コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

CSRを巡る動き:企業の温室効果ガス排出量削減に向けた取組み 高まる情報開示の重要性

2022年04月01日 ESGリサーチセンター


 日本政府の2050年カーボンニュートラル宣言以降、脱炭素社会実現に向けた動きが加速しています。多くの日本企業も、自社の気候変動対策の検討や見直しを行っています。具体的には、Scope3を含むサプライチェーン排出量の把握や、温室効果ガス削減施策の追加的検討、中長期の削減目標設定と達成に向けたロードマップの策定などです。これまでにはなかった規模で、人手と時間を投資して対応を進めているといえるでしょう。同時に足元では、温室効果ガス排出量と削減施策の企業情報開示の要請が、CDP等の国際イニシアティブや日本政府から相次いでなされています。

 2022年1月、世界の大手企業の気候変動対策を調査・評価し機関投資家向けに公表する国際NGOのCDPは、日本企業の調査対象拡大を発表しました。その内容は、従来の500社(FTSEジャパンインデックスに該当する企業を基本として選定)から、プライム市場上場企業の全1,841社に拡大するというものです。
 国内では、2021年5月に地球温暖化対策推進法の一部が改正されました。2050年カーボンニュートラル宣言やパリ協定の定める目標などを踏まえ、2050年までのカーボンニュートラル実現の基本理念が明記されたほか、地方創生につながる再エネ導入の促進などが規定され、企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化(2023年度予定)を推進することも盛り込まれました。これまでも、一定量以上の温室効果ガス排出がある企業は、国に排出量を報告し、国がとりまとめて公表していました。本改正において、排出量の報告と公表はデジタル化され、各企業の取組み状況が分かりやすくかつ広く開示されることとなり、投資家やその他のステークホルダーが評価しやすい環境がうまれるでしょう。
 また、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂では、気候変動を含むサステナビリティの取組みの重要性が強調され、プライム市場上場企業は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動関連情報の開示の質と量の充実化が求められることとなりました。

 日本政府における脱炭素社会実現に向けた国内企業への支援も厚みを増しています。2020年12月公表「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、脱炭素社会への移行を経済成長の機会と捉え、次世代再エネや水素・アンモニアのエネルギー関連産業、自動車・蓄電池産業、半導体・情報通信産業等において、企業の技術革新の投資を後押しし、産業構造の転換を進める姿勢を明確にしました。
 2022年2月1日には、経済産業省が脱炭素社会の実現へ向けた経済社会システム全体の変革を意味するグリーントランスフォーメーション(GX)を推進するため、「GXリーグ基本構想」を公表し、構想に参画する企業の募集を開始しました(2022年3月31日まで)。参画企業は、①2050年カーボンニュートラルに向けた2030年削減目標の設定と取組みの開示、②サプライチェーン上流・下流への脱炭素の働きかけ、③製品・サービスを通じた削減貢献(任意)が求められます。2022年度において、経済産業省は参加企業とともに、2050年の生活者視点のサステイナブルな経済社会システムのあり方や、産業・企業の役割の未来像を議論し、実現に向けたルール整備を行う予定です。また、カーボン・クレジット取引市場の開設についても検討を進め、GXリーグ参加企業による削減価値クレジットや、日本政府が主導するJ-クレジットとJCM(二国間クレジット制度)による削減・吸収クレジット、質の高い海外ボランタリークレジットの取引に向けた市場整備を行うとしています。

 企業によっては、脱炭素社会実現に向けた取組みを、大きな負荷と捉える向きも見受けられます。一方で、脱炭素社会への移行を成長の機会と捉え、自社の気候変動対策とその情報開示を継続的かつ実効性を持たせながら、積極的に取組む企業も増えています。日本政府が推進する制度や支援策を活用しながら気候変動対策を進め、投資家や取引先、お客様等のステークホルダーへ自社の取組みを適切かつ効果的に開示していく企業が評価されるといえるでしょう。

本記事問い合わせ:山田 幸美


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ