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制度変更で再考 カーボンニュートラル実現に向けた環境価値の調達戦略~安価になった非化石証書、問われる追加性の基準~

2022年01月11日 早矢仕廉太郎三木優


1.制度変更により非化石証書の取引量は5倍、価格は4分の1に
2021年11月、FIT非化石証書を取引する第1回目の再エネ価値取引市場が開催され、これまでの取引量を大きく上回る19億kWhが約定された。約定量加重平均約定価格も1.3円/kWhから0.33円/kWhと大幅に下落し、最低入札価格の引き下げ(1.3円/kWhから0.3円/kWh)の影響が如実に現れる結果となった。また、今回から一般企業の参加が認められるようになり、小売事業ライセンスを有しない一般企業6社が参加した。一般企業が参加できる1回目のオークションだったこともあり、参加に慎重な判断を下した企業が多かったと考えられるが、今回の結果を受けて今後は一般企業の参加数も増加していくだろう。




2.「追加性」電源調達に向けた新たな打ち手「オフサイトPPA」の解禁
FIT非化石証書の最低価格の引き下げ、市場への一般企業の直接参加、全量トラッキングの開始により、企業がRE100を達成するためのハードルは一段と低くなった。一方、再エネの新規追加に資する「追加性」を求める投資家からの圧力を理由に、FIT非化石証書の取得に慎重になる企業がいることも確かだ。一般的にRE100を達成するための環境価値の調達手法は、新規発電所の建設有無、電力小売契約の有無等により6つに区別できる(図表2  主な環境価値の調達手法と「追加性」取得に関する課題参照)。
このうち、①~④については新規で電源開発をすることが多く、追加性を有する調達手法として一般的に理解がされている。
これまでは、①自家消費、②オンサイトPPA、といった企業の敷地内に再エネ設備を設置する方法が主流だったが、近年、追加性を備えた環境価値を一定のボリュームで調達したいという声が高まっており、③オフサイトPPA、④自己託送、による調達の動きも活発化している。また、③オフサイトPPAについて、従来は制度上の制約から、発電事業者から直接環境価値を購入することはできず、小売電気事業者を介して取引する必要があったが、自己託送の概念を拡大解釈する形で小売電気事業者を介さず取引できるようになった。このように追加性のある環境価値へアクセスする環境は徐々に整いつつある。
一方、⑤再エネ電力購入、⑥証書/クレジット購入、にて追加性のある環境価値を調達する場合にはいくつかクリアにすべき問題がある。一つは追加性の定義が不明瞭なことだ。追加性の有無は証書/クレジットの属性によって判断されることになる。しかしながら、筆者の知る限り、この判断基準は明確に定義されておらず、各機関、有識者の見解にも相違がある。二つ目は追加性の金銭的価値が不明瞭な点だ。FIT証書と非FIT証書の場合、最低入札価格によって明確な区別がされている。一方、追加性についてはこうした市場取引を通じて区別がされていないため、企業は追加性の適正な価格水準を把握できない状態だ。



3.新設FIT電源に「追加性」はないのか、問われる「追加性」の判断基準
追加性の有無を判断する際の評価要素として、①新設電源あるいは運転開始してから間もない電源の環境価値か否か、②国民負担の下に作られた環境価値か、の2点が挙げられる。
①については、米国では発電設備の標準的な投資回収期間(15年)を基に、「運転開始から15年以内の発電設備」を追加性の条件とする考え方が定着している。自然エネルギー財団の発行する「企業・自治体向け 電力調達ガイドブック第4版(2021年4月)」でも同理由に基づき、追加性の条件を「運転開始から15年以内」と設定している。
②については、国民負担の下で作られたFIT電源の非化石証書収入は発電事業者自身に渡ることはないため、FIT非化石証書に追加性がなく、環境価値の収入を得ることができる非FIT証書には追加性があるとの整理だ。
図表3には、運転期間と国民負担を評価軸に各種証書/クレジットを整理した。①の運転期間のみをもって評価をすれば、新設のFIT電源には追加性があると整理することができる。②の国民負担の有無のみで評価をした場合、大型水力のような一定の運転期間を経た電源にも追加性があると整理できてしまう。また、運転期間が短く、国民負担のない右上の象限に分類されている証書/クレジットの中にも、リパワリングされた卒FIT電源のように追加性のある電源として認められるか議論の余地があるものもある。
このようにFIT電源は追加性の解釈次第で追加性の有無が分かれてしまうものの、現在の再エネ関連制度の枠組みでは、何に追加性があり、何に追加性がないのか示されていない。追加性の判断基準が曖昧なゆえに、企業が適切に追加性のある環境価値を取得できないということが課題となっている。



4.コストと評判のトレードオフを踏まえ、自社に合わせた調達戦略を
再エネ価値取引市場の開設により、コストとアクセス性の両面から一般企業の環境価値の調達ハードルが下がったことは確かだ。最小のコストでRE100を達成したい企業は、FIT非化石証書の調達を行うことが最良の選択となるだろう。
一方で、追加性を求める企業は、コストと評判の両面を踏まえながら、自社の再エネ導入目標や再エネ調達の知見獲得状況に合わせて調達戦略を検討することが必要だ。その中でも、追加性を備えた一定のボリュームの環境価値を調達したい企業にとって、今般解禁された小売電気事業者を介さないオフサイトPPAは、これまで唯一の解決策であった自己託送と並び立つ選択肢として、調達の自由度を高めることに役立つと言えるだろう。
最後に、前章で述べた通り、追加性の判断にはいまだ議論の余地がある。政府は、非化石証書取引市場において、今後、太陽光、風力等電源種ごとに価値を明確化する電源証明型の市場を目指すことをすでに表明している。もちろん電源種による価値を明確化することも重要だが、足元で一般企業は追加性の明確化も求めているはずだ。運転期間、国民負担の有無等、何等かの基準で追加性を定義するとともに、非化石証書取引市場の中で、新設/既設、運転期間別といった商品区分を新たに設定することによって、追加性の価値の明確化をなしていくべきだ。今後カーボンニュートラルの達成が各企業の至上命題となる中、企業のニーズに合わせた調達ができる環境の整備を期待したい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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