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ヤングケアラーの実態に関する調査研究

2022年04月11日 紀伊信之、小幡京加、青木梓、和田哲


*本事業は、令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業として実施したものです。

1.調査研究の背景・目的

 令和2年度に「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」が行われ、子ども本人(中学生・高校生)を対象としたヤングケアラーの全国調査が初めて行われた。世話をしている家族が「いる」と回答したのは、中学2年生5.7%、全日制高校2年生4.1%であるなどの実態が明らかとなった。
 新型コロナウイルスの流行が長期化する中で、社会的な孤独・孤立の問題は深刻さを増し、中でもヤングケアラーは、年齢や成長の度合いに見合わない重い責任や負担があることで本人の育ちや教育に影響があるといった課題がある。そもそも本来大人が担うべき家事や家族のケアを日常的に行っていることにより、本来、社会が守るべき、子どもの権利が守られていない可能性がある。しかしながら、家庭内のプライベートな問題であること、さらには本人や家族に自覚がないといった理由から、支援が必要であったとしても表面化しにくい構造となっている。このような構造から、支援の検討にあたっても、まずはその実態を把握することが重要である。
 本調査研究では、これまで全国規模では実態把握が行われていない小学生や大学生を対象とした全国調査を行い、昨年度の中高生調査と比較可能な形で、それら年代の家族ケアの状況、ヤングケアラーの実態を明らかにした。
 また、ヤングケアラーについて必要な支援につなげるため一般国民を対象としたヤングケアラーの認知度調査を行った。
 これらの調査の結果から、ヤングケアラーを早期に発見し、適切に支援につなぐ方策の検討、および各年代への幅広い支援策や社会的認知度を向上させるための方策検討、社会全体に対する広報戦略の検討を今後具体的に行うための考察を行った。
 なお、本調査研究においてヤングケアラーの定義は、一般社団法人日本ケアラー連盟が示す「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子ども」としている。ただし、18歳以上の若者についてもケアによる影響を受けていると考えられることから、大学生調査では主に20代の若者ケアラーについて調査を行った。

2.調査研究の概要

 ヤングケアラー分野に精通した有識者や実務者等からなる検討委員会を設置し、下記を実施した。

(1)小学校におけるヤングケアラー対応に関するアンケート調査およびインタビュー調査
 小学校に対して、支援が必要だと思われる子どもへの対応や、ヤングケアラーについての認識等についてアンケート調査を実施した。全国の小学校から350校を層化無作為抽出により抽出した上で、調査票を郵送し、260件の回答を得た。
また、上記のアンケート調査回答校から、ヤングケアラーと思われる児童、制度の把握や支援の取り組みについて、参考となる事例をとりまとめるために6校に対するインタビュー調査を実施した。

(2)小学生の生活についてのアンケート調査
 小学6年生を対象に、家族に対する世話の状況や普段の生活に関するアンケート調査を実施した。全国の小学校から350校を層化無作為抽出により抽出し、対象校宛てに調査票を郵送し、校内で児童に配布、児童は原則自宅に持ち帰って回答の上、郵送にて返送してもらった。対象者約24,500人のうち、9,759件の回答が得られた。
 なお、本調査は、児童に家族や家庭内の様子について尋ねるものであることから、回答者およびその家族への負担を考慮し、学校宛ての留意事項等を記載の上、調査を実施した。

(3)大学生の生活実態に関するアンケート調査結果
 大学3年生を対象に、家庭や家族の世話の状況、ヤングケアラーの認識等についてアンケート調査を実施した。全国の大学の約半数にあたる396校を層化無作為抽出により抽出し、対象の大学を通じて、学生本人向けに、調査回答フォームのQRコード、URLを記載した調査概要をメール等にて送付し、Web上で回答してもらった。対象者は推計30万人のうち、9,679件の回答が得られた。

(4)一般国民のヤングケアラーの認知度調査
 一般国民に対してヤングケアラーの認知度や意識を確認するために、Webによるアンケート調査を実施した。調査対象はWebアンケート調査会社にモニターとして登録されている日本全国の20代から70代以上の男女で、各年代についてそれぞれ400件、計2,400件の回答を得た。

3.主な成果と今後の課題

 各調査の主な調査結果と今後の課題は以下のとおり。

(1)小学校におけるヤングケアラー対応に関するアンケート調査およびインタビュー調査

<主な調査結果>
・「ヤングケアラー」の概念を知っている学校は約9割。
・ヤングケアラーと思われる子どもがいる学校は34.1%。
・ヤングケアラーの把握や支援にあたっての工夫としては、「子どもをよく観察すること」「保護者との信頼関係を築くこと」等が挙げられている。
・ヤングケアラーの把握や支援にあたって難しいことは「家庭内の様子が分かりにくい/家庭内に介入しづらい」「児童本人が話したがらない」といった点が挙げられている。
・ヤングケアラー支援に必要だと思うこととして、「教職員がヤングケアラーについて知ること」「子ども自身がヤングケアラーについて知ること」「子どもが教員に相談しやすい関係をつくること」との回答が多くみられた。

<今後の課題>
 ヤングケアラーの認知度が向上していることや学校によっては意識的に教職員へ周知し、ヤングケアラーと思われる子どもへの対応を行っていることが確認された。一方で、学校現場においては、ヤングケアラーが抱える家庭内の問題に介入する難しさがあることが浮き彫りとなった。子どもに日々接している教員が気づくことが支援につながる第一歩となる可能性がある一方で、家庭の事情を把握しきれず、適切な外部機関との連携ができていない場合があると推測される。そのため、家庭内の状況を把握するためにも、SSW(ソーシャルスクールワーカー)や行政の福祉/子育て部門の職員といった家庭にアプローチすることのできる専門職との協力が重要となる。また、学校からの連携先でもある市区町村教育委員会において、行政の関係機関等との連携・調整を行える体制を整えることも、方策の一つとして考えられる。また、学校現場におけるSSWやSC(スクールカウンセラー)といった専門職の十分な配置についても今後の課題である。

(2)小学生の生活についてのアンケート調査

<主な調査結果>
・「家族の世話をしている」と回答した小学生は6.5%。世話を必要としている家族は「きょうだい」が最も多く71.0%、次いで「母親」が19.8%。
・世話を必要としている人が「父母」と回答した人に父母の状態像を聞いたところ、「わからない」との回答が33.3%と最も高かった。父母が病気や障がいを抱えていても、そうした状態について子どもに話していなければ、子ども自身は状況がよくわからないまま家族の世話をしている可能性がある。
・家族の世話をしている人のうち、就学前から世話をしている人が17.3%、低学年のうちから世話をしている人が30.9%いる。
・世話をしている家族がいると回答した人は、健康状態が「よくない・あまりよくない」、遅刻や早退を「たまにする・よくする」と回答する割合が、世話をしている家族がいない人よりも2倍前後高くなっており、健康状態や学校生活にも影響を与えていると考えられる。さらに、家族の世話をしている人は、学校生活において「授業中に寝てしまうことが多い」「宿題ができていないことが多い」「持ち物の忘れ物が多い」「提出物を出すのが遅れることが多い」といった項目について該当する割合が、いずれも世話をしていない人の2倍前後となっており、日々の生活に影響が出ていることがうかがわれる。
・世話に費やす時間が長時間になるほど、学校生活等への影響が大きく、本人の負担感も重くなることが確認された。
・世話に関する相談状況としては、世話による制約が多い、あるいは世話にきつさを感じている人ほど相談経験のある人が増える傾向にある。ただ、子どもからの相談相手については家族(「父母」、「祖父母」、「きょうだい」)が78.9%と最も多く、家族以外の大人については「学校の先生(13.8%)」「保健室の先生(5.5%)」「SSWやSC(3.7%)」とその割合が大きく下がる。
・学校や大人にしてもらいたいこととして、世話をしている家族がいる人全体としては、「特にない」(50.9%)が最も多かったものの、「自由に使える時間がほしい」(15.2%)、「勉強を教えてほしい」(13.3%)、「自分のことについて話を聞いてほしい」(11.9%)等の回答が目立つ。

<今後の課題>
 父母の世話をしながらも父母が世話を必要とする理由について「わからない」との回答が3割程度あること、平日1日あたり7時間以上世話を行っていても、その3割超が「特に大変さは感じていない」と回答していること等から、小学生の年齢だと、家族の置かれた状況を十分に理解できていなかったり、家族の世話をすることが当たり前になり、その大変さを十分に自覚できていなかったりする可能性があることを示唆している。今回は小学6年生を対象とした調査であるが、低学年、中学年の児童であれば、自らの置かれた状況を把握し、大変な状況にある場合には本人が自ら周囲に相談をすることは難しいことが想像に難くない。従って、特に小学生のヤングケアラーについては、周囲の大人が本人の様子の変化やつらさに気づき、声をかけていくことの重要性が大きいと言える。周囲の大人がヤングケアラーに対する意識を高め、必要な支援につながるきっかけを作れるような体制を整えていくことが今後の課題である。
 また、低年齢から長い期間にわたって家族の世話を行い、またその負担が大きかった場合の中長期的な影響については今後の調査が期待される。
 小学生については周囲の大人が子どもの置かれた状況を把握し、必要な支援を行えるような体制を整えることが重要であり、今後自治体等で小学生本人への調査を行う際には、ヤングケアラー当事者への影響等のリスクを踏まえた上で、支援体制を整えつつ実施の要否を判断することが求められる。

(3)大学生の生活実態に関するアンケート調査結果

<主な調査結果>
・大学3年生に家族の世話の状況を尋ねたところ、「現在いる」が6.2%、「現在はいないが、過去にいた」が4.0%。ヤングケアラーに「現在あてはまる」と回答した人は、2.9%。
・家族の世話をしている場合、健康状態が「あまりよくない」「よくない」、欠席、遅刻・早退が「たまにある」「ある」の割合が高くなっている。「大学の授業の受講(ゼミ含む)」、「大学の授業の予習復習、課題に取り組む時間」、「部活・サークル」、「アルバイト・仕事」、「趣味・娯楽・交友」について「確保できている」の割合が低くなっている。「学費(授業料)など学校生活に必要なお金のこと」、「家庭の経済的状況のこと」、「自分と家族との関係のこと」、「家庭内の人間関係のこと」、「病気や障がいのある家族のこと」などが悩みとして挙げられている。
・現在または過去に世話をしている家族が「いる・いた」人に世話をしていることでやりたかったけどできなかったことをきいたところ、6割の人がなにかしらのできなかったことがあったと回答している。
・世話を始めた時期が大学入学以前の方のうち50%超が、世話をしていることで大学進学の際に何かしらの苦労があった・影響があったと回答しており、特に「学費等の制約や経済的な不安があった」、「受験勉強をする時間が取れなかった」、「実家から通える範囲等の通学面の制約があった」が多かった。
・家族の世話をしている人のうち約50%が就職に関し何かしらの不安があると回答している。
・家族の世話をしている人のうち、精神的なつらさを感じている割合が約4割。
・家族の世話をしている人が求める支援は「進路や就職など将来の相談にのってほしい」、「学費への支援・奨学金等」、「自由に使える時間がほしい」の順に高い。
・世話をしている家族は、中高生調査で「きょうだい」の割合が最も高かったのに対し、大学生は「母親」、「祖母」の割合が高くなっている。
・ひとり親家庭で、自分のみで世話をしている割合が高く、世話の頻度も高く、世話時間も長い傾向にある。
・「ヤングケアラー(または若者ケアラー)」の認知度については、「聞いたことがあり、内容も知っている」の割合が中高生調査に比べ高い(ヤングケアラーについて理解を深めた学生が今回の調査で積極的に回答した可能性がある点に留意が必要)。

<今後の課題>
 今回の大学生調査は、「大学3年生まで大学に通えている人」が対象である。大学進学をあきらめた人、大学に入学したものの通い続けられなかった人の実態は把握できていない。大学進学の際の困りごとが、非常に大きく大学通学に至らなかったと考えられる。また、アンケートに答えられる状況にない、より深刻な状態にあるケアラーがいることも想像される。本結果は、若者ケアラーの実態を全国的に明らかにした調査ではあるが、あくまでも一部の実態であり、より詳細な実態把握や支援・対応の検討が求められる。

(4)一般国民調査

<主な調査結果>
・ヤングケアラーの認知度は、「聞いたことがあり、内容も知っている」が29.8%、「聞いたことはあるが、よく知らない」が22.3%、「聞いたことはない」が48.0%。
・年代、性別、子どもの有無によって認知度の傾向が異なる。50代以上の女性の認知度が最も高く、年代が若くなるほど認知度は下がる。男性の方が全般的に認知度が低い。子どもの有無では、子どものいる人の方が認知度が高い。
・ヤングケアラーという言葉の認知経路は全年代を通じてテレビが最も多い(82.4%)。次いで「新聞」32.5%、「webサイト」14.8%であった。全年代で「テレビ」の影響力が大きいが、30代、20代と年代が若くなるほど割合は低くなっている。また、「新聞」はその傾向がさらに顕著である。20代では口コミの影響力も認められた。
・ヤングケアラーと思われる子どもがいた場合の対応は、「わからない」という回答が最も多い(39.9%)。次いで「本人に様子を聞く」23.3%、「関係機関に相談する」22.1%となっている。「何もしない」という回答は16.2%。
・ヤングケアラーがいた場合の対応は、認知度が高いほど具体的な行動に結びつきやすく、認知度が低いほど「何もしない」「わからない」という割合が多くなっている。
・相談しやすい環境づくりにつながると思われる仕組みや取り組みについては、「ヤングケアラー専用の相談窓口があること」が最も多い。また、「相談がどのような支援につながるかがわかりやすいこと」や「相談する際の手順や判断基準がわかりやすいこと」も求められている。

<今後の課題>
 一般国民調査では、認知度の高さが具体的な行動や相談しやすい環境づくりを考える姿勢に結びつきやすいことが分かった。そのため、子どもがいる女性の認知度のさらなる向上を図るとともに、子どもがいる男性や若年層の認知度の底上げをすることが求められる。また、周囲の気づきを適切に支援につなげていくために、活用しやすい支援制度と相談体制の整備が求められる。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
報告書PDF

【本件に関するお問い合わせ】
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 部長(プリンシパル) 紀伊信之
 TEL:080-1203-5178 E-mail:kii.nobuyuki@jri.co.jp
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