JRIレビュー Vol.5,No.100 スタートアップからスケールアップへ:ユニコーン創出に向けた日本の課題 2022年06月01日 岩崎薫里日本のスタートアップの事業環境は従来に比べて大幅に改善している。主な改善点としては、①サポート人材・組織の拡充、②政府による積極支援、③社会的認知度の向上、④優秀な人材の流入、⑤実質的なセーフティネットの整備、の5点が指摘できる。こうした状況は海外投資家の目にも留まり、海外マネーの流入増につながった。もっとも、日本のスタートアップの絶対数は依然として少ないうえ、スケールアップ、すなわち、大きく成長するスタートアップの数が圧倒的に少ない。スタートアップのスケールアップは、将来の大企業の創出に加えて、経済・社会の活性化や課題解決の観点からも重要である。スタートアップがスケールアップに成功したとする帰結の一つがユニコーン(推定時価総額10億ドル以上の未上場企業)の仲間入りである。ユニコーン礼賛の風潮には弊害があるものの、スケールアップの一環として日本にユニコーンを増やすための方策を検討することは意義がある。そこで、最近になってユニコーンの創出を増やしているフランス、カナダ、シンガポール、韓国の4カ国、および日本についてみると、ユニコーンの共通点として、①政府による積極的な促進策に支えられ、②グローバル化を進めつつ、③自国の特質を活用する、という三つを見出すことができる。なお、2点目のグローバル化には、事業の海外展開に加えて、海外投資家からの資金調達も含まれる。日本ではすでに積極的なスタートアップ促進策が講じられている点を踏まえると、より多くのスタートアップがスケールアップするためには、第1に、海外展開が一つの有効策である。第2に、国内で大口の資金調達がしづらいというハンディキャップは、海外からの調達で克服することができる。第3に、日本の研究開発力が世界トップクラスである点を踏まえて、日本の特性としての研究成果を活用し、様々な社会課題を解決することがビジネスチャンスとなり得る。第4に、あらゆる面で充実した事業環境でなくても、スタートアップのスケールアップは可能である。今回取り上げた4カ国も、様々な課題を抱えつつも、ユニコーンを増やすことができた。これらの実現に向けて重要になるのは「オープン&コネクト」、すなわち、開かれた環境のもとで異なる背景をもつ人の交流・連携を促進することである。スタートアップは外国人や海外での事業経験のある人をチームメンバーに入れるなどグローバルチームづくりを進める一方で、大学などの研究機関は民間との人の交流を増やし、研究者と経営者がタッグを組んで研究成果の事業化を進める、などが考えられる。さらに、世界的に「オープン&コネクト」を実践するには、英語での情報発信や世界のスタートアップ・イベントへの参加を通じて、自ら世界に向けて積極的にアピールしていくことが肝要である。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます) 関連リンクJRIレビュー 2022 Vol.5,No.100・コロナ危機後の量的引き締め(QT)局面におけるイングランド銀行の金融政策運営-透明なリスク管理の枠組みと政府との連携(PDF:1350KB)・健康支出(Health expenditure)における予防支出推計の改善に向けて-「社会保障施策に要する経費」を用いた再推計(PDF:545KB)・スタートアップからスケールアップへ:ユニコーン創出に向けた日本の課題(PDF:1057KB)・感染症危機管理の法制度はどうあるべきか-台湾・韓国からの示唆(PDF:2026KB)