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日本総研ニュースレター 2021年10月号

SDGs 観点で振り返る東京2020~ソーシャルキャピタルの醸成にスポーツが寄与~

2021年10月01日 東一洋


 コロナ禍での開催となった東京2020オリンピック・パラリンピックは、開催の是非を巡って国民的議論を巻き起こし、史上初の無観客開催となるなど、異例の大会となった。しかし、この異例さのなかにも、「すべての人を取りこぼさない」というSDGsの観点から振り返れば、今後の大会、そしてスポーツ界の在り方や役割に対する示唆に富んでいたように感じた。本稿では、こうした示唆を「レガシー」として、筆者なりの考え方を提示したいと思う。

スポーツと遊びの境界がなくなる
 今回、新競技として加わったスケートボードは大変印象的であった。従来の競技に比べ「遊戯性」に富み、競技者の姿もそれを体現していたからである。
 スケートボードはこれまで、公園等を管理する地方自治体にとっては、若者による「迷惑な遊び」と捉えられてきた。階段やコンクリート床を傷めるため、「スケートボード禁止」が当たり前になった。スケートボードに興じる若者を扱った映画作品も多いが、テーマは他のスポーツ種目を扱った作品に見られる「国威発揚」や「根性」などではなく、「鬱積した、居場所のない若者たちの日常」であることが目立つ。
 この「不良の遊び」が、東京2020をきっかけに見直されるようになってきている。スポーツとは、「上級生や指導者から理不尽にしごかれながらも歯を食いしばって努力するもの」だけではなく、「面白いから、楽しいから、仲間と会えるからやるもの」でもあると改めて気付かされたのである。筆者は、こうしたスポーツが若者の新たな居場所となれば、不登校やいじめ問題からの避難場所、そして自殺の防止にもつながるのではないかと考える。
 スポーツ界全体で、これまでの縦型ヒエラルキー社会の功罪を検証し、次の段階へと進んでほしい。

多様な人々が集うパラスポーツという概念
 筆者も東京招致に関わっており、当時から今回のレガシーの多くはパラリンピックがもたらすであろうと考えていた。
 1964年の東京大会では、新幹線や高速道路といった有形物や、外食・警備サービスといった日本になかった新たなビジネスを生み出したことが知られている。しかし筆者は、「スポーツ少年団」に代表される国民のスポーツへのアクセシビリティ向上の仕組みの全国普及を指摘したい。当時はまだ戦後20年、復興を経て、欧米諸国と経済的な競争の時代を生き抜く体躯と精神力を持った個としての日本人を育成・輩出することが大きな課題であった。そこでスポーツが使われたわけである。その後の経済発展の裏では、1964年東京大会も大きな役割を果たしていたのである。
 ここで今回のパラリンピック、特にハンディキャップについて考えてみたい。スポーツ競技の多くには性差や体重、年齢などの違いを整え、公平性を担保するルールが存在する。ゴルフのハンディキャップもその一つである。筆者の子供の頃の鬼ごっこでは、小さな子供は1回追い付かれても鬼にはならない「ごまめ」とされ、ごまめは2回もしくは3回で鬼になることにして遊んでいた。これは年齢差・運動能力差を超えて地域の皆が一緒に遊ぶ「ルール」であった。「鬼ごっこ(園児級)」「鬼ごっこ(高学年級)」があったわけではない。
 また、ボッチャは、重度脳性麻痺者や同程度の四肢重度障がい者のために考案されたスポーツであるが、適度な運動量であることから、実際、老若男女、障がいの有無など関係なく誰もが参加できる「頭脳戦」として親しまれている。
 このようなことを考えると、オリ・パラが別々に存在することへの疑問が生まれてくる。同じハンディキャップでも、人々を分類する指標としての「人のハンディキャップ」ではなく、多様な人々が同じカテゴリーで競い合えるようにするための「ルールのハンディキャップ」について、各競技で展開すべきではないか。目の不自由な人だけがブラインドサッカーをするのではなく、目を使わない種目がブラインドサッカー、という考え方である。メッシが今後ブラインドサッカーアルゼンチン代表となってもいいのである。その代表を多様な人々が競い合うことが、分け隔ての無い社会を象徴し、また多様な人たちの交流機会となって差別や偏見をなくすことにつながることも期待できる。

 1964年東京大会では強い個を作るためにスポーツが使われたが、東京2020は人口減少社会において、新たな社会関係資本としての「ソーシャルキャピタル」の醸成にスポーツが寄与できることを示した大会になったと筆者は考えている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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