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CSRを巡る動き:ISSBによる気候関連開示案の概要とその影響

2022年07月01日 ESGリサーチセンター


 IFRS財団傘下の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、2022年3月31日、①「サステナビリティ関連の財務情報の開示に関する全般的要求事項」、②「気候関連開示」の基準案を公表しました。①はサステナビリティ全般に関して、②は特に気候変動問題に焦点を当てて、従来乱立していた情報開示方法の統一基準を作ることを目指そうというものです。ISSBは本取組を進めるために、既存の開示基準の設定機関である価値報告財団(Value Reporting Foundation)と気候変動開示基準委員会(CDSB)を2022年6月までに統合することも公表しています。また、これらの動きに対して、TCFD事務局長は「ISSBの作業を歓迎する」というコメントを発表しています。

 新基準案のうち、「気候関連開示案」の内容は「ガバナンス」・「戦略」・「リスク管理」・「指標と目標」の4項目から構成されており、概ねTCFD提言の延長線上としてまとめられている印象です。しかし、TCFD提言と比べると、気候関連リスク・機会が企業の財務・キャッシュフロー等に与える影響や、GHGの絶対総排出量、業界毎に定める指標等を定量的に開示することを定めている点が大きな特徴となります。加えて、2021年10月のTCFD「指標と目標」新ガイダンスで、「自社以外のサプライチェーンにおけるGHG排出量を意味するScope3には、重要性の基準を適用し『開示を強く推奨』する」とされていたものが、今回の開示案では「開示しなければならない」(an entity shall include upstream and downstream emissions in its measure of Scope 3 emissions)と明記された点も目を惹きました。

 新基準案のメリット・デメリットについてみれば、メリットは、①上述の通り、TCFD提言では企業側に委ねられていた開示項目が国内外を含めて統一化されることで、特に投資家が、同一の基準で企業の気候変動への取組みを評価できるようになる点、②現状対比開示項目が増加且つ詳細になるため、個別企業毎の気候変動対策がより深化することが想定される点、等が挙げられます。一方、デメリットは、①「メリット②」の裏返しとなりますが、開示項目の増加に伴い、企業側の対応・開示コストが嵩むことが想定される点、②国毎に法や規制が異なる中で、開示された情報の信頼性を確保できるのか、等が挙げられます。

 ISSBは今回公表した草案について、2022年中に新基準として発行することを目指しています。パブリックコメント等を通じて、各国・企業にとってより公平且つ透明性の高い制度設計となるよう意見が反映されるのかが注目されます。
 日本においては、IFRS会計基準と同様に、各企業がISSB基準を適用するかどうか任意で判断することになると想定されます。ただ、気候変動対応の議論をリードする欧米企業が本基準案への対応を進め、機関投資家も本基準案を活用する動きを強めていくのであれば、日本企業も安易に適用しないとは決断できません。上場企業を中心に、ESG・サステナビリティに関して高い評価を得る、もしくは対応しないことによるレピュテーションリスクを避ける、といったことを目的に、本基準の適用が得策になる可能性があります。
 そのため、各企業においては、現状のTCFD提言が求める開示事項への対応を拡充するとともに、ISSB草案の内容に目を通し、自社の対応として不足している箇所を確認しておくことが重要と考えられます。

 また、機関投資家・金融機関の目線からみれば、従来、企業の業績・財務面と気候変動対応を含めたサステナビリティ面は依然として別個に評価されてきましたが、ISSBの基準普及を通じて、両者を融合した企業価値評価等新たな分析手法を開発することが急務となるでしょう。

本記事問い合わせ:小林 建介


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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