモデル
 ・「スマート農機やドローンを活用し、農地やインフラをまとめてモニタリングする取り組み」(46%)、「スマート農業技術を活用した高齢者の農業支援」(46%)、「地域ぐるみでスマート農機などをシェアリングして活用する取り組み」(37%)といったスマート農業に関わるモデルが上位に挙げられました(図2)。
 ・次いで、「地域内の目撃情報や捕獲情報を一元管理することによる効率的な鳥獣害対策への取り組み」(37%)、「生産過程のデータなどを活用した農産物の付加価値向上」(33%)といった、農業生産から派生する領域でのモデルが挙げられています。
 ・農業生産から派生する領域のモデルを回答した地方自治体に対して追加ヒアリングを実施したところ、中山間地域等スマート農業技術の活用が難しく導入が進んでいない地域ほど、鳥獣害対策や農産物輸送など、農業生産以上に地域の暮らしと大きく関わる領域でDXの必要性を強く感じていることが明らかになりました。また、暮らしに関わるDXの必要性を感じていても具体的な取り組みを実施している地方自治体は多くないこと、農業生産から派生する領域では農業分野を超えて他分野の関係者と連携する必要があるものの、地方自治体の農業関連部署にとっては分野を超えた連携のハードルが高いことも明らかになりました。

図2 農村DXで関心のあるモデル

■本調査結果から得られる示唆
(1)先行地域の事例や現場当事者の声等の情報提供ニーズ
 農業・農村のDXを推進するにあたり地方自治体が求めるものとしては、取り組みの検討に活かせる情報提供との回答が多く、その理由としてアイデア不足や現場当事者のニーズ把握の難しさが挙げられました。
 これまで農村DX協議会会員等の地方自治体に行ったインタビューでも、DX推進は、情報収集、取り組みのアイデア検討、取り組みの具体化、実施というプロセスで進めていることが明らかになっています。このことから、DX推進の入り口において、先行して取り組む地域の事例、現場当事者の声といった情報提供のニーズがあると考えられます。

(2)農業地域の暮らしにかかわる農村DXモデルに対する関心
 「農村DX」のモデルの中では、スマート農業に関わるものへの関心が特に高く、次いで農業地域での暮らしに関わるものへの関心が高いという結果になりました。一方で、農業分野だけでなく他の分野で地域に関わるステークホルダーとの連携が必要になるものの、分野を超えてDX推進を検討する場がほとんどないという声もあり、取り組みにおいては領域横断的な対話を支援するニーズがあると考えられます。

■農村DX協議会について
 ・2019年に日本総研が設立した農村DX協議会は、全国の地方自治体とともに農村DXの具体的なアイデアや実現手法を検討し、各地域における農村DXの推進・実現を目指すものです。
 ・2022年度は、上記の調査結果から得られた示唆を踏まえ、農村DXにつながる先進事例やアイデアの情報提供のほか、日本総研が農業分野をはじめとする様々な領域においてDXを推進してきた経験をもとに地域におけるDX推進のための対話促進を支援します。
 ・農村DX協議会の会員は、都道府県および市町村を対象とします。中央省庁、農業関連団体等はオブザーバーとしてご参加いただけます。また、入会費・会費はございません。
 ・本協議会へのご入会を希望・検討される方は、以下の資料をご覧いただき、以下の連絡先までご連絡ください。お申込書を送付させていただきます。
  農村DX協議会のご案内(PDF:800KB)

  創発戦略センター 農村DX協議会事務局 多田
  電話:080-7997-1424
  E-mail:100860-nousonDX@ml.jri.co.jp

(注1)「農村デジタルトランスフォーメーション協議会」設立について
   (ニュースリリース/2019年7月16日)
 
(注2):調査の実施方法
   調査対象:
   全国の地方自治体(農業政策もしくは農業全般の担当部署、農業関連部署のない17自治体を除く)
   調査期間および実施方法:
   メールアドレスが確認できた483自治体にはメール送付(2022年4月15日~2022年5月9日)、
   それ以外の1,288 自治体には郵送送付(2022年5月31日~2022年6月21日)
   アンケート回収後、回答自治体の一部に対して電話によるヒアリングを実施
   有効回答数:
  (第1回)56(11.6%)
  (第2回)632(49.1%)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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