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リサーチ・レポート No.2021-016

デジタル・マネーの普及がもたらす銀行システムへの波紋-イギリスの取り組みとわが国への示唆-

2021年11月22日 河村小百合


近年のブロックチェーン(分散型台帳技術)等の情報技術革新を背景に、デジタル・マネーの実用化が現実味を帯びている。デジタル・マネーには、中央銀行が発行する「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」と、民間主体が発行する「ステーブルコイン」とがあるが、ともに既存の預金通貨に頼らず、現金通貨同様の“決済のファイナリティ”を有する画期的な決済手段であり、新たな通貨の形態といえる。

こうした決済・金融システムにおけるデジタル化という“地殻変動”に対して、イギリスは、主要国のなかでも先陣を切って前向きな検討を進めてきている。

2019年の“リブラ構想”の発表等を受け、イングランド銀行(BOE)は当初、リブラ等のステーブルコインの将来的な普及をリスクと捉え、その対応としてCBDCの発行準備を進める構えを示していた。しかしながらBOEの協議に応じたイギリス国内の各界からは、「多様な参加者で構成される、競争的なCBDCのエコシステムの形成が望ましい」、「CBDC以外の決済イノベーションにも価値がある」といった考え方が一致して示される結果となった。

BOEはこうした指摘を素直に受け止め、2021年入り後は、ステーブルコインの安全性確保のための規制の整備を先行させたうえで、ステーブルコインとCBDCを合わせて「新たな形態のデジタル・マネー」と捉え、両者を並行して流通・普及させることを視野に入れる方向に舵を切った。

「新たな形態のデジタル・マネー」の普及によって、決済システムの利便性や安全性が増す半面、民間商業銀行を中心とする既存の金融システムに影響が及ぶことも考えられる。BOEは民間商業銀行の預金のうちの約2割が、「新たな形態のデジタル・マネー」に流出する可能性がある、との見方を示している。ひいては、BOEの金融政策運営にも影響が及ぶことになる可能性もある。

こうした“地殻変動”に際して、BOEは「新たな形態のデジタル・マネー」が普及する初期段階を“移行期間”と位置付け、実際の預金の流出の進み具合や、民間商業銀行側の対応状況を当局としてリアルタイムでモニターしたうえで、万が一、民間銀行側の対応が追い付かない事態となれば、預金の流出に当局がストップをかけるという「予防的な調整」も導入する考えを示している。現在、同国内で幅広いステークホルダーとの協議が行われている。

イギリスはこのように、通貨・金融のデジタル化に対して、既存のシステムの一部にはマイナス影響が及ぶことになることも承知のうえで、国全体をあげて、“新たな地殻変動”に対応しようとしている。イギリスは、もはや“超大国”ではないが、金融分野に限らず、こうした変化に国を挙げて対応することを得意とする国であるからこそ、今日もなお、世界経済のなかで一定の存在感を放ち、潜在成長力も維持しているのではないか。

翻ってわが国の場合、決済の際の現金志向は諸外国対比で相対的に根強い。ステーブルコインは欧米各国ほどのプレゼンスはないこともあって、デジタル・マネーの普及面では日銀によるCBDCが先行する可能性が高いものとみられる。その場合、民間銀行からの預金の流出は、イギリスほどのレベルにはならないとしても、民間銀行側にとっては決して軽い負担ではなく、従来、民間銀行が預金の受け入れと併せて行ってきた貸出による経済全体への信用供給や、国際決済と併せて担ってきた外国為替管理の実務にも影響が及ぶ可能性がある。

デジタル・マネーの台頭は、単なる“決済”分野の問題にとどまらず、①一国の経済における金融の機能の在り方や、②一国の通貨主権の実務上の行使の在り方という、重い課題を含むものである。わが国としても、規制環境を整えたうえで新たなプレーヤーを取り込みつつ、既存の銀行側にも変革を促したうえで、イノベーションの恩恵を最大限に享受できる体制を整えていくことが求められる。

コロナ禍で財政事情が一段と悪化し、日銀のバランス・シートも質・量ともに悪化しているわが国にとっては、通貨のデジタル化の進展は、万が一の際に危機が急速なスピードで進行しかねないことを意味する。ゆえに、わが国としては、デジタル・マネーの台頭を“もう一つの目覚まし時計”と捉え、本腰を入れた財政再建と金融政策運営の正常化に取り組むことが求められているといえよう。


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