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アジア・マンスリー 2022年6月号

カーボンプライシングを巡るアジアの動き

2022年05月26日 熊谷章太郎


アジア諸国のカーボンプライシングの導入状況は国ごとに大きなばらつきがあるが、総じてみれば排出権取引制度が整備される一方、炭素税の導入は進んでいない。

■カーボンプライシングへの関心が高まるアジア
世界的に環境志向が強まるなか、アジア各国はGHG(温室効果ガス)の削減に向けて、環境負荷の少ない生産・消費体制の構築を進めている。具体的には、①ガソリン車からEV(電気自動車)へのシフト、②鉄鋼製品の生産方式の見直し(高炉から電炉への生産シフト、高炉における水素を活用した製鉄)、③再生可能エネルギーの導入拡大などに注力している。これに関連して注目を集めているのがカーボンプライシングである。カーボンプライシングは、温室効果ガスの排出に伴う社会的コストを「見える化」し、環境負荷の軽減に向けた取り組みを後押しするとともに、環境対策に必要な税源を確保することを可能とする。

カーボンプライシングは大きく分けて排出権取引と炭素税の二種類があり、それぞれ一長一短がある。前者は排出主体の排出量の上限が政府により決定され、排出上限を超える企業は他の企業から排出権を購入するというものである。全体の排出削減量を見通しやすいという長所がある一方、排出権の取引制度が複雑になりやすいことに加え、取引価格が安定しにくいといった短所がある。

これに対して炭素税は、排出量あたりの税額は固定されており、制度がシンプルという長所を持つ一方、排出量の上限が設定されておらず排出削減量を見通しにくいという短所を持つ。排出権取引制度と炭素税に共通した課題は、各経済主体の排出量の詳細な測定が困難であるため、取引制度や課税の対象が大企業に限られる点である。

このような点を踏まえて、各国は排出量取引制度と炭素税に加えて、エネルギー生産・消費に関する税制の変更を組み合わせながら、現実的な制度の構築を模索している。環境対策で先行する欧州はこれらの取り組みに加え、環境規制の緩い国からの輸入品に対して事実上の関税といえる国境炭素税を導入し、域外の排出量の削減を促すことを目指している。
欧州の先進的な取り組みが注目を集めているが、世界全体の排出量の削減の行方は、中国、インド、ASEANといった世界GHG排出量の約4割を占めるアジアでどのようなカーボンプライシングが導入されるかに左右される。

■アジア諸国の多くは排出権取引制度の整備に注力
アジアのカーボンプライシングの導入状況は国ごとにばらつきがあるが、総じてみれば炭素税の導入よりも排出権取引制度の整備が進んでいる。これまで一部の地域で排出権取引制度を導入していた中国は、2021年7月、全国統一の排出権取引市場の運営を開始した。タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナムも、一部の業種について排出権取引制度を導入することを計画しており、それに向けた試験的な取り組みを進めている。また、香港とシンガポールは、排出権取引に関わる金融商品の組成と取引の拡大を推進している。インドでは、CO2排出権取引制度は導入されていないものの、大気汚染の解消に向けてグジャラート州がPM2.5(微小粒子状物資)の排出権取引制度を導入するなど、独自の動きが見られる。

他方、炭素税については、2019年に同税を導入したシンガポールが2030年にかけて税額を大幅に引き上げることを計画しているが、それ以外の国は短期的には景気を悪化させかねない炭素税の導入に慎重な姿勢を示している。炭素リーケージ(排出規制が緩い国への生産シフト)を防ぐべく、世界統一の最低炭素税の導入がIMFなどの国際機関から提案されているが、低所得に起因する様々な経済・社会問題を抱えるアジア諸国は同案に反発すると予想され、国際協調は難航する公算が大きい。
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