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【北京便り】
個人の暮らしとカーボンニュートラル

2022年05月24日 王婷


 カーボンニュートラルは、政府と企業が取り組むべきことで、個人の暮らしとの関係性は薄いと思っていたのですが、最近、中国では、炭素削減にかかわる商品やサービスなどが個人のライフスタイルに浸透しつつあります。
 最近、目立った出来事としてあるのは、中信銀行、民生銀行、浦発銀行、平安銀行などの商業銀行が個人に「炭素口座」の仕組みを導入したことです。「炭素口座」は、個人が日常生活で炭素削減活動を実践することで、節約した炭素をポイントに換算し、そのポイントを、金融機関が提供する利用割引など様々な特典に直接交換できるという仕組みです。中国では銀行版アントフォーレストとも言われています。

 5月に平安銀行が「低炭素家園」というカーボンアカウントをリリースしました。平安銀行のクレジットカードと銀行カードの利用者を対象に、カーボンアカウントを発行します。利用者は、公共交通機関の利用、地下鉄の利用、公共料金の電子決済による支払い、自転車シェアリング、新エネの充電、高速鉄道の利用という6つのグリーン活動で、CO2削減量が記録されると同時に、「グリーンパワー」という一種のクーポンを獲得することができます。削減されたCO2排出量は個人のアカウントに計上されます。ここでのCO2削減量の計算は、上海環境取引所の指導に基づき作成されており、権威のあるものです。その他電子決済利用や電子クレジットカード利用など多数のグリーン行動で「グリーンパワー」クーポンを獲得できます。この「グリーンパワー」クーポンを使い植林の公益活動に参加することができますし、平安銀行が提示する自転車券、バス・地下鉄券、デジタルグッズなど、多くの特典と交換することができます。
 4月に中信銀行がリリースした「中信カーボンアカウント」は、中信クレジットカード「動卡空間」アプリをベースに構築されたもので、電子クレジットカードの決裁、電子請求書、水道・電気・ガス料金のオンライン決済などのような個人の低炭素活動データを収集し、個人の炭素排出量を累計する仕組みとなっています。こうした活動を通じて毎年200万トン以上のCO2排出量を削減できると試算されています。
 浦東発展銀行も炭素口座にあたるグリーンクレジットのサービスを提供しています。利用者が一定のグリーン目標ポイントに達すると、基本手数料の免除、迅速な承認ルート、グリーン財務アドバイザーからの助言提供などの特典を受けることができると言います。
 これらはすべて銀行のAPPで利用することができるのです。

 個人がカーボンニュートラルにかわる道筋としては、このほかに3つあります。
 炭素排出権取引に参加することが一つ目です。生態環境部の「炭素排出権取引管理弁法(試行)」では、個人が国家炭素排出権取引市場の取引主体の一つとして、炭素排出権取引に参加することができるとされています。例えば、深圳市炭素取引モデル事業において、個人が炭素排出枠を購入し、見合った利益を得た個人投資家も出現しています。
 4月に北京市生態環境局が公表した「2022年北京市重点炭素排出単位の管理と炭素排出権取引の試行に関するモデル事業」でも、個人が低炭素交通を通じて炭素取引に参加することを認めるようになりました。低炭素移動には、公共交通機関、鉄道、徒歩、自転車、ライドシェアが含まれます。低炭素移動プロジェクト開発の資格を有する機関は、北京市温室効果ガス自主的排出削減方法論に基づき低炭素移動プロジェクトを開発・実施することが推奨され、個人がこのようなプロジェクトに参画することができるのです。

 二つ目は、炭素ポイントシステムに参画することです。カーボン金融の代表的な商品として、上海や深圳、広東省など炭素ポイントシステムを構築する動きが進んでいます。2021年12月の「深圳市炭素ポイントシステム建設作業計画に関する通達」や、今年3月の「上海市炭素ポイントシステム構築活動方案(意見募集案)」で公表されたように、個人が低炭素活動を通じて、様々な優遇サービスを享受できるようにするとともに、獲得したポイントを炭素取引市場で取引し収益を上げる仕組みも検討されています。

 三つ目は、投資機関や金融機関が発行する炭素関連のETFや債券、ESG関連の投資商品を購入することです。中国では、2016年以来、ESGやグリーンボンドなどの金融商品が多数発売されていて、一般的な投資商品と比べ収益が安定的だとの評判で、中国の個人投資家の間でも注目されています。
 このように、中国では個人の暮らしとカーボンニュートラルとの距離が一気に近づいているとの感覚が日に日に強くなっていると思います。「中国ならでは」と言ってしまえばそれまでですが、こうした一種の社会実験が、新たなビジネスを生み出していく可能性に、ポジティブに注目したいと思います。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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