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「日本の社会インフラ“5G/Beyond5G”を加速するインフラシェアリング市場の重要性」

2022年04月13日 通信メディア・ハイテク戦略グループ、浅川秀之


日本の携帯通信市場の現状
 携帯通信キャリア各社による5G普及のための設備投資が加速している。大手通信キャリアは2030年までに約2兆円規模の設備投資を計画しており、日本全体では今後10兆円規模の投資が必要ではないかとも言われている。一方で、最近では料金値下げ競争が激化しており、携帯通信サービスは収入減の傾向にあり、今後の5G設備投資へのマイナス影響が懸念されている。

5G/Beyond5Gへの期待
 日本では、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く次の目指すべき社会として「Society5.0」が提唱されている。Society 5.0の社会では、IoTで全ての人とモノがネットワークでつながり、さまざまな知識や情報が収集分析され、これまでにない全く新しい価値が創出されるだけでなく、少子高齢化や地方過疎化、貧富の格差などのさまざまな社会課題の克服が期待されている。海外においてもWithコロナの社会では全ての人がネットワークにつながっていることが肝要とされ、国の重要施策として推進する動きも存在する。
 このようなあらゆる活動がデジタル前提の社会を実現するためには、超高速・大容量・低遅延でかつ安全な通信インフラとしての5G/Beyond5G普及は必要不可欠であり、都市部だけでなく地方部も含めた全国津々浦々への通信基地局の可能な限りの早期整備が望まれる。また、さまざまな社会課題解決のためのアプリケーションを提供するためには、AIやビックデータ分析などの分析機能も非常に重要となり、これら機能を担うクラウドサーバーやMEC(モバイルエッジコンピューティング)などのプラットフォーム(PF)基盤の役割は今以上に重要性を増すと考えられる。

国の施策
 総務省を中心に5G/Beyond5G普及に向けたさまざまな政策が打ち出されている。令和3年度の情報通信政策は「ポストコロナの時代を見据え、社会の抜本的変化に対応する3つのデジタル変革」を基本的な考え方としている(①サイバー空間を活用した強靭な社会の実現、②データ主導社会の深化、③安心・安全で信頼できるサイバー空間に支えられた社会の実現)。その重点施策の一つとして「新たな日常を支える情報通信基盤の整備」があり、光ファイバ網や5Gインフラの全国整備の加速化および5Gの活用モデルの構築・横展開が目指されている。
 また、普及に向けたさまざまなアクションが実行されており、例えば「移動通信分野におけるインフラシェアリングに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」が2018年に策定された。当時、携帯電話基地局リソース(アンテナや電波鉄塔、土地など基地局整備に必要な各種リソース)の複数社による共同利用、つまりシェアリングが重要視され始めた頃である。その後、電波政策懇談会において、条件不利地域におけるインフラシェアリングの必要性が議論され、その実現のためのスキームやルール整備が必要であるとの議論がなされた。また「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」においては、いわゆる“電波オークション”の審査項目の一つとしてインフラシェアリングが重要ではないかという議論もなされている。具体的な総務省の予算関連施策としては「共同整備の場合の国庫補助率を上げる」や「インフラシェアリング事業者を補正予算補助対象に追加」などがあり、これらを含む携帯電話等エリア整備事業の予算規模としては約15億円(令和4年度予算案)規模となる。

日本の目指すべきインフラシェアリングの方向性
 経済発展だけでなくさまざまな社会課題解決を目指した「Society5.0」の実現のためには5G/Beyond5Gインフラは必須であり、早期整備が望まれる。その実現のためには、既存の通信キャリアだけでなく、新たなインフラ事業者らも含めた、できるだけ早期のネットワークインフラ投資の促進が望まれる。その普及を後押しする国の政策や施策も加速されてはいるものの、その予算規模は必要投資規模の総額に比して限定的である。また、株式会社JTOWER等のインフラシェアリング事業者各社からなるシェアリング市場の規模もまだ限られている。今後、さらに国の施策が加速され、また日本のインフラシェアリング市場も拡大することは間違いないが、現状の規模感やスピード感を考慮すると、本当に必要な地方部も含めた5G/Beyond5G拡充を早期に実現することは相当に難しいのではないかと危惧される。インフラ普及のためのルールや制度整備に加えて、日本の社会全体のコスト効率性を考慮した大きなシナリオを描いて早期に実行すべきではないかと考える。
 日本の社会全体のコスト効率性に鑑みると全国レベルで1社もしくは数社程度のインフラシェアリング事業会社が設立されることが望ましい(シナリオ①)。設立に際してはどこまでのリソース(場所、鉄塔、アンテナ、周波数等)をシェアリングすべきかの議論や、JTOWER等の既存の事業者との協業等の整理も重要となろう。
 また、複数のインフラシェアリング事業者に対してプラットフォームを提供する“インフラシェアリングイネーブラー”の設立も考えられる(シナリオ②)。このイネーブラーの設立によって、JTOWER等既存のインフラシェアリング事業者の後押しになるだけでなく、今後もさまざまなアセットを保有する事業者の参入をも後押しすることができ、インフラ普及を加速させることができるのではないか。



ICT基盤/社会資本投資の質的変化
 Society5.0やスーパーシティ構想実現のためには、5Gを始めとするネットワーク(NW)基盤だけでなく、さまざまなアプリケーションを実現するためのデータ収集分析基盤(AIやエッジコンピューティングなどのPF基盤)がさらに重要となり、これらICT基盤(NW基盤+PF基盤)は、日本の将来において重要な社会資本の一つとなっていくであろう。
 また、既にGAFAを始めとするグローバルクラウド事業者の台頭が顕著であり、ICT基盤の中でも特にPF基盤の相対的重要性が今後さらに増してくると考えられる。日本においてもNW投資型からPF投資型へと、インフラ設備投資の質的変化が望まれる。
 インフラシェアリング市場の普及によってNW基盤への投資効率が高まり、その効率化によって捻出された資金を、より手厚くPF基盤へ回すことによって、ICT社会資本全体の投資をより効果的に実行できるのではいか。その観点からも、日本のインフラシェアリング市場の果たすべき役割は大きいと考えられる。JRI(通信メディア・ハイテク戦略グループ)による試算では、2030年を見据えて年間1千億円規模のインフラシェアリング市場の創出が望まれる。
以 上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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