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ビューポイント No.2021-010

「悪い円安」論の背景と企業・家計に求められる対応― 株式・エネルギー関連税制の活用と成長戦略の推進を ―

2021年12月28日 牧田健


一部で「悪い円安」論が広がり始めているが、対外純資産を抱え、ディスインフレのわが国では、「円安」は今でもプラスに作用するはずである。しかし、2000年代以降、わが国製造業が生産拠点を海外に移転し為替に左右されにくい輸出構造を構築するなか、円安が進行しても輸出は増えにくい構造に変質している。一方で、直接投資収益の受取は増大しており、円安進行により、営業外収益の増加を通じて経常利益が大きく改善するようになった。この結果、円相場と株価の連動性も高まっている。

こうしたなか、円安の波及効果はかつてに比べ限定的になっている。製造業の売上高人件費比率は、2000年代後半以降安定的に推移しており、円安進行により営業外収益が増大しても、売上が増えない限り人件費も増加しなくなっている。設備投資についても、製造業の設備投資額は海外現地法人からの収益を含んだ経常利益よりも、国内向け出荷・輸出を源泉とした営業利益との相関が強い。一方、株高は消費押し上げに作用するほか、年金積立金運用にプラスの効果を与えているものの、前者の効果が及ぶのは一部の層に限られ、後者は国民から見えにくい。短期的には、新型コロナ感染を受けたインバウンドの停滞も、円安メリットを減少させている。

これとは対照的に、円安に伴うデメリットは顕在化しやすくなっている。やや長い目で見ると、2000年代前半の原油高局面以降、わが国の交易条件は著しく悪化している。悪化の主因は原油価格そのものながら、円安が原油高によるマイナス影響を増幅している。また、輸入浸透度の高まりにより、円安によるコスト上昇が顕著になっている。

一方で、円が実質実効レートベースでみて歴史的な円安水準になっていることが、円の割安感を生んでいる面があり、円安進行の一定の歯止めになっている。しかし、実質円安は、わが国の国際競争力の低下を反映している可能性があり、その場合必ずしもその後の実質円高への転換につながるとは限らない。

これまで実勢相場における円安の目処として機能してきた消費者物価ベースの日米購買力平価は、足元113円前後であり、それに基づけば現在の円安はピーク近辺にあり、今後円高への揺り戻しが到来するとみることもできる。もっとも、英ポンドは、EU離脱決定以降、同水準を超えてポンド安が進行しているように、わが国においても経常黒字の消滅などのカタリストがあれば、同水準を超える円安が定着する可能性は否定できない。

定着が懸念される円安と共存していくためには、以下の取り組みが必要だろう。第1に、これまで高コストが海外需要獲得の足枷となってきた高品質財・サービスの輸出促進。第2に、円安メリットの幅広い家計への均霑。円安が株価に反映されることを踏まえると、国内従業員への自社株保有促進、グローバル展開している国内企業に対する株式投資奨励は有用であろう。第3に、海外現地法人利益の研究開発投資への一段の充当。第4に、企業および家計にとって一番円安デメリットを感じやすいエネルギー価格の高騰抑制。一定の価格水準を超えるとエネルギー関連の減税等を通じて負担を吸収していく必要があるだろう。円安は、国民生活の向上につながりにくくなっている以上、政府・企業・家計はいずれも、できるだけ円安メリットを享受し、円安デメリットを抑制すべく、経済行動や各種制度を機動的に見直していかなければならない。

一方で、実質円安の進行に歯止めをかけるためには、輸出競争力をはじめわが国の成長力を強化する必要がある。そのためには、IT関連投資の積極化、労働市場の流動化、競争力強化を意識した資源配分等の取り組みが不可欠である。


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