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JRIレビュー Vol.4,No.99

男性育休取得を阻む要因とその解決策

2022年04月06日 井上恵理菜


日本では、家事・育児などの家庭内無償労働負担が女性に偏っているため、他の先進国に比べて、女性がキャリアの継続と家族形成を両立することが難しい状況にある。こうした状況は、社会全体でみると、女性の有償労働参加の抑制や出生率の低下につながっている。

女性への無償労働負担の偏りが解消されるためには、家事・育児負担が著しく増加する子どもの出生のタイミングでの男性の家事・育児の習慣化がカギとなる。男性の育児休業取得は、育児という明確な目的を持った休みを取得することで、質・量ともにより多くの家事・育児を担うことが可能となるほか、それまでの仕事のやり方を見直し、新たな仕事と生活のバランスを作るきっかけとなるという効果が期待できるため、とくに重要な働き方改革になり得る。

男性の育休取得率は近年急上昇しているものの、女性との差は依然として大きい。一方、子を持つ男性の間で、育休を取得したいと考えている人は増えており、約3割の人が育休取得を希望している。育休を希望しても取得できない背景には、一部の企業の経営層が男性育休に反対するなど、男性が育休を取得しにくい雰囲気が醸成されていることなどがある。

アンケート調査を基にすると、男性が実際に育休を取得するためには、①本人(家族)に取得の意思があること、②制度が整っていること、③企業に育休を取得しやすい雰囲気や上司の理解があることの三つの要件が整う必要があるとされ、とくに、③企業の雰囲気や上司の理解には一層の改善が求められる。

一部の経営層が男性育休に反対する背景には、企業の生産性に与える影響への懸念があるとされる。そこで、企業規模や企業業績、業種の違いをコントロールしたうえで、男性育休に積極的な企業とそうでない企業の生産性を比較すると、両者の間で生産性の伸び率に有意な差があるとはいえなかった。

企業の生産性に悪影響がないのであれば、男性育休は女性の正規雇用化を通じた経済成長や出生率の上昇を通じた将来的な社会保障負担の軽減に資するため、推進していくことが望ましい。そのため、企業には、2022年4月から義務化される「育児休業制度の周知と育休取得意向の確認」を、新たに子どもを持つ男女すべての従業員に対してしっかりと行うことが求められる。政府には、企業の経営層の男性育休に対する不安を取り除くために、男性育休が企業業績に及ぼす影響に関する実証研究の結果を広く公表するとともに、男性育休に積極的な企業で行われている先行事例を伝えていくなどの情報発信が求められる。また、育休を取得する従業員のいる企業を支援する「両立支援等助成金」の受給条件の柔軟化も必要である。

長期的には、さらに育休取得率を伸ばし、男女ともに仕事と育児の両立をするという行動変容を起こしやすくするため、育休取得時の家計収入の減少を懸念して育休取得を希望しない人や、育休取得の非対象者であるために育休を取得できない人も育休を取得できるように、育児休業制度をより普遍的な制度に変えていく必要があろう。加えて、より多くの男性が家事・育児に関与するようになれば、育児そのものや仕事と育児の両立に関する悩みを持つ男性が増えていくことが予想されるため、行政には父親が参加しやすい育児講座や相談窓口の拡充が求められる。

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