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日本総研ニュースレター 2021年9月号

高齢期から死後までを支える地域づくり ~「周没期」をおひとりさまで迎えられる連携~

2021年09月01日 沢村香苗


地域の縮小と家族の縮小
 令和 2 年度の厚生労働白書には、「縮小する地域」「縮小する世帯」という節が設けられている。地方から首都圏への若い世代の労働移動によって、地方においては自治体が小規模化し、公共サービスへのアクセス悪化が懸念されている。また、「単独世帯」「夫婦のみ世帯」「ひとり親と子どもから成る世帯」が増加し、世帯も小規模化していることが示されている。これらの変化によって、私たちの生活にはどのような変化が生じるのであろうか。特に増加が見込まれている「高齢単独世帯」「高齢夫婦のみ世帯」に注目して考えてみたい。

今見えてきている高齢期の課題
 高齢期においては、日常生活上、身近な人に様々な助けを借りられないと困ることについては想像が難しくない。少し視野を広げると、生前では自らの権利擁護ができなくなるという問題(詐欺被害に遭う、セルフネグレクトに陥るなど)が、死後には遺体の埋葬のほか、家をはじめとした財産の処分ができないという問題が生じ得る。
 今後、いざとなれば行政に支援を求める意向が強い独居男性を中心に、支援を必要とする人は増えていく一方で、地域は縮小し、行政サービスのキャパシティが増える見込みも薄い。
 現時点でも、縦割りや生前と死後の分断によって、支援の効率は良いとは言えない。例えば、身寄りのない人の火葬・埋葬、その人の住まいが空き家になった時の事実確認、そして相続人探索などについて、行政の複数の部署がそれぞれ別に行っていることは少なくない。
 今後は対象者が増加し、一般化していくことを想定し、効率的な支援のあり方を検討することが、喫緊の課題である。

「周没期」……死後までを視野に「必要なこと」の明確化を
 ある人が生涯を閉じるプロセスは、肉体的な死の後も続き、遺体を埋葬し、財産を分与するところまでを含んでいる。それを一連のものとして捉えるために、「周没期」と呼ぶ考え方がある(※1)
 生前の支援はもちろん、死後の埋葬や財産分与は自分で実行できないため、これまで地域の中で家族や親族が行ってきたが、近年はそれが期待できない場合が増えている。事前の取り決めなしに生前死後に伴走する存在は家族や親族の他になく、外部の支援を受けるためには誰がいつ何をすべきかということの明確化が求められる。

「おひとりさま」=独身ではない、誰もが周没期への備えを
 今後こういった課題に直面するのはどのような人なのであろうか。単身世帯の増加が象徴的な数字として使われるが、世帯人数よりもむしろ「伴走的な支援を身近で、最期まで提供できる人がいない」という質的な条件に該当することが、周没期における「おひとりさま」の定義として重要である。子どもや配偶者がいたとしても、この条件に該当し得る場合はおひとりさまとして備えることが必要になる。

住民主体でつくる、個人・行政・企業による地域の連携
 周没期は、変化に応じて新しい課題解決が必要となるプロセスである(例:食事を作るのが難しくなり配食サービスを利用する、身体状況が悪化し医療サービスを利用するなど)。課題の発見から解決に至るプロセスでは、本人の状態の変化、経済状態や本人の意向、支援者になり得る人との付き合い、契約しているサービスといった情報が中心的な役割を果たす。
 従来は、情報の把握と実際の支援提供の両方を身近な「人」に一括して求めてきたが、そうした人の減少や情報技術の進歩、ライフスタイルの変化を踏まえ、情報の把握・活用の方法と人の役割を見直す必要がある。本人の変化の情報(例:歩数の減少)を早期に把握して地域の行政や民間サービス(医療、介護、住宅、葬儀、相続等)に連携し、本人の意向等の情報を活かしながら的確かつ効率的な課題解決を行える仕組みとすることが望ましい。また、仕組みの構築に当たっては、個人の価値観や望み、家族や親族の望み、地域の文化等の影響を柔軟に反映できるよう、住民が主体となって、行政や企業と共に試行錯誤をするプロセスを踏みながら実施することがカギとなるであろう。

(※1)参考文献
「横須賀市の終活支援」(日本政治法律学会第7回研究大会 死後事務委任—おひとり様時代の新しい終活)、北見万幸、第7回日本政治法律学会、2021年5月


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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