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ARES(不動産証券化協会)に聞く、JリートにおけるESGとは?~「ARES ESG情報開示の事例集」作成の背景と狙い~
2022年01月11日 大森充、一般社団法人不動産証券化協会 主査 宮﨑菜緒氏
2021年10月にCOP26が開催され、気候変動対応が待ったなしの危機的状況であることが改めて世界に共有されました。ESG/SDGsに代表されるサステナビリティ対応の企業経営への要請はより一層高まりを見せています。Jリートにおいても例外ではありません。本対談では、不動産証券化協会(以下、ARES)の宮﨑さんをお招きし、JリートにおけるESG/SDGs対応についてお話を伺います。
JリートがESGへ取り組む意義とは
(大森)
本日はJリートにおけるESG/SDGs対応についてお話を伺えればと思いますが、まず、JリートとARESについてのご説明をお願いできますか。
(宮﨑)
Jリートは投資法人という仕組みを使って日本の証券取引所に上場している不動産ファンドのことです。Jリートは、投資家から集めた資金を基に不動産に投資し、その賃料収入等から得られた利益を投資家に分配します。ARESはJリート市場をはじめとする不動産投資・証券化市場の発展に向けて、政策提言や調査研究、会員向けの研修・教育事業等を行っています。
(大森)
不動産への小口投資ができる日本の上場ファンドがJリートで、Jリート等の普及推進に努める業界団体がARESということですね。
(宮﨑)
はい、簡単に言うとそうなります。Jリートは2001年に2銘柄からスタートしたのですが、その後、大きく成長をしており、2021年10月末時点で、Jリートの時価総額は17兆円を超えています。長らく低金利時代が続いておりますが、投資商品としてJリートは存在感を増していると思います。
(大森)
ありがとうございます。では、本題に入りたいと思いますが、JリートがESG/SDGsに取り組む意義はどこにあるとお考えですか。
(宮﨑)
大森さんがよく話されているとおり、ESG/SDGsへの対応は人類共通課題です。その意味では不動産業界も例外ではありません。実際に、Jリートにおいても運用業務の全般でサステナビリティへの対応の重要性が広く認識されつつあると感じます。
(大森)
重要性において、具体的にどのような認識が広まっていますか。
(宮﨑)
Jリートは投資家から集めた資金を基に不動産に投資しますが、不動産をとり巻くステークホルダーはテナントをはじめ多岐に渡ります。環境性能・快適性等に優れた不動産を選好するテナントの意識変化や、投資家のESGへの関心の高まり、はたまた世界各国における環境規制の強化などを受けて、ESGに配慮し持続可能な社会の実現に貢献することを重視する見方がJリートにおいても広がっていると思います。
(大森)
なるほど。確かに、JリートのGRESB(※1)への参加状況も2021年で計55銘柄となっており、時価総額ベースでの参加率は9割を超えており、ESGへの関心の高まりはうなずけます。
(宮﨑)
そうなのです。最近では気候変動対応としてTCFD(※2)へ賛同するJリートも増えています。また、証券取引所に上場していない私募リートや私募ファンドにおいてもESGの取り組みが徐々に進んでいるようです。
「ARES ESG情報開示の事例集」作成の背景と狙い
(大森)
JリートにおけるESGへの関心の高まりを受けてARESでは2021年10月に「ARES ESG情報開示の事例集」を作成、一般公開しています。当事例集の作成を私もお手伝いをさせて頂きましたが、作成の背景とARESの思いを教えて頂けますか。
(宮﨑)
その節は大変お世話になりました。先ほどのようなESG対応の重要性認識が高まりを見せている一方で、Jリートの資産運用会社においてはESGにどのように対応していくか色々と悩まれているようです。Jリートの運用を担う資産運用会社は運用効率等の観点から少数精鋭で業務を行っている会社も多いため、ESG専任者や専任部署を置いている会社はまだ少なく、多くが兼務体制で対応しているのが実情です。このような状況を踏まえ、ARESの活動として、会員社の業務負担軽減、ESGへの理解促進、取り組み・情報開示の底上げ等に資することを企図して、事例集を作成することとしました。よって、本事例集の位置づけとしては、会員社の自主的な取り組みを支援するものということになります。
(大森)
作成の上でこだわったポイントや特徴はありますか。
(宮﨑)
まず、Jリートに特化したESG情報開示の事例集はこれまでにない初めての取り組みとなります。読み手にとって有用かつ分かりやすいと考えられるJリート等のESG情報開示の事例を66個掲載し、紹介しています。また、オフィス、住宅、物流施設、商業施設、ホテルなど多様なアセットタイプに対応した事例や海外の事例を載せることで網羅性を出せていると思います。
(大森)
多様なアセットタイプの開示事例をESGのテーマごとに紹介していますので、これから取り組もうとされている方々の理解の促進や業務効率の改善に繋がるように思います。海外の投資家等における理解促進も狙って英語版も作成しましたね。
(宮﨑)
そうです。広く投資家を始めとするステークホルダーの方々に読んで頂き、JリートのESGの取り組みに対する理解を深めて頂きたいと思っています。
(大森)
ありがとうございます。JリートにおけるESGへの関心の高まりを受け、業界で初めてJリートに特化したESG情報開示の事例集を作成した経緯や狙い、ARESの思いについてお話を伺うことができました。最後に本対談の読者に向けてコメントを頂けますか。
(宮﨑)
JリートにおいてもESGへ配慮することを重視する見方が広まっており、ARESは会員社の自主的な取り組みを引き続き支援します。これまでJリートにあまり馴染みがなかったという方々も本事例集を手に取っていただき、JリートのESGの取組みに関して理解を深めていただければ幸いです。本日はありがとうございました。
本対談で紹介のあった「ARES ESG情報開示の事例集」は以下から閲覧することが可能です。ご興味のある方はぜひ、お読みいただければと思います。
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宮﨑 菜緒(みやざき なお)
慶應義塾大学経済学部卒業後、金融機関での不動産ファイナンス関連業務を経て、2014年より現職。主にESG関連の調査研究、会員支援業務に従事。
不動産証券化協会認定マスター。不動産鑑定士。
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(※1) GRESBは、オランダのAPG、PGGMやイギリスのUSSといった欧州の主要な年金基金等により2009年に創設された不動産会社・運用機関のESG配慮を測るベンチマーク評価。
(※2) TCFDは、金融安定理事会(FSB)により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指し、年次の財務報告において、財務に影響のある気候関連情報の開示を推奨する報告書を2017年6月に公表した。