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一人ひとりの未来を糸口に地域の未来を想像する

2022年05月24日 山崎香織


 「40代からはじめるエンディングノート」(注1)を書いてみようと思い立った。説明書きには「半生を”棚卸し”して”こうしたい”を見つけるための人生ノート」とあり、過去を振り返って、これからやりたいことを書くことを推奨している。しかし、正直、なかなか筆が進まない。棚卸しのページに貼る写真やコメントが増えるばかりで、ほぼアルバムと化している。現在の延長線でやりたい事柄を挙げることはできるが、10年後、20年後と発想を広げたり、具体的にエンディングを考えたりすることは、心理的な抵抗もあって簡単ではない。

 一方、「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」(主催:森美術館、NHK)(注2)を以前訪れた際に、受けた印象が記憶に残っている。アームロボットが患者の腕をさすって看取りをする映像を見た時に、自分が患者になるというシーンを具体的にはっきりと想像できた。これは《末期医療ロボット》(2018年、ダン・K・チェン)という作品で、「自分がこの立場になったとしたら」を強く問いかけるものだった。「そういう未来もあり」と感じる人もいれば、「なんだか嫌だ」と感じる人もいるだろうが、いずれにせよ多様な未来予想図の一つに遭遇することで、発見や違和感を得て、自分の未来についての発想も広がると感じた。

 個人のエンディングを含めた「未来」を考えることは、地域の「未来」を考えることにも大きく関係する。これまでは団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途とした地域の各種計画が策定・実施されてきたが、2025年が目前に近づくにつれ、近年では高齢者人口がピークを迎える2040年を目標に掲げる場面が増えてきた。そうすると人口減少局面での20年後の姿を考えることになり、なかなかイメージが湧かないという課題が現れている。

 計画策定の初期段階では、市町村全体での実績値や、現状を踏まえた推計値が示されることが多いが、数字の羅列から地域の「未来」を具体的に想像するのは難しい。そのような時は、架空の住民(ペルソナ)を設定することを勧めたい。その一人の未来を考えながら生活場面に即したデータを見ることで、これから何が課題になりそうかをイメージしやすくなる効果がある。
 
 例えば、慢性疾患を抱えた80代の住民が買物や通院・入退院をする場面を取り上げ、社会資源に関する推計値を参照しながら、生じうる問題を出し合って対応策を考えるといった検討の方法が挙げられる。このような機会を設けることで、自治体職員や、住民、事業者など地域の関係者が「これは自分自身や周りの人に関係があることだ」とより実感し、具体的なアイデアや施策を発案しやすくなる。

 また市町村全体のデータをもとに、生活実感の湧くデータに落とし込むことも意味がある。例えば子どもや高齢者に関わる施策の場合は、徒歩圏内、つまり中学校区・小学校区別で見るのが有効である。他方で、買物や通院などは市町村の境界線で区切ることは適切とは限らない。検討テーマに応じた地域の単位、範囲を設定することが肝要である。

 さらに上述の映像作品の例のように、いつか地域で活用されそうな新しい技術を実際に体験してもらったり、推計・想像した事柄を映像で見てもらったりする取り組みも、未来に対する想像を広げる重要な手掛かりになるだろう。当社が地域とともに未来を考える際にも、数字や文字をただ眺めるだけでなく、身体全体で「体感」できるような仕掛けを心掛けていきたい。

(注1)【EDIT】40代から始めるエンディングノート
(注2)未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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