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日本総研ニュースレター 2021年1月

「SDGsに貢献するビジネス」を大学生はどのように見ているか

2021年01月04日 村上芽


採用活動に危機感……SDGsへの関心を深める企業
 SDGs(持続可能な開発目標)の達成にビジネスで貢献しようと考える企業が、ますます増えている。日本総研の調査では、上場企業800社のうち、何らかの形でSDGsへの貢献をウェブサイト等に掲げる企業が、2020年5月時点で477社に上った。これは、2018年の237社と比べてほぼ2倍である。2020年は「感染症対策で、SDGsどころではない」という空気が産業界やメディアを漂うのではないかという意見も一部にはあった。しかし、むしろSDGsを指針として、長期的な経営計画を策定したり、非財務面での経営指標を設定したりしようとする企業が増えているとみることができる。
 企業がこのような動き方をする背景には、SDGsを製品・サービス開発や事業拡大のヒントにしようという意欲や、投資家からのプレッシャー(特に、気候変動対策の強化)もあるが、それ以上の共通要素としては、「SDGsを意識しないと採用活動で取り残される」という危機感がある。
 筆者は、上場企業の経営層と会話するなかで、「採用面接で学生から問い合わせを受けた」「採用したい学生ほど、SDGsやESGに関する質問をしてくる」といった声を何度となく聞いた。サステナビリティやSDGsとビジネスとの関係を小冊子にまとめ、採用活動で配布する企業も現れ始めた。

「環境学習」になじんできた学生世代
 では、情報の受け手である学生たちは、そのような企業からの発信をどう見ているのか。大学生以下の世代は、ほとんどが、世界の気候変動政策で1つの通過点でもあった、1997年の京都議定書の採択以降に生まれている。
 学習指導要領で「持続可能な社会の担い手」としての学習が強化されたのは2020年になってからであるが、この世代は、それ以前からも様々なチャネルで気候変動をはじめとする環境問題について学んでいる。2002年には、小学校で「総合的な学習の時間」が導入され、国際・平和・環境などの科目横断的なテーマで学習するようになった。また、2002年の国連総会で日本が提案し、採択された決議によって、2005年からの10年間、「国連持続可能な開発のための教育の10年」が実施された。
 ビジネスパーソン世代には耳慣れない「持続可能な開発のための教育」(ESD)とは、世界的な課題を自らの課題として捉え、身近なところから取り組むことで、課題解決につながる行動や持続可能な社会の創造を目指す学習や活動のことをいう。ESDにすべての学校が取り組んでいたとは言えないが、学生世代にはこうした素地がある。

SDGsに貢献したい企業を見る目
 環境学習になじんできた世代に対して、筆者は大学で講義を行う機会を得ることがある。1コマ1.5時間限りではあるが、今年度は複数の大学で、SDGsやESG投資の話をすることができた。講義では、ESG投資に関する基礎的な知識のほか、SDGsについては学生に一定の基礎知識があることを前提に、新型コロナウイルス感染症を受けた最近の動きを紹介している。また、筆者が通常の業務(SDGsやESGに関する企業調査や、SDGs推進のための人材育成等のコンサルティング)を通じて知り得た好事例や、ビジネスでSDGsに貢献する際の留意点なども紹介するようにしている。
 新型コロナウイルス感染症対策としてオンライン授業の方が多かったが、各大学で工夫がなされ、講義の途中でのチャットを用いた質問回答や、事後の質問・感想の提出、講師からのコメント返却などのコミュニケーションがあった。
 学生からの質問の中で目立ったのは、「SDGsに貢献する企業と、うわべだけの企業をどのように見分けるのか」「大企業のサプライチェーンは複雑であるが、SDGsに貢献しているという宣言は、実態に沿うものと証明できるのか」「営利企業が取り組んでも中途半端になって、かえって目標達成に悪影響を与えるのではないか」「ESG投資が増えてもジェンダー平等は実現されないのが日本の実態と感じる」といった、かなり厳しい意見である。
 特に学部3年生など、就職活動を控えた学生は、理想と現実のギャップを鋭く考え、それに対する何らかの答えを求めていたと考えられる。このギャップについては、同様に悩むビジネスパーソンも多いであろう。企業の情報発信では、飾りすぎず、率直に矛盾も認めながら対応する姿勢が求められていると考える。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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