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サステナブルHRM-戦略人事は新たなステージへ-

2022年02月18日 林浩二


1.SDGs経営と人事管理
 SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への関心が高まっている。経営目標の中にSDGsに関連した項目を積極的に採り入れる企業も増えてきた。こうした時代にあって、企業の人事管理はどのようにあるべきだろうか。
 これまでの戦略人事の文脈では、専ら経済的なボトムライン(企業利益)に貢献するための人材施策が模索されてきた。例えば、

●イノベーションで競争優位を確保する戦略を採る企業では、異能人材を高報酬で獲得するための仕組みの整備や、従業員の主体的なチャレンジを促す評価・報酬制度を構築すべき

●低コストを通じて競争優位を築く戦略を採用する企業では、市場相場を踏まえた合理的な報酬設定や、徹底した業務効率化(改善)へのインセンティブを組み込んだ評価・報酬制度を導入すべき

といった具体である。
 しかし、SDGs経営の時代には、会社の経済的な利益拡大だけを追求する人事管理では真に戦略に貢献しているとは言えなくなる。賃金抑制による利潤最大化ではなく社会的公正に配慮した人事管理、さらには、環境問題の解決に貢献する行動を従業員に促すような人事管理を考えていかなければならない。

2.サステナブルHRM
 こうした課題に応えるべく、欧米諸国を中心に「Green HRM」(環境保護に向けた対応を促す人事管理)や「Triple bottom line HRM」(経済的利益(economic bottom line)だけでなく、社会的公正(social)や環境問題解決(environmental)も同時に追求する人事管理)という概念が発達してきた。今、この動きは「サステナブルHRM」(Sustainable Human Resource Management)として合流しつつある。
 サステナブルHRMのもとでは、短期的な利益を追求するだけでなく長期的な企業価値向上の視点をもって、かつ、顧客や投資家だけでなく、従業員、行政、社会などさまざまなステークホルダーに応える人事管理が求められる。
 例えば、国連で採択されたSDGsの一つに「ジェンダー平等を実現しよう」という目標がある。これを念頭に、女性の積極的な管理職登用など、従業員のダイバーシティ推進を明示的な経営目標として掲げる企業が増えてきた。この点について、これまでの戦略人事では、「ダイバーシティ推進は必ずしもコストではなく、従業員のダイバーシティが進む企業は総じて経済的なパフォーマンスも高い傾向がある。よって多様な人材を採用し、育て、登用する人事管理を採用すべき」という流れで議論されることが多かった。すなわち、「ダイバーシティは利益向上に貢献する。だからダイバーシティを推進すべき」というアプローチであり、経済的利益の達成をあくまで頂点に据える発想から脱却しきれていない。
 サステナブルHRMにおいて求められるのは、長期的な企業価値の向上と短期的な利益の確保を矛盾のない形で両立させるような人事管理である。単なる「利益向上のためのダイバーシティ推進」であってはならないのである。

3.サステナブルHRMの現状と展望
 SDGs経営を実現するためには、それぞれの企業が掲げる具体的な目標に即して、どのような知識やコンピテンシーを有する人材を採用すれば良いのだろうか。また、採用後、どのような教育研修を行うと効果的で、評価や報酬などインセンティブの仕組みはどのように設計すべきであろうか。現状では、十分なエビデンスやコンセンサスが得られているとは言いにくく、未解明の課題が山積みである。
 わが国におけるサステナブルHRMは、スタートラインに立ったばかりである。戦略人事の新たなステージとして、今後の発展と知見の蓄積が望まれる。


(参考文献)
Katarzyna Piwowar-Sulej, “Core functions of Sustainable Human Resource Management. A hybrid literature review with the use of H-Classics methodology” Sustainable Development. 2021; volume 29:671-693.


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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