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第三世代の事業創造 「データドリブンの社会課題解決型事業創造」による成長を目指せ(その1)

2021年12月15日 大津順一


社会課題解決型事業創造とは
 「社会課題解決」という言葉から、SDGsやESGの概念を想起される方も多いのではないだろうか。その言葉が持つイメージから、世の中の仕組みや構造を劇的に変える、壮大なソリューションのようなものを思い浮かべられる方もいるかもしれない。それは確かに一面であるが、私は社会課題とは、もっと身近な、「社会や生活の変化により表面化した、人々の実生活に潜む、さまざまな課題や困りごと」であると捉え、それらを取り除くことが社会課題解決であり、ひいては持続可能な社会につながるものだと考える。

 そして、本稿では、社会課題解決型事業創造を、「社会や生活の変化に伴い、既存の地域社会システムの枠組みでの対処が困難となった結果、新たに顕在化した社会・生活における多様な課題を、地域を支えるアクターやさまざまな企業群が協働し、持続可能なシステムに再構築する創造プロセス」であると定義し、論じていく。

なぜ今、社会課題解決型事業創造が求められているのか
 なぜ社会課題解決型事業創造が必要なのか。以下、4つの論点について述べる。

i. ステークホルダー・課題の多様性

  社会課題を、人々の実生活に潜む課題であると捉えるならば、課題の種類は非常に多岐にわたる。衣食住や健康といった根源的な欲求に関する課題や困りごとにはじまり、仕事やお金、趣味、自己実現といった発展的な欲求に関する課題まで、実に多種多様である。加えて、地域社会には実に多様な人々が暮らし、それぞれが役割を持ち、相互につながり合うことで一つの社会を形成している。
 このような多様な課題を抱えるさまざまなステークホルダーが存在するが故に、それぞれの利害が交錯するため、相互にメリットを享受できる協創型の事業創造が求められてきていると考えている。

ii. 領域横断的な課題解決

  多様に存在する課題は、それぞれ複雑に絡み合い、一つの課題を解決するだけでは困りごとが取り除かれないケースも多いのではないか。例えば、定期的な通院が困難な高齢患者の健康維持に関する課題に対し、受診勧奨をするだけで課題が解決されるかと言えば、必ずしもそうとは限らない。足腰の弱った要介護の高齢者では、バス停までの300mが大きな障壁となることは想像に難くないし、自宅には寝たきりの夫への老々介護の現実が存在するかもしれない。
 単に医療の側面からアプローチするだけでは課題は解決されない。地域社会単位で包括的に課題を解決する事業創造が必要である。

iii. 持続可能な仕組み

  また、単に目の前に起こっている課題を一度取り除いただけで、問題が解決されるというケースばかりではない。人々の実生活の中に存在する課題、困りごとであるからこそ、永続的に取り除かれる状態を作る、もしくは解決できない課題に対し、課題との折り合いを付けながら生活していける仕組みを創ることが必要である。持続可能な仕組みを創り出し、社会実装することが求められている。

iv. データドリブンの事業創造

  上記ⅰ~ⅲに加え、さらに昨今の事業創造において特徴的なのは、既存の社会システムの枠組みでカバーしきれなくなった課題を、テクノロジーの力を活用して、データドリブンで解決しようという点である。スマートシティに代表される街づくりの事例は、人々の日常生活におけるさまざまな行動に紐付くデータを、センシング・モニタリング等のテクノロジーを活用して収集、可視化し、データに基づき課題解決を進める社会システムの実装を目指すものだ。
 このような、データドリブンでの社会課題解決を目指す取り組みが日本においても活発化しつつある。


企業に求められる「第三世代」の事業創造
 企業が持続可能性を追求するならば、持続的な事業創造による成長が不可欠であることは言うまでもない。従来はテクノロジーの変化、満たされていないニーズの充足が事業創造の先導要因であった。一方、近年では、人口動態や生活習慣等の変化により顕在化しつつある課題を先回りして捉え、機会領域を創出する活動が先導要因となってきていると考える。

 過去を振り返ると、企業における事業創造はその目的、手段により、段階を踏んで進化してきた。
 企業が競争環境の中で、自社の成長のために、自らの強みによって新たな事業を生み出す段階を第一世代の事業創造とすれば、企業がオープンイノベーションにより社外に広く強みを求め、アライアンスやM&Aを通じて新たな事業を生み出す段階は、第二世代の事業創造である。いずれも、企業が自社の成長を目的とし、「自社もしくは協働による強み」を基点とした事業創造に成長機会を見出すためのものであるといって良い。
 そして、これらに対し、企業が自社の成長はもちろんのこと、社会の持続的な発展をも目指し、多様なステークホルダーとの協働の中で、データドリブンで課題解決する段階は、まさに「第三世代の事業創造」である。

 社会変化により顕在化した、既存の地域社会システムの枠組みで対処が困難な、社会・生活における課題や困りごとを、さまざまなステークホルダーとの協創を通じてデータドリブンで課題解決を促し、持続可能なシステムにつくり変える、そういう新たな「社会課題解決型事業創造」が求められているのではないか。



以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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