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【シビックプライドを醸成する公共投資 ~地域におけるボールパーク・スタジアムのあり方~】
シビックプライドを醸成する公共投資
~地域におけるボールパーク・スタジアムのあり方~(前編)

2021年11月26日 大野木洋輔


 近年、「ボールパーク」など各地で「見て楽しい」野球場などの体育施設の整備が進んでいる。一方、これらは専ら民間収益事業のポテンシャルが高い大都市を中心に成立する施設である印象が強い。
 しかし、「見て」「プレーして」楽しい高規格な野球場などの体育施設を整備することの住民にとっての意義は、大都市だけに存在するわけではない。民間収益事業の規模が限定的とみられる地域でも積極的な事業展開によって集客向上を図りながら、住民の健康を増進させ、ひいては住民の誇りとなる施設を創り上げることができるのではないか。このような着眼点では、事業コンセプトをしっかりと整理の上で、市場規模に応じて、公共施設を集約化の上で、運営面での工夫を呼び込みPFI事業とした盛岡南公園野球場(仮称)整備事業の事例が参考になる。
 盛岡南公園野球場(仮称)整備事業のポイントを全2回にわたり、掲載する。

前編:野球場へのPFI導入への論点
(1)民間ノウハウを引き出した球場の整備
 楽しい「ボールパーク」はたくさん人が集まる大都市の話――プロ野球が年に数試合程度開催される地方都市においては、これまで野球場といえばプロの試合当日以外は高校野球や社会人野球、草野球の関係者が利用することが専らであった。野球場は必ずしも野球を実際にプレーする関係者以外に広く認知された場でなく、施設の仕様も最低限であることが多かった。
 そうした中で、積極的な投資によって「見て」「プレーして」楽しい高規格な野球場を整備することで、住民が集い、新たな文化を創造できるようなボールパークを作る試みが、盛岡で行われている。
 盛岡南公園野球場(仮称)整備事業(盛岡市)は、従来の盛岡市営球場・岩手県営球場よりも高規格な2万席の野球場と、規模を拡大した屋内練習場を新設し、それらを15年間の運営・維持管理とともに民間事業者に委ねるPFI事業である。公共負担と民間活力を組み合わせることで、高規格な野球場等を整備し、運営面においては民間ノウハウを活用した自由な利活用を引き出す事業を実現している。



(2)提案を引き出すための基本計画の工夫
 ただし、一口に「民間活力の導入」といっても、曖昧な条件では具体的かつ良質な提案を引き出すことは難しい。本邦初となる野球場におけるPFI事業を実施するにあたって、財政負担を考慮しつつ良質な提案を引き出すため、以下の課題を解決する必要があったとされる。

 ①高規格な野球場を活かした運営コンテンツの見極め
 2万席の観客席を設けても、満席近い集客が見込めるのは年間数日程度のプロ野球だけであることは明白なため、施設の稼働率を上げられる集客コンテンツを継続的に確保することが課題であった。
 「盛岡南公園野球場(仮称)整備事業基本計画」(以下、「基本計画」という)には、整備コンセプトとして、「プレー」しても「観て」も楽しいボールパークを、県と市が手を取り合い実現することにより、岩手・盛岡の憧れを創る」のもと、「岩手・盛岡の人たちの憧れの場所の実現」「プレーしやすく・観戦して楽しい多目的ボールパークの整備」を実現する旨の記載がある。盛岡市および岩手県では、内閣府の補助を受けて実施した「盛岡南公園野球場(仮称)整備業務民間活力導入可能性調査業務」において、これらの実現性を調査しており、報告書にその記載がある。



 整備コンセプトには、「岩手・盛岡の憧れを創る」ことが明記されている。そこからは、単に運動だけを行う従来型の「純粋な運動施設」ではなく、ボールパーク化によって住民の憧れとなり、運動を行う利用者だけでなく来場者全員の心にシビックプライドを醸成できる空間を創出する方針が読み取れる。このコンセプトを踏まえたうえで、事業として具体化するためにさまざま検討が行われてきた。
 報告書には、これまでの主要利用者であった高校・大学・社会人などのアマチュア野球の関係団体からの需要や施設要望についての調査の他、関係団体や体育施設の運営事業者にもヒアリングを行い、追加的に想定されるスポーツツーリズム(合宿等)やエンターテインメントなどの可能性についての市場調査の結果が記載されている。そこでは、例えば、屋外球場であることなどからエンターテインメントとしての活用は見込みにくく、また、市街化調整区域に位置するため常設のカフェ・コンビニ等も難しいことなどが明らかになったとされている。
 一方で、夏季を中心とした合宿需要が一定程度期待できる他、大規模な屋内練習場はこれまで市内に類例が少なく、冬季も含め野球以外にも広く活用の可能性があるなど、民間事業展開の余地が得られることも期待できるとされている。
 これらの結果を踏まえ、基本計画においては、整備する施設を「高規格な野球場(2万人)」「大規模な屋内練習場(50m四方)」としつつ、都市のブランディングや健康増進、スポーツツーリズム等の機能を求めることに集中し、事業性に不安がある過分に付帯的な施設・設備(エンターテインメントを見込んだ設備や、コンビニ等)は設けないこととした。
 整備する野球場・屋内練習場の中においては、特段の条件を付さず、自主事業の自由な提案を受け付けるとともに、民間事業者(SPC)自らの収入とすることで、建築物を活用した事業者の創意工夫を呼び込むこととした。
 施設配置についても、例えば、「盛岡南公園野球場(仮称)整備事業要求水準書」によれば、日中時に外野手が日差しを直視しないよう本塁の方角を北東~北西方向とするなど、本来の設置目的であるアマチュア野球の利用に配慮されている。一方、トレーニングルームについて設置は求めるものの、場所は定めず、野球場(本体の施設)、屋内練習場いずれでも可としており、事業者にからは動線等も含め工夫された提案を求めることとした。
 
 ②事業者提案と地域利用の両立
 需要の喚起を伴う民間事業者の自由な提案を求めているとはいえ、既存球場の利用者が継続して利用できなくなる提案は自治体として受け入れにくい。特に、本事業においては二つの球場を統合しているため、確実に稼働率の向上が見込まれ、事業者提案と既存需要の両立は課題でもあった。
 これらの提案の素地を用意してもなお残るのは、地域利用との両立の課題である。需要喚起を伴う提案は、ともすれば収益優先となり、地域の施設利用ニーズを圧迫する可能性がある。
 このため、導入可能性調査においては市内の既存利用ニーズの調査が行われた。市内の野球場全体の施設を洗い出し、市営・県営両球場の過去の利用履歴を調査の上で、例えば高校野球等、県・市の大会で確保すべき日程の優先順位が整理されている。
 これらの内容を要求水準書に示すことによって、稼働が逼迫する時期や利用を促進すべき時期など、事業者が事業計画を立てるにあたり有益な判断材料を提示すことができた。
 書面には書き切れない細かな利用ニーズの調整については、優先交渉権者選定後に既存球場の利用調整会議への参画などを経て事業者と二人三脚で調整方法を確立している。

(3)新たなシビックプライドを醸成する野球場へ
 これらの課題について解決を図り、事業者を公募した結果、2グループから具体性の高い提案が提出された。最終的に選定された清水建設株式会社を代表企業とするグループの提案では、総合型地域スポーツクラブとの連携による部活動支援や、スポーツコミッションと連携したスポーツツーリズム等、地域活性化に基づく具体的な提案があり、審査委員からも評価を得るに至った。また、施設計画にも工夫がなされ、イベント広場の配置や、回遊性やにぎわい創出を重視した、野球をプレーする人だけでなく見る人、あるいは他の来訪者にとっても楽しい空間を演出できる設計の考え方となっている。
 プレーする側、例えば最も多く使われる用途の一つである高校野球についても、試合前後の選手や応援生徒の入れ替えなどを要求水準として定めていることで、野球場としても大きな支障のない動線・施設設計となっている。

 この他、新たに設けられる屋内練習場については、別棟として計画され、当初の期待に違わず、時に期待を超える提案が寄せられた。ランニングコースやボルダリングなど、野球に限らない多目的な利用のために、ロッカーやシャワースペースなども充実し高い稼働が期待できる計画になっている。
 運営面においても、これらの施設計画を基に、サマーベースボールや野球合宿、周辺住民向けのスポーツ教室など、地域企業や団体と連携した多彩な提案を引き出すことが出来た。
 既存の野球場が冬季は一部を除いて閉鎖されることは、課題の一つとされている。予算の制約もあって、要求水準書では冬季の積極的な活用を求めなかったものの、事業者からは屋内練習場も含めた冬季の利活用の提案も得られた。

 現在、2023年4月の供用開始に向け建設中であるが、野心的でもあった2万人規模の高規格な野球場、屋内練習場についても、前提条件や公共ニーズ、市場環境を整理の上で、PFI事業として提案を募ると、民間ノウハウを最大限発揮して施設のポテンシャルを最大限引き出した魅力的かつコスト面でも有利な事業が得られることが示された。厳しい財政状況下にあるとはいえ、それに甘んじず、より高規格な施設と民間ノウハウを掛け合わせることで、地域のシビックプライドを醸成できる貴重な財産を創り上げられれば、盛岡だけでなく全国の地方都市のモデルともなるであろう。



 多様な提案が出てきた本事業であるが、市県共同事業として、予算も意思決定プロセスも異なる二つの主体が共同で事業を遂行するには、解決すべき課題が多々存在したのも事実である。後編では、具体的にどのような事業スキームを構築していったかについて焦点を充てる。

(続く)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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