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電気自動車(EV)の普及で期待される電池の循環市場形成

2022年05月11日 木通秀樹


 世界各国で2030年前後でのガソリン車販売禁止の政策導入が加速しつつある。これを梃子に、電気自動車(EV)販売も急成長し始めている。2021年の世界のEV販売台数は前年比2倍の650万台に達したという。ハイブリッド車の販売台数649万台に追いつき、予想より速いスピードでハイブリッドを抜き去ろうとしている。他方、EVが普及すれば、大量の電池が生産・廃棄されることになる。こうした電池の大量利用は電池という製品を取り巻く課題を表面化させ始めている。EVのさらなる普及と電池価値の最大化に向け、早期の課題解決が求められる。

 EVの普及と電池価値最大化を促進する上での課題は主に3つある。以下に課題とその内容を示す。
 一つ目は中古EV評価の課題である。EVの性能を決めるのは主に電池であり、いかに航続距離を延ばし、長持ちさせるかという開発競争が繰り広げられている。この結果、積載量が年々増加する傾向にある。電池は走行距離や利用状態、温度などの利用環境の影響で劣化の度合いが変わる。劣化すると走行距離が短くなるが、どの程度劣化しているかは客観的には把握しにくい。このため、2,3年落ちの中古車でも新車の半額程度の価格で流通することが多く、適正なEVの中古販売市場の形成がなかなか進まないのが現状である。中古市場が安定化しないと新車購入の動機にも悪影響が避けられない。
 二つ目は電池のリユース利用の課題である。EVの電池は走行距離を確保するため、容量が70~80%まで劣化が進むと交換時期とみなされ廃棄される。しかし、まだ電池としての性能は十分残っているので、リユースして再生可能エネルギーの蓄電や出力調整などの他の用途に有効活用する余地はある。そこで、電池のリユースには再エネ導入を後押しする存在としての期待も高まっている。廃棄電池量は2030年に世界で1,000GWh近く生じることが推定される。日本では2030年の想定廃棄量は6GWh程度と世界全体に比べれば少ないが、数年間は使用できることから、最大30GWh程度の再エネ調整の能力が期待できるという。エネルギー基本計画で想定する2030年の蓄電池量は24GWhなので、かなりの量をリユース電池で賄うことが可能ではないかと考えられる。廃棄電池をリユースすることは、再エネ導入を拡大するため必須条件となるといっても過言ではないだろう。リユース電池は利用状況に応じて部分的に劣化し、火災を引き起こす可能性もあり注意が必要であるが、電池の内部の劣化状態を管理することができれば、そうした問題は未然に防ぐことが可能である。
 三つめは資源制約とCO2排出による持続可能性確保の課題である。2020年末EUは電池の持続可能性確保を目的としてバッテリー指令を改正した。主に、電池製造のCO2削減、電池の再生資源の利用率向上を目的としている。電池が大量に生産されると、コバルトなどの希少資源の需要が高まるが、資源国が偏在するため調達リスクも拡大するからだ。対策として電池資源のリサイクルを促進する必要がある。また、電池の製造には多くのCO2が排出され、製造過程を含めればガソリン車とライフサイクルでのCO2排出量とあまり変わらない量に達するとする指摘もある。そこで、作った電池をできるだけ長く使うリユースや、天然資源から精錬・輸送する際に発生するCO2を最小化するリサイクルが必要となる。現在、電池のほとんどはリサイクルされず、焼却されて路盤材などに利用されている。これは、多量の廃棄電池があっても、個々の電池種類などの情報などが取得しにくいこと、感電の恐れもあり解体などの処理が難しいことが理由となっている。結果として、リサイクルのコストも高くなってしまっている。こうした課題に対応するためには、電池の種類や構造などの情報を関係者で連携し、リサイクルの局面で有効に活用できるようにすることが鍵となる。

 とりわけ、中古市場の形成を妨げ、電池のリユース利用やリサイクル市場の発展を阻害している要因は、電池の劣化状態などの電池に関する情報を適切に計測・共有する仕組みがないことだと考えられる。ただ、現在世界では、こうした課題解消のための取り組みが進んでいるのも事実である。米国では電池のモニタリングを行う標準プラットフォームの構想が進み、中国でも同様の構想を発表する団体も出てきている。同時に、日本でも多数の先進的な電池診断技術の開発が進んでおり、国際的に優位性を確保できる強みがある。こうした優位性を維持拡大していくには、単に診断技術を活用するだけでなく、EV利用・リユース・リサイクルという電池循環のバリューチェーンに沿って、潜在的な価値を最大限引き出し、流通していく仕組みを構築することが求められる。
 筆者が推進するBACE(Battery Circular Ecosystem)コンソーシアム(※)は本課題に取り組み、複数の診断技術を組み合わせる仕組みの開発を進め、電池の循環市場の上流から下流までのバリューチェーン構築を行うべく、電池流通の多い中国で実証試験を進めてきた。今後、年々増加する電池の循環市場形成に向けて、日本の技術を活用した早期の事業構築を進めて行きたい。

(※)BACEコンソーシアムに関するプレスリリース
 ・車載電池の循環利用モデルに関するコンソーシアムを設立 
 ・EV電池の残存価値評価サービス事業化に向けた協定締結


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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