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多様な資本のリジェネレーション

2022年06月14日 今泉翔一朗


 ローマ・クラブが「成長の限界」を1972年に発表してから、ちょうど50年になります。「成長の限界」は、システム・ダイナミクスの手法を用いて、世界人口、工業化、汚染、食糧生産、および資源使用の関係性を分析し、”これら要素の成長率が不変のまま続くならば、来るべき100年以内に地球上の成長は限界点に到達するであろう”と指摘したのでした。
 「成長の限界」が発表されて、「持続可能性」の議論は一定の進展を見ましたが、「成長の限界」が指摘した、成長の限界に至るだろうとされたシステム自体には、必ずしも大きな変化は生じていません。すなわち、工業化(≒経済発展)が進めば進むほどに、工業化の制約条件が増加するというフィードバック・ループが組み込まれたシステムです。

 言い換えるなら、これは金融資本(財務資本とも)や製造設備やインフラなどの製造資本が蓄積、拡大していくにしたがって、自然資本が毀損していくという関係性を表わしています。本稿では、”資本”の含意に立ち返り、金融資本以外の多様な資本も、単に活用され、減耗していくというのではなく、再生産(リジェネレーション)されるというパラダイムシフトと、その実現に向けたポイントの概略を述べたいと思います。

 「成長の限界」の筆頭執筆者であったドネラ・メドウズは、「システムの”目標”を変化させること」が必要だと指摘しました。その含意するところは、企業もしくは投資家が追求する対象を金融資本だけでなく、”多様な資本の維持・成長も目標とする”システムに移行する必要があるということだと考えます。金融資本だけでなく、多様な資本の再生産自体が企業の活動目標となるパラダイムです。もちろん、再生産の定義・方法については継続的な検討が必要です。たとえば自然資本の再生産については、植林等だけに限定するのではなく、森林を管理するためのセンサー技術の出現や、従来あった森林を補償・代替(ミティゲーション)するためのイノベーション手法の開発も再生産の目標の範疇に含めてよいと言えるかもしれません。

 そのような経済システムへの変容のために検討すべきことは多岐にわたりますが、ポイントは3つあると考えています。

1. 資本の価値の認識
 価値があると認識しなければ、それらを資本として認識することができません。たとえば、自然資本と一口に言っても、食料を供給する土地、海水魚を育むサンゴ礁、二酸化炭素を吸収するアマゾンの森林等々、さまざまな特性があります。価値を認識する方法論の整理・検討と認識された価値のたな卸しが、まず必要です。

2. 資本の価値の定量化

 資本の価値が認識できたら、次には、その管理するために、価値の定量化が必要です。これには、「自然の価値を定量化して、大きい、小さいと述べることに、荒唐無稽だ」という批判があるのも事実です。しかし、企業が環境・社会に与える正/負の影響を、定性/定量/金銭換算して評価する方法に関して、さまざまな試行錯誤がなされていると同様に、自然資本についても大いに議論を進めていくべきでしょう。

3. 資本の管理
 資本の価値を定量化できたら、その資本の現状水準と利用量/再生産量を管理することが可能になるでしょう。そのためには、管理者、制度、ツール等の設計・整備が必要です。金融資本のアナロジーを活用しつつ、自然資本をはじめとする多様な資本ならではの検討が必要になるでしょう。
 たとえば、管理者の在り方が例として挙げられます。金融資本の場合は、金融資本のストック量に応じて、その増加は指数関数的に実現することから、管理者の集約化が進みやすい傾向があります(投資家の巨大化、金融機関の集約化など)。他方で、たとえば自然資本の場合は、自然資本を的確に管理するといっても、その増加は必ずしも指数関数的にはならないので、ローカルな単位で分散的に管理される可能性が高くなるといえます。
 ここで、分散型の管理については、最近、Web3、すなわち、ブロックチェーン技術に基づく分散型のデータ流通、またそれに基づく分散型自律組織(DAO)が勃興しているので、そこにヒントがあるかもしれません。実際、ブロックチェーンに基づいて、カーボンクレジットと紐づくトークンを発行・流通する仕組みも登場しています。

 以上、ちょうど50年のローマ・クラブ「成長の限界」を起点に、パラダイムシフトへの展望とそのポイントをスケッチしてみました。本稿では、自然資本を中心に取り上げましたが、この再生産(リジェネレーション)の発想は、金融資本と人的資本との関係にも適用可能(すなわち、工業化の進展とともに人が痛めつけられていくのとは反対に、人が知識、スキル、能力を拡張していくシステム)ではないかと考えています。今後、より具体的に、多様な価値の認識、定量化、Web3も含めた管理について検討し、情報発信していきたいと思います。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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