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JRIレビュー Vol.4,No.99

わが国の国民負担の現状と取り組み課題

2022年04月28日 蜂屋勝弘


わが国では、社会保障給付費の財源確保や基礎的財政収支の黒字化が、長年にわたって財政運営上の大きな課題となりながら克服できずにいたところ、新型コロナ禍を受けて、基礎的財政収支の赤字が急拡大するなど財政事情は一段と悪化している。そうしたなか、2050年までのカーボン・ニュートラルの実現など中長期にわたる新たな課題が浮上してきた。こうした課題への対応には、多くの経費を要するとみられるものの、今のところ財源の議論は低調であり、財源確保に向けた道筋は見えていない。

足元のわが国の国民負担率は、46.5%と過去最高水準に達している。2000年代以降の国民負担率の上昇の大半は個人・家計の負担増によるものである。もっとも、諸外国と比較すると、わが国の国民負担率はさほど高い水準にあるとは言い難い。国民負担率の大きさは、政府支出の大きさに比例しており、現在のわが国の姿は、国際水準でみると「低めの中負担」の「やや小さい政府」である。しかしながら、将来的に予想される財政需要に見合った財源の確保を怠ると、政府の大きさと国民負担のバランスが崩れかねない。

税をどの対象により重く課すかという近年のトレンドをみると、経済のグローバル化やデジタル化の結果、世界的にみて、国境を越えた移動が容易な資金への課税が軽減されるのに対し、移動が容易でない労働所得や消費への課税が重くなる傾向にある。わが国においても、1990年代以降実際に、①法人税率の引き下げ、②消費税率の引き上げ、③社会保険料負担の引き上げを受けて、国民負担の内訳が、法人所得税負担から個人・家計負担へとシフトする傾向がみられる。

国民負担がこのように個人・家計がより重く負担する形へシフトしていることを踏まえると、個人・家計の間で“公平に”負担することの重要度は増していると考えられる。所得税・住民税、消費税、社会保険料で、年収別の負担率は大きく異なり、各制度の見直しは、国民負担全体の累進構造に影響を与える。国民負担全体の累進度は1990年代から2000年代にかけて、所得税・住民税のフラット化を受けて低下したが、2010年代に一部回復している。

以上のような、わが国の財政状況や将来の財政需要、国民負担の現状を踏まえ、以下の改革等への取り組みが求められる。第1は、社会保障財源の確保である。社会保障の財源不足が基礎的財政収支の赤字の主因であり、給付費の抑制と財源の確保は、黒字化に向けて避けられない。消費税収はわが国においては政治的な判断により「社会保障目的税化」されているものの、社会保障給付に必要な公費負担額に足りていない。基礎的財政収支の赤字額と将来の公費負担の増加分を全額消費税で賄おうとすると、消費税率の引き上げ幅は約7%となり、これに将来の社会保険料負担の増加分も加えると、国民負担率(国民所得比)は合計で6〜7%ポイント程度上昇すると計算される 。

他方で、消費税や社会保険料負担の副作用として、国民負担全体でみた際に累進度が低下することが懸念される。わが国においても近年、低所得層の拡大や所得・資産格差の世代を超えた固定化を懸念する声が強まりつつあるなか、経済的に余裕のある層により多くの負担を求めることが現実的とみられる。負担率引き上げに伴う累進度低下への対応として、社会保険料負担については「標準報酬月額」の上限の引き上げや撤廃が有効とみられる。また、今後消費税負担を引き上げる場合には、低所得層の消費税負担を所得税から税額控除できる制度の導入も視野に入れる必要があろう。

第2は、脱炭素実現のための財源確保である。カーボン・ニュートラルの実現に必要な巨額の投資は、基本的には民間部門が担うことになるものの、政策による後押しも欠かせないとみられる。その財源として、カーボン・プライシングの導入が考えられる。政府はこれによる収入を、環境保全関連の政策に加え所得再分配政策等の財源に充てることができる。

第3は、国民負担全体でみた所得再分配機能の強化である。例えば、わが国では諸外国と同様に、金融所得は労働所得等から分離課税され一律税率が適用されているため、1億円を超える所得層では所得が増えるほど負担率が低下し、本来累進的であるはずの所得税の負担構造が逆進的になっている点が問題視されている。もっとも、所得再分配機能の強化にあたっては、金融所得課税の見直しだけでは限界がある。所得再分配機能の検討では、目先の「結果の平等」にとらわれて金融所得課税の強化に集中するのではなく、「機会の平等」を高める方策にも目を向ける必要があり、相続・贈与税の強化なども含めた税制全体を見直すことが求められる。

第4は、国際協調による資本への適正課税である。これまで長らく法人課税を軽減する傾向下にあったところ、近年、国際協調によって法人所得への課税を適正化しようとする動きがみられる。具体的には、①法人税の最低税率と、②デジタル課税について、2023年からの導入を目指して2022年にも国内での法整備が各国に求められており、わが国でも速やかな対応が求められる。

第5は、既存の債務償還財源の確保である。まず、新型コロナ感染症対策で生じた債務については、東日本大震災と同様に「コロナ復興特別税」を時限的に導入して償還財源を確保すべきである。例えば、ワクチン接種や医療体制整備に係る経費相当を所得税に加算する一方、時短協力金をはじめとする事業者向け施策に係る経費相当を法人税に加算するといった方法で、償還財源を確保することが考えられる。

一方、国と地方を合わせて名目GDPの2倍に上る長期債務については、地道に償還していくほかはない。歳出の増加抑制など基礎的財政収支の黒字化に向けた取り組みに引き続き努めるとともに、景気拡大期に発生する税収の上振れ分を補正予算での事業の追加に使ってしまわず、償還財源に充てることが重要である。今後、かつてのような高成長は見込み難く、景気拡大期の税収増が小幅にとどまる一方、景気後退期に税収が減少するリスクは高いとみられる。経済が比較的好調な時にこそ、積み上がった債務の償還に努めることが求められる。
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