コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

中国グリーン金融月報【2022年6月号】

2022年07月13日 王婷


「中国グリーン金融月報」6月号をお届けします。

1.今月のトピックス
中国銀行保険監督管理委員会、「銀行・保険業業務グリーン金融ガイドライン」を公表
 6月2日、中国銀行保険監督管理委員会が、「銀行・保険業業務グリーン金融ガイドライン」を公表した。6月1日より施行。ガイドラインでは、銀行や保険会社の取締役会や審議会がグリーン金融の主な責任を負い、グリーン金融の開発戦略を決定する責任があり、経営幹部はグリーン金融の目的の設定、メカニズムやプロセスの構築、責任と権限の明確化に責任を持つことを明確にした。また、銀行や保険会社はグリーン金融業務の指導・調整メカニズムを確立し、法令遵守とリスク管理を前提に、グリーン金融の制度や仕組みの革新を促すことを求めている。その他、投融資プロセスの管理、情報開示、銀行保険監督部門の管理監督とモニタリングについて明確にした。
2022-6-3 中国政府
http://www.gov.cn/xinwen/2022-06/03/content_5693847.htm
コメント:グリーン金融は、3060目標を実現するには必要不可欠なファクターであると位置づけられている。中国政府は、金融機関や民間の資金をグリーン産業へ誘導しようとしており、グリーンウォッシュを回避し、グリーン金融市場の健全な発展を推進するためには、組織管理、システム構築、能力開発、投資・資金調達プロセス、内部統制管理、認証、情報開示など様々な面で規制を強化する狙いである。

2.今月のニュース
(1)-① 中央政府・グリーン金融
【銀行間市場取引業協会】トランジションボンド発行の試行に関する通達

 中国銀行間市場取引業協会は気候変動目標に対応し、伝統産業のグリーン・低炭素化を支援する革新的トランジションボンド発行の試行を実施。
 パイロットとなる分野には、電力、建材、鉄鋼、非鉄、石油化学、化学、製紙、民間航空など8つの産業が含まれる。支援の対象については、第一に「グリーンボンド支援プロジェクトカタログ」に掲載されているが、技術的な目標を達成していないプロジェクトであること、第二にCO2排出ピークアウトやカーボンニュートラル達成の目標に適合し、汚染削減や炭素削減、エネルギー効率向上の効果を持つプロジェクトやその他の関連経済活動であることとされた。
2022-6-2 銀行間市場取引業協会
http://www.nafmii.org.cn/xhdt/202206/P020220606640809119251.pdf

【中国人民銀行】 「持続可能な金融の共通タクソノミーカタログ」の中国語更新版を発表
 昨年11月4日に公表された「持続可能な金融の共通タクソノミーカタログ」が、このほど改定され、公表された。今回の改訂においては、製造業と建設業の17の経済活動を新たに追加するとともに、一部の新活動が適用される関連技術規制・規格を追加した。
2022-6-20 新華財経
https://www.cnfin.com/lsfzzq-lb/detail/20220620/3642094_1.html

(1)-② 中央政府・「3060目標」、その他
【生態環境部等】 「国家気候変動適応戦略2035」を発表

 生態環境部、国家発展改革委員会、科学技術部など17の政府部門が、共同で「2035年気候変動国家適応戦略」を公表した。
 2013年に発表された「気候変動国家適応戦略」と比較すると、「適応戦略2035」の特徴は、第一に、気候変動の監視と早期警戒、リスク管理をより重視し、気候変動観測ネットワークの改善、気候変動の監視・予測・早期警戒の強化、気候変動の影響・リスク評価の強化、総合防災・減災などのタスクやイニシアティブが提案されていることである。第二に、自然生態系と経済社会系の2つの次元に分け、水資源、陸域生態系、海洋・沿岸域、農業・食料安全保障、健康・公衆衛生、インフラ・大規模プロジェクト、都市・人間居住、感度の高い2次と3次産業などの主要分野における適応課題を明記していることである。第三に、複数のレベルで気候変動適応の地域パターンを構築し、気候変動適応と領土空間計画を統合し、気候変動とその影響やリスクの地域差を考慮していることである。第四に、メカニズム構築と分野別調整にこれまで以上に注意を払い、組織と実施、財政・金融支援、科学技術支援、能力開発、国際協力、その他のセーフガード策をさらに強化していることである。
2022-6-14 中国政府網
http://www.gov.cn/xinwen/2022-06/14/content_5695549.htm

【交通部など】CO2排出ピークアウトやカーボンニュートラル要件に適合するよう、運行車両のエネルギー消費制限を設定
 6月24日、交通部、国家鉄道総局、中国民用航空局、国家郵政局は「新発展理念を完全かつ正確に全面的に貫徹し、CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルに関する中共中央・国務院の意見」を発表した。
 エネルギー効率の高い低炭素交通手段を推進し、純電気、水素燃料電池、再生可能な合成燃料の自動車や船舶のパイロットプロジェクトを実施する。新エネ車の適用を推進する。CO2排出ピークアウトやカーボンニュートラルの要件を満たすよう、運行車両のエネルギー消費制限の記入基準の作成と改訂、運行車両のエネルギー効率表示の改善、新造船のエネルギー効率設計指標要件の作成と技術規則への組み込みの検討、エネルギー効率の高い車両と船舶の選択と使用に関する業界の指導を実施する。
2022-6-27 北極星碳管家網
https://news.bjx.com.cn/html/20220627/1236224.shtm

【国務院】デジタル政府の建設の強化に関する指導意見
 6月6日に、国務院が「デジタル政府の建設の強化に関する指導意見」を公表した。指導意見では、デジタル政府建設の7つの主要なタスクを明確にした。政府の職務遂行と政府運営のデジタル化の推進、経済運営におけるビッグデータの監視・分析の強化、インテリジェントな監督の推進を通じて、効率的な政府運営を図ろうとする。うち、炭素排出のスマート監視と動的な会計システムの構築を加速し、CO2排出ピークアウトとカーボンニュートラルの実現を支援すると言及された。
2022-6-23 中国政府網
http://www.gov.cn/xinwen/2022-06/23/content_5697326.htm

(2)-① 地方政府・グリーン金融
【寧波】中国初の炭素クレジット格付けシステムの試験運用を開始

 6月1日、中国初の炭素クレジット格付けシステムの試験運用が寧波でスタートした。上海環境エネルギー取引所、復旦大学持続発展研究センター、清華大学グローバル証券市場研究院などが協力して、企業の炭素クレジット評価システム規範を起草し、中国初の炭素クレジット評価システムを開発した。
 炭素クレジット評価は「気候変動と炭素の二重目標」という重要な環境要因に対応する企業の適応力と競争力を評価するもので、一定期間内の企業の事業炭素排出状況や資産炭素排出状況を収集し、炭素クレジット評価基準を通じて炭素技術の進歩、炭素排出戦略、炭素排出削減システム、取引用炭素資産などを分析する。最終的には、AAA、AA、A、BBB、BB、B、CCC、CC、Cの9段階の格付けが行われる。
 寧波市の一部の金融機関は炭素クレジット評価システムを利用し、「グリーン低炭素+包括的金融」というコンセプトで、炭素クレジットパフォーマンスの良い、より多くの中小・零細企業に融資制度を提供する予定である。
2022-6-6 中国経済網
http://www.sinopecnews.com.cn/xnews/content/2022-06/06/content_7036057.html

【上海市】「浦東新区グリーン金融発展に関する若干の規定」を採択、個人炭素口座の設立を支持
 このほど上海市人民代表大会常務委員会第41回会議は、「上海浦東新区グリーン金融発展に関する若干の規定」を採択した。2022年7月1日に施行される予定である。
 規則では、企業の炭素排出実績や個人のグリーン・低炭素活動に関する情報を炭素勘定に組み入れ、炭素クレジットを形成し、それを基に優遇商品・サービスを提供することを明らかにした。
2022-6-23 解放日報
https://www.shanghai.gov.cn/nw4411/20220623/cf7dc095c74741ac9df308b01650951b.html

(2)-② 地方政府・「3060目標」、その他
【北京市】業界全体で炭素排出規制を実施、炭素排出量を環境アセスメントに記載へ
 北京市生態環境局はこの程、「建設プロジェクトの環境影響評価における炭素排出影響評価の試行実施に関する北京市生態環境局通知」を策定した。現段階では、業界全体の炭素排出管理が北京市の炭素排出管理の焦点となっている。
2022-6-22 中国環境報
https://www.cenews.com.cn/news.html?aid=985428

【深セン市】国内初住民向け電力ポイント制アプリケーションを公開
 深セン市供電局、深セン市生態環境局、深セン市排出権取引所が共同で設立した国内初の低炭素電力ポイント制アプリケーションが、南方電網のAPPなどで公開された。深セン市民であれば、問い合わせたり、利用したりすることができる。2023年より、深セン排出権取引所は、低炭素生活のインセンティブとして、認可された住民の排出削減量を取引プラットフォームで展開し、エネルギー多消費の社会団体や企業に販売する予定。
2022-6-17 国家能源局
http://www.nea.gov.cn/2022-06/17/c_1310625680.htm


(3) 業界・金融機関
【中国銀行】更新された「持続可能な金融の共通タクソノミーカタログ」に基づくグリーンボンドを発行
 6月9日、中国銀行フランクフルト支店は、改正した共通タクソノミーカタログに基づく初のグリーンボンド5億米ドルを発行し、中国、ドイツ、オランダなど多くの国のグリーンプロジェクトに資金を提供した。
 このボンドに対応するグリーンプロジェクトには風力発電、揚水発電、都市鉄道輸送、純電気バス、エネルギー効率の高い機器製造など、複数の産業分野に該当する経済活動が含まれ、このうちエネルギー効率の高い機器製造プロジェクトは共通タクソノミーカタログに追加される活動の一つである。
2022-6-10 
https://www.boc.cn/aboutboc/bi1/202206/t20220610_21261823.html

【中国環境保護連合会】社会団体が炭素排出量データ改ざんで初の公益訴訟を提起
 最近、中国炭素能投資技術(北京)有限公司などを被告として、生態環境保護に関する民事公益訴訟が北京市第四中級人民法院に提起された。これは社会団体が提起した炭素排出データ改ざんと国家炭素取引市場の安全性確保に関する公益訴訟事件の第一弾である。
 中国環境保護連合会は、中国の炭素排出権取引市場をさらに改善するために、公益訴訟を通じて関連制度の確立を推進したいと考えている。
2022-6-23 中国环境報
https://www.cenews.com.cn/news.html?aid=985806

【華能国際電力など】低炭素移行を支援する新しい資金が登場、国内初の22.9億元トランジションボンドが発行
 6月22日、国内初のトランジションボンドの発行に成功した。ボンドの発行体は華能国際電力有限公司、大唐国際電力有限公司、中国アルミニウム集団有限公司、山東鉄鋼集団有限公司、万華化工集団有限公司の5社である。
 5つのボンドによって合計22.9億元が調達され、そのうち山東鋼鉄が発行したボンドは10億元の調達であった。
 ガスコージェネレーションプロジェクト、高井ガスコージェネレーションプロジェクト、生産ライン環境保護・省エネ技術向上プロジェクト、新旧エネルギー変換システム最適化・向上削減・代替プロジェクトに資金が提供された。
2022-6-24 界面新聞
https://www.163.com/dy/article/HALF8PD10534A4SC.html


3. 王の視点
中国、3060目標の実現と資金確保
 6月24日、中国財務部のホームページで2022年の再エネ補助金・地方資金予算の通達が公表されました。補助金総額は27.5億万元で、うち、風力発電は14.7億元、太陽光発電は12.5億元、バイオマスは2890万元となっています。再エネ関連で、2022年には2回の補助金が支給され、前回の39.6億元と合わせて、合計67億元が支給されることになります。ただ、今回は地方の再エネプロジェクトに対する補助分で、別途、国家電網と南方電網に対する補助金が支給されるそうです。詳細な数字は公開されないそうですが、2021年度国家電網に対する再エネ補助金の予算は760億元といわれています。
 これまで財政部をはじめ、中国政府各部局が歳出した再エネ、新エネ車、省エネ、エネルギー効率向上などを名目とする補助金の規模は年間約5000億元に達したとの統計があります。
 とはいうものの、中国政府が掲げている3060目標に必要な資金と比べれば、5000億元という数字は焼け石に水のようなものです。中国全体のグリーン投資需要については、様々な機関が試算数字を出しています。とりわけ、清華大学と中金投資の両機関が出した数字がよく引用されていますが、138~139兆元となっています。さらに、中金投資の試算によると、2021年から2030年までのグリーン投資需要は約22兆元、2031年から2060年までのグリーン投資需要は約117兆元です。分野別でみると、電力セクターの投資需要が最大で、約67.4兆元、次いで交通と建設業で、それぞれ37.4兆元、22.3兆元となっています。
 3060目標を実現するために、これほど莫大な資金をどこから調達するのでしょうか。
実際、中国では金融市場がそれほど発達していないことから、商業銀行が重要な役割を果たすことになるでしょう。企業の資金需要のうち、銀行からの調達が70~80%を占めるといわれています。中国人民銀行が発表した金融機関の投融資報告書によると、2021年末までに国内外のグリーンローン残高は17.78兆元となり、世界一のグリーン融資の規模となっています。同じ時期、国家統計局の統計によると、社会課題全体に向けられた金融の規模は300兆元で、そこから考えるとグリーン融資はさらに増大する余地があると考えられます。実際、グリーンボンドやグリーン証券、カーボンニュートラル証券などの発行の勢いは旺盛で、金融商品の数も種類も年々豊富になっています。「中国責任投資2021」によると、2021年末までグリーンボンド残高は1.65兆元、持続発展リンクローンが311億元、ESGファンドが7,492億元、持続的発展関連の理財商品が1,368億元に上るとのことです。
 政府の補助金や金融機関からの直接融資だけでは、莫大な資金需要は到底カバーできず、加えて、民間資金の活用が重要な位置づけになるでしょう。グリーン産業ファンドやベンチャーキャピタルや非上場株式投資などで、省エネや新エネ技術、グリーン低炭素分野への参入をいかに加速させるかが政府にとって次の重要な施策になります。これまで中国では、政府が主導する産業振興において、政府資金と民間資金を組み合わせた官民共同の産業投資ファンドが技術開発や市場開拓に大きく貢献してきました。今後グリーン分野でも、さらに複数の共同ファンドが立ち上がるでしょう。2018年6月に財政部、生態環境部、上海市政府が発案し、国家発展改革委員会が共同で設立した国家グリーン発展基金も政府主導型産業投資基金です。財政部と揚子江沿岸の11の都市が合計286億元、金融機関が575億元、国有と民間企業が24億元を出資しました。2016年以後、各地方政府も社会資本と共同で、グリーン産業ファンドやグリーン開発ファンドを設立しています。2021年には、グリーン産業基金の規模が1,176億元に上ったといわれています。
 昨年からスタートした全国統一排出権取引所も資金調達の手段になるでしょう。現在電力1業種で年間約40憶トンの炭素が取引される市場ですが、14次5カ年計画中に8業種がすべて全国市場に組み入れる予定で、取引規模がさらに大きくなります。また、現在、取引価格はトン当たり50元ですが、今後200元程度になる見込みといわれています。炭素関連先物などの金融商品が増えることで、排出権取引市場は3060目標の実現に大きく貢献するでしょう。
 中国にとって、3060目標の実現には容易なことではありません。それをけん引するため、政策と資金の力が欠かせません。グリーン投融資を動員するとともに、グリーンウォッシュを回避するために、中国政府はグリーン金融関連の統一基準構築、認証制度、情報開示、管理監督体制などの整備を加速させています。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ