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人口減少地域等における保育の提供に関する調査研究

2022年04月14日 福田隆士、増田のぞみ、小幡京加、湯浅夢奈


※本調査研究は、令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業として実施したものです。

1.目的
 本調査は、認可保育所等へのアンケート調査およびヒアリング調査を実施することで、人口減少が進む状況下における認可保育所等が有する課題や実施している対策等の内容について把握し、保育所等の課題認識、今後の取り組みの方向性を整理することを目的とする。また先進的な取り組み事例を調査することで、地域課題の類型化・課題ごとの対応策の検討を行う。

2.調査の方法・進め方

(1)検討委員会の設置・運営
・有識者、保育関係実務者、自治体職員からなる委員会を設置・運営(全4回開催)
(2)全国の認可保育所等に対するアンケート調査
・全国の認可保育所等を対象に自治体経由で電子メールにて調査票を配布、ウェブ回収
・令和3年11月4日~12月8日の期間で実施、有効回収数9,493件
・調査項目は施設基本情報/人口減少の影響/運営維持の取り組み/地域ニーズへの対応状況 等
(3)認可保育所等に対するヒアリング調査
・アンケート調査結果を精査し、各地域で特徴的な状況に置かれている、あるいは特徴的な取り組みを行っているとみられる施設に対してヒアリング調査を実施(計54施設)
(4)人口減少地域等の課題の明確化、課題類型ごとの保育のあり方に関する解決策の検討
・アンケート調査、ヒアリング調査の結果を踏まえ、人口減少に伴う課題、影響に対する取り組み状況について整理し、課題に関する考察、今後の論点および方向性を検討
(5)報告取りまとめ
・上記の調査・検討結果について報告書として取りまとめを実施

3.主な調査結果

【アンケート調査から把握できた人口減少に伴う課題、対応策】
●人口減少等の影響に関して、「現在影響が生じている」と回答した施設は一定数存在しており、「今後影響が生じる可能性がある」と回答した施設は多い。
・影響として「利用者確保が難しくなる」について「現在影響が生じている」と回答した施設は11.9%、「今後影響が生じる可能性がある」と回答した施設は54.1%である。
・「利用者数の減少が見込まれるため新規の職員採用を控える必要が生じる」について「現在影響が生じている」と回答した施設は31.4%、「今後影響が生じる可能性がある」と回答した施設は42.8%である。
・「地域に保育者のなり手が少なく、職員の確保が難しくなる」について「現在影響が生じている」と回答した施設は31.5%、「今後影響が生じる可能性がある」と回答した施設は42.7%である。
・「施設の運営の維持が難しくなる」について「現在影響が生じている」と回答した施設は12.2%、「今後影響が生じる可能性がある」と回答した施設は55.7%である。
●人口減少等の影響で利用者確保が難しくなる場合に、「現在実施している」と回答が多かった取り組みとしては、「保育内容の見直しを含めた施設の魅力の向上」(33.9%)、「配慮を要する児童の受け入れをより推進」(23.4%)、「地域住民のニーズ把握、積極的な交流」(22.2%)、「自治体との連携強化」(18.4%)等が挙げられる。それぞれの実施状況は回答施設全体の2~3割前後となっている。
●人口減少等の影響で施設運営の維持が難しくなる場合に必要と考える取り組みとしては、「保育内容の見直しを含めた施設の魅力向上」が、最も多く挙げられた。次いで「配慮を要する児童の受け入れをより推進する」となっている。
●施設の運営維持のため、自治体からの受託事業として「延長保育の提供」、「障害児の受け入れ」、「一時預かり」に取り組む施設が多い。一方、「休日保育」「医療的ケア児の受け入れ」等ついては「検討しない」という施設が多い。

【アンケート調査を踏まえた課題整理】
●人口減少による影響への対応として、地域子ども・子育て支援事業等の受託、地域や子育て家庭向けのサービス提供、認定こども園への移行といった多機能化、複合施設化等の取り組みが行われており、一部施設では効果が生じている。
●人口減少が特に進んでいる地域を中心に、定員数の縮小等の施設規模見直し、統廃合等の運営体制の見直しを検討している施設も一部存在する。
●自治体や地域の他機関との連携に取り組むことで一定の成果を上げている施設もみられるが、多くの施設では十分な対応はできておらず、自治体や地域の他機関との連携強化は課題となっている。
●医療的ケア児や障害児を受け入れている施設は多いが、人員の確保、設備面の整備等の問題から十分な対応が難しいという施設も存在する。
●障害認定はないが配慮が必要な児童の受け入れについて、必要性をある程度認識している施設が多いものの、受け入れることは難しいと考える施設が多い。
●保育士確保については、人口減少地域以外でも課題となっているが、特に人口減少が進む地域においては喫緊の課題となっている。保育の安定提供のためには、今後さらなる人口減少が進む場合においても必要な人員を確保できる取り組み、仕組みが求められる。
●施設の魅力向上に取り組んでいる施設は多いが、十分に効果を上げている施設は限定的である。地域や施設特性を踏まえた取り組みを検討、推進することが必要だと考えられる。

4.考察および今後の論点・方向性
 各課題について検討し、以下のとおり考察を示した。

●保育所等の多機能化においては、国や自治体による具体的な指針が求められるとともに、自治体や地域のNPO法人等の他の関係機関等との連携が一層必要である
●認定こども園への移行は進んでいる地域も多いが、円滑な移行に向けては手続き面の煩雑さ等の課題も生じている
●施設規模、運営体制の見直しにおいては自治体との調整や手続き面、資金面の問題等が課題となっている
●自治体との連携強化には自治体・施設双方の理解促進、コミュニケーションの充実が必要である
●地域の他法人、他団体との連携は十分に進んでいない
●医療的ケア児、障害児の受け入れは進んできており、成果も見られるが、さらなる促進には課題もある
●配慮・支援が必要な児童の受け入れは進みつつあるが、運営上の問題等の課題がある
●保育士確保は地域を問わず課題となっている
●施設の魅力向上・発信については、取り組みは進んでいるものの十分な効果はあがっていない

 今後各地域・施設で共通的に検討が必要な事項として以下の2点を挙げ、その方向性について検討した。

〇好事例を踏まえ、地域ごとの課題を明確にしたうえで、積極的な検討が期待される
・調査により、過疎地域等、人口減少の影響が大きい地域では、他の地域と比べて各種子育て支援事業の取り組みは進んでおり、地域の中で、家庭支援という、より広い機能を担っていくべき状況になっていると考えられる。
・現在はまだ人口減少の影響を受けていない地域においても、長期的には今後人口減少地域と同様の状況になる可能性が十分に見込まれる。地域での役割分担を検討するとともに、先進的な取り組みを把握、整理し、自治体等を通じて広く周知することが、自治体、施設の双方にとって有効だと考えられる。
・比較的ニーズが高く、前掲の事例で示したような対策のうち、具体的な取り組みの方策が汎用化できるものについては、さらなる検討を踏まえ、一定の指針・ガイドラインを取りまとめることも有益であると考えられる。
・多機能化や要配慮児童等の受け入れ等の各取り組みに共通する課題として、人員、設備等のリソースが不足していることが改めて明らかになっている。そこで、例えば社会福祉連携推進法人の制度を活用するなどして、法人間、他機関間で保育士やその他のリソースを共有することや、研修も含めた各取り組みを共同で実施することによって効率的・効果的な推進を図ることが必須であると考えられる。
・各取り組みは、地域性を考慮する必要はあるが、同一自治体内でも地域性がみられる場合もあることから、必要に応じてより詳細な地域別の状況を把握して検討を進めることが期待される。

〇地方版子ども子育て会議の活性化等、施設と自治体の双方向からの取り組みが期待される
・各施設において多様な取り組みが進んでおり、利用者確保等の効果が生じている取り組みもみられるが、各施設の自助努力には限界もあると考えられる。
・とくに過疎地域等では、保育施設が限られており、地域における「最後の砦」となっているような施設もあると考えられる。そうした地域においても保育機能を維持できるような対応を考える必要がある。
・ただし、自治体からの支援にすべて依存するということは避けるべきであり、施設側が取り組むべき範囲を明確にしつつ、自治体としてどの程度支援可能かという視点からの検討が必要となる。単に収益的に厳しい施設を支援するということではなく、地域における子どもの健全な育成および子育て支援の充実という観点から施設と自治体等の役割を検討、整理し、支援の方向性についてさらに検討を深めていくことが重要である。
・この点、令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「人口減少地域等における保育に関するニーズや事業継続に向けた取り組み事例に関する調査」(有限責任監査法人トーマツ)では自治体調査を実施し、令和3年度の本調査では施設調査を実施した。その結果、自治体と施設側には人口減少の影響や課題、その対策等について認識に相違がある点も確認されている
・自治体調査を踏まえた今後の方向性として、公立施設の民営化や統廃合・閉鎖、認定こども園への移行等が示されているが、施設調査では、これらの検討は進めていても自治体との連携等に課題があり、円滑な対応が困難となっている施設もあることが明らかとなった。
・このため、自治体との連携等の課題を解消していくことが重要であり、地方版子ども子育て会議等の既存の会議体を効果的に活用、活性化していくことが重要と考えられる。地方版子ども子育て会議の効果的な運用により、人口減少に対する取り組み等がより適切に実践されることも期待できる。
・地方版子ども子育て会議の有効活用に当たっては、自治体からの報告・情報共有だけではなく、施設や地域の保護者等の意見を集約し、各地域の現状および課題等を踏まえた検討を行う場とすることも検討すべきである。
・自治体と施設の密な連携を深めていくためには、私立の施設も含め、日常的に自治体と施設がコミュニケーションを取る機会を増やし、さらなる連携促進に取り組んでいく必要がある。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】

【本件に関するお問い合わせ】
 リサーチ・コンサルティング部門
 シニアマネジャー 福田隆士
 TEL:080-2302-7799  E-mail:fukuda.t@jri.co.jp
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