コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

【北京便り】
ガソリン車の生産を停止する中国自動車メーカーの決断と背景

2022年04月26日 王婷


 中国の新エネ車製造大手のBYDは4月3日、ガソリン車の生産を停止すると発表しました。2021年の一年間を振り返ると、BYDのガソリン車の販売台数は13.6万台で、新エネ車の販売台数は60.38万台で、新エネ車の販売台数がガソリン車を上回り、完全に逆転する状況となりました。また、2022年3月の1か月で見ると、新エネ車の生産台数と販売台数はともに10万台を突破したといいます。こうして、「今後新エネ車に集中する」との戦略発表に至ったということです。

 ガソリン価格が高騰する中、新エネ車の生産と販売には追い風が吹いています。一方、新エネ車関連のダブルポイントの状況には大きな変化が生じました。
 「ダブルポイント」制度とは、2017年に工業情報化部など5省が策定した「乗用車企業の平均燃費ポイントと新エネ車ポイントの並行管理弁法」のことです。エネルギー効率評価基準を満たした自動車企業にはプラスポイントを付与、そうでない企業にはマイナスポイントを付与する。同時にガソリン車を製造販売するとマイナスポイントを与え、新エネ車の製造販売で得られるポイントで穴埋めするよう求める制度です。自動車企業は、商務部の「ダブルポイント」管理プラットフォームを通じてポイントの取引や譲渡を行うことができます。これは、新エネ車の普及策の一つとして、政府補助金が終了した後、新エネ車企業を継続して支援する策として打ち出され、2019年7月から施行が始まったのでした。

 4月8日、工業情報化部が「2021年乗用車企業平均燃費と新エネルギー車クレジットに関する公告」を発表しました。発表内容では、2021年の中国の自動車産業が生み出したプラスの燃料消費ポイントは1553.49万ポイントで、前年比255.7%増、マイナスの燃料消費ポイントは613.66万ポイントで、前年比47.6%減でした。新エネ車ポイントでは、プラスの新エネ車ポイントは676.72万ポイントで前年比54.9%増、マイナスの新エネ車ポイントは81万ポイントで前年比24%減となりました。
 個社別では、2020年に、NIOが20万ポイントの新エネポイント分のポイント販売を実現し、5.17億元の収入を得たそうです。平均して1ポイントが2575元の換算となります。また、理想も、7万ポイントを販売し2億元の収入を得たということで、1ポイントは2850元です。新エネ車販売は、実際の車の販売以外でも、ポイントを販売することで収益を上げることができ、メーカーにとっては一石二鳥の選択となるわけです。

 多くのマイナスポイントは、持ち越しや関連会社経由の取引が可能になっているため、今年はオープンな市場でポイントを購入するニーズは小さく、ポイントの取引値段がだいぶ下がるだろうと予測されています。ただ、こうなると、新エネ車メーカーのインセンティブを働かせるために、せっかく作った制度がその機能を果たすことができなくなる可能性も高まってきます。
 背景には、新エネ車市場の急速な伸びがあるのです。つまり、2021年の中国の新エネ車の販売台数は333万台を突破し、2020年の199万台から、1.7倍の増加となりました。
 2020年6月に工業情報化部や財政部をはじめとした5部門は、「乗用車企業の平均燃費ポイントと新エネ車ポイントの並行管理弁法」を改正せざるをえなくなりました。改正では、2021年度、2022年度、2023年度に達成すべき新エネ車ポイント比率(マイナスポイントに対するプラスポイントの達成義務)をそれぞれ14%、16%、18%とするとし、2019年の10%、2020年の12%からさらに引き上げました。2024年以降について別途発表することになっていますが、さらに達成水準が引き上げられるのではないかと推測されています。

 2010年より政府主導で進められてきた技術開発や市場普及活動は、政策主導から市場主導の新発展段階に移行し、市場規模と発展の質がともに向上しました。日本国内から見れば、こうした計画経済押しつけ型の政策推進には賛否が分かれるのでしょうが、結果が出ていることは間違いありません。今後、BYDはガソリン車の生産停止を選択することで、その資本と戦力を新エネ車の研究開発に集中することが可能となり、さらに成長を加速することが期待できるでしょう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ