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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.22,No.84

習近平政権が掲げる「共同富裕」の実像

2022年02月14日 三浦有史


共同富裕の目的は中間層を厚くすることにあり、消費主導経済への移行、経済発展の質の向上、社会の調和と安定に寄与すると考えられている。共同富裕は、所得格差など急速な経済発展のもとで後回しにされてきた公平性の問題に対する取り組みを通して共産党への信認を高める試みと解釈出来る。

中間層を増やすための分配政策として目立った動きがみられるのは、寄付や慈善によって富裕層の富を移転する3次分配である。税・社会保障や財政支出によって格差を是正する2次分配はメニューこそ多彩であるが、具体化に向けた動きは鈍く、唯一目立つのは不動産税である。

不動産開発、学習支援、ITの3産業は、共同富裕によって「発展論理は大きな変化に直面しており、成長への貢献は低下する」とされた。不動産開発業と学習支援業は家計の住宅および教育支出負担の軽減という観点から、IT産業は政権に対する批判を許さないという政治的な観点、そして、独占的地位の乱用禁止やギグワーカーの権利保護などの経済・社会的な観点から、ターゲットにされたとみられる。

3次分配は、寄付の強要に怯える民営企業が増える一方で、国有企業が枠外に置かれるなど、「国進民退」加速のリスクを内包する。共同富裕を可能にするのはあくまで2次分配であるが、不動産税は導入対象地域が大幅に減少するなど、楽観を許さない。

不動産開発業は、その減退に伴う経済および金融に与えるインパクトがあまりにも大きく、「成長への貢献は低下する」という事態を受け入れ難い。学習支援業についても地下に潜行することで産業として把握しにくくなっただけで、教育支出負担の軽減につながるかは疑問とせざるを得ない。

IT産業については、投資が好調である、あるいは、法整備が一段落したとして規制前の成長軌道に戻ると考えるのは楽観的に過ぎる。プラットフォーマーは権威に対する信認を低下させる、あるいは、伝統的な価値観を破壊する存在と見なされているため、共産党の介入が弱まることはないとみるのが妥当であろう。

習近平政権が成長鈍化を覚悟してまで共同富裕を進める背景には、SNSの発達により格差を測る比較対象が広がり、格差に対する国民の許容度が低下したことがある。これは「内巻」や「横たわり」と同じく、共産党が指導する社会から逸脱する人が増えていることを意味する。共同富裕は、経済成長により共産党への信認を高めるという従来の統治メカニズムが機能しなくなったことに対する危機感の表れでもある。

持ち家比率の上昇に伴い自らを中間層と位置付ける世帯が増える一方、住宅ローンを組むことで以前より生活が苦しくなる世帯が増えている。消費主導経済への移行、経済発展の質の向上、社会の調和と安定により、中国が共同富裕に向けて前進出来るか否かは、住宅価格がどのような軌道を描くかによって左右される。
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