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日本総研ニュースレター 2021年8月号

取締役会「形骸化」リスクは執行サイドに~業務執行の複雑化に追いつかない体制整備~

2021年08月01日 山田英司


「プライム市場」目指し、加速するガバナンス改革
 2015年にコーポレートガバナンス・コードが施行され、上場企業を中心にガバナンス改革が本格化した。その後2018年の改訂を経て、本年6月に再改訂が公表された。今回の再改訂は、東証市場再編を控え、多くの東証1部上場企業が移行を指向するプライム市場において、「高度なガバナンス水準」が求められることに対応するものである。
 再改訂では、独立社外取締役の量的確保と保有するスキルの担保、さらにはサステナビリティやダイバーシティなどの対応状況を開示するなど、引き続き取締役会のモニタリング機能の強化が求められている。また、新市場への選択期間が年内であることからも、プライム市場への移行に向けて、ガバナンス改革はさらに加速すると思われる。

取締役会「形骸化」の要因への理解が必要
 ガバナンス改革が進む一方、そのガバナンス改革の優等生と呼ばれる企業を含め、不祥事が頻発しているのは事実である。そのため、一連のガバナンス改革の要となる取締役会が「形骸化」し、むしろ後退しているのという批判の声も上がるようになった。特に、重要性が高まっている独立社外取締役の人材が、量・質双方で不足していることもあり、実態として数合わせにとどまっているという声をよく耳にする。
 確かに、そうした批判を否むのは難しく、また、独立社外取締役の活動を支える運営体制も十分整備されているとはいえない。この状況では、独立社外取締役が中心となる取締役会が「形骸化」しているとのそしりは免れ得ない。
 しかしながら、現在の状況をもって、これまでのガバナンス改革が日本企業には適合しないとして否定する向きがあることには違和感を覚える。今後、東証市場再編によって影響力が増加すると想定される機関投資家をはじめ、企業活動において意識すべきステークホルダーがグローバル化しているからである。対応する企業サイドは、グローバルスタンダードに適合させる前に、現在起きている「形骸化」の構造とその要因を熟考する必要がある。

監督サイドに偏らない、執行サイドへの踏み込んだ改革を
 ガバナンスの「形骸化」を考察するには、監督と執行の両サイドからアプローチする必要がある。まず、監督サイドであるが、主たる担い手である独立社外取締役のスキル・経験が重要となる。そのため、米国・英国では数合わせにならないように、スキルマトリックスや実効性評価によって「形骸化」を防ぐ手だてを講じている。 日本でも、コーポレートガバナンス・コードの再改訂においてスキルの充足が言及されたことで、監督サイドからの形骸化リスクは減少するであろう。
 むしろ、懸念すべきは執行サイドにある。近年のガバナンスでは、監督と執行の分離が原則であるため、経営陣に対する業務執行についての権限委譲が進みつつある。ただし、そのためには、執行サイドによる自律性の確保、具体的には内部統制やリスク管理体制の整備と充実が重要な前提条件となる。実際に、コーポレートガバナンス・コードや関係する実務指針でも、グループガバナンスや3 線ディフェンス、デュアルレポートラインの整備などが重要な具体的取組事項として挙げられている。
 しかしながら、事業拡大のためのグローバル展開や、M&A・アライアンス拡大など業務執行が複雑化する中で、自律的な内部統制やリスク管理体制の構築が追い付いていないのが現実である。これに加え、現場最優先の名の下で、本来は自律的管理を行うべきところを本社の管理部門任せきりになっていたり、これらの取り組みを収益に直結しないコストと考え、体制強化に消極的な経営者も少なからず存在したりする。こうしたことが、執行サイドのガバナンス体制の「形骸化」と機能不全を招いているのである。
 ガバナンス改革は監督と執行の両輪が大前提であるが、近年の関心は監督サイドに集中している。しかしながら、リソースや時間が限定される監督サイドのみでガバナンスを担保することは容易ではなく、また現実的でもない。むしろ、執行サイドの踏み込んだ体制整備が、ガバナンスの「形骸化」を防ぐ最大の手だてであると筆者は考える。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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