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多様な担い手で広がる「農業支援サービス」

2022年05月24日 多田理紗子


 民間事業者が事業として農業に関わるというと、農産物の生産を行う「農業参入」のイメージをお持ちの方が多いのではないだろうか。しかし、農業関連のビジネスは農業参入だけではない。近年では、事業者が農業支援サービスの担い手として農業との関わりを持ち始めるケースがいくつも見られている。

 農業支援サービスとは、農林水産省によれば、「農業現場における作業代行やスマート農業技術の有効活用による生産性向上支援等、農業者に対してサービスを提供することで対価を得る業種のこと」である。具体的には、スマート農機を活用して農作業を受託するサービスや、農機をシェアリングするサービス、農業現場への人材を供給するサービス、農業現場のデータを分析するサービス等で、農業を支援するサービスが広く農業支援サービスと呼ばれている。

 農業支援サービスが注目されるのは、農業の抱える課題が依然、山積していることの裏返しでもある。農業就業者数が減少し続ける中で、農業生産の維持・拡大を図るには労働生産性向上と労働力確保が不可欠であり、解決策としてスマート農業技術への期待が高まっている。「未来投資戦略2018」では、2025年までに農業の担い手のほぼすべてが、データを活用した農業を実践するという目標が掲げられ、スマート農業技術の導入やデータの活用はスピード感を持って推進されている。しかし、個々の農業者にとって、スマート農業技術の導入やデータ活用には経済的・技術的な制約が大きく、直ちに進めることができる農業者は決して多くない。
 そこで、スマート農業技術を活用した「サービス」を提供する事業者が出現し、活用の裾野を広げることで、農業者のコスト負担を軽減しながら現場で新しい技術が活用されるという状況が生まれてきた。こういった動きをいち早く捉え、農林水産省は、従来から農村部で行われている収穫作業の受委託等を含め、農業経営をサポートするサービスを総称して「農業支援サービス」と定義し、サービスの普及・定着を推進する施策に着手している。

 これまで農業に関わる作業をすべて自らの手で行っていた農業者にとって、事業者が提供する農業支援サービスを有償で利用することには抵抗感があるという指摘もある。一方で、サービスを利用した農業者からは、使ってみるととてもよかった、有償でも利用したいという声が聞かれるのも事実だ。また、農業支援サービスは、農林水産省が推進する「農村発イノベーション」のひとつになり得るものとも捉えられ、今後ますます注目が集まるだろう。

 農業支援サービスの担い手は、従来から農業に関連する業種の事業者とは限らない。もちろん農業と関わりの深いプレイヤーが農業支援サービスを提供するケースは多く、農薬や農機の販売を本業とする事業者がドローンを活用した農薬散布受託サービスを提供する、JAが繁忙期の農業現場に人材を供給するサービスを提供するといった例が見られる。一方で、これまで農業に関係してこなかった事業者が新たにサービスを提供するケースも増えている。具体的には、システム関連事業者が農業のデータ分析サービスを開発したり、観光業者が農業への人材供給サービスを開始して観光業の人材を農業現場に送り込んだりという例がある。
 農業外から参入する場合の最大のハードルは、現場との関係構築であり、農業現場における課題の把握や最初の顧客の獲得に苦労することもあるだろう。ただ、農業者とのつながりが強いパートナーと組む等して農業現場との信頼関係を構築することができれば、現場の課題を解決する農業支援サービスの担い手となり得る余地は十分にある。農業外の事業者は、これまでに農業分野になかった視点を取り入れたり、農業に関わってこなかった人材を農業に関わらせたりすることで、革新的なサービスを生む可能性を持っている。今後も多様な担い手によって農業現場の課題解決に資するサービスが生まれ、農業の維持拡大につながることを期待したい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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