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JRIレビュー Vol.4,No.99

With/Afterコロナにおけるナイトタイムエコノミーとは

2022年04月28日 高坂晶子


With/Afterコロナにおけるわが国の観光再生戦略として、今まで十分活用されてこなかった資源の活用拡大が重要となる。本稿では、未活用分野のうち夜間帯の観光(ナイトタイムエコノミー、NTEと表記)を取り上げる。

従来、わが国観光の問題点として、夜間の過ごし方の選択肢が乏しく、訪日外国人客(インバウンド)が支出する娯楽等サービス費も、諸外国に比べて少ない点が指摘されている。そうした状況を改善するため、2010年代後半から、観光庁が中心となって、NTEコンテンツの提供を試行するモデル事業が始まった。しかしながら、各地でモデル事業を展開し、自走に移ろうとする段階で、折あしくコロナ禍が発生し、多くの試みが頓挫している現状である。

コロナ禍は社会に広範な変化をもたらしており、NTEについてもその影響を無視できない。感染防止のための安全安心対策、三密回避のための屋外ツアーや少人数ツアーなどが求められる。また、NTEの従来のターゲットはインバウンドであったが、国際観光の再開が遅れる現状、国内客を意識したNTEを考えることも重要である。

都市型NTEの事業環境をみると、飲食店や劇場といったハードが豊富な反面、競争は激しく、感染リスクの懸念も大きい。安全安心対策の徹底と魅力的なコンテンツ開発に加え、分かりやすい情報提供、観光客ニーズと豊富なコンテンツのマッチング、オンライン予約・決済など包括的なサービス提供態勢の構築が課題である。

ハード面で都市に劣る地方圏の場合、NTEの認知度が低いうえ、採算上の問題もあるため、施設整備のハードルは高い。都市圏と異なる趣向や三密回避が容易な点を訴求しつつ、星空やキャンプなど賦存資源を活かしたイベントから着手し、定期開催による認知度向上、規模拡大・期間延長へとステップアップするのが現実的な戦略である。

観光庁助成事業その他の例から、NTE振興策のポイントとして、4点を指摘できる。
(1)マネタイズ
 現在は無料、もしくは低額で提供されている観光資源や周辺サービスについて、適切にマネタイズ
する方向で意識改革を図る。マネタイズは、提供者による資源の磨き上げにもつながる。
(2)関連サービスによる高付加価値化とそれに見合う価格設定
 メインコンテンツに加えて関連サービスを充実させ、マネタイズの強化と顧客満足度の向上を図る。多言語対応可能な専門ガイドや特別プログラム、コンテンツにちなんだ飲食サービスなどにより、高付加価値化とそれに見合う価格設定を実現する。
(3)カスタマージャーニーへの配慮
 カスタマージャーニーとは、旅に出る前の段階から帰宅後に至る個人の観光行動と心理の推移を、時間軸に沿って整理したものである。一般に、夜間帯の観光にはセキュリティ上の懸念が付きまとううえ、わが国NTEは緒についたばかりで、メインコンテンツ前後の情報提供等が十分とは言い難い。カスタマージャーニーへの配慮を尽くすことで、観光客のストレス軽減に努めることが望ましい。
(4)受け入れコミュニティとの調整
 NTEは社会一般の休息時間にかかるうえ、騒音やごみ問題など生活関連のトラブルに発展する懸念もあるため、受け入れコミュニティへの配慮を織り込んだコンテンツ作りが必要である。また、生活体験や地域性・郷土色を活かした新たなコンテンツが登場するなか、地域事情に精通した地元の協力が成否を左右するケースも増えている。関連事業者は、従来必ずしも積極的に向き合ってこなかった住民やコミュニティとの関係構築に、真摯に取り組むことが求められる。
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