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修理する権利で「コンピュータおばあちゃん」の時代が来るか[1]

2021年11月09日 大原慶久


 「修理する権利(right to repair)」の法制化が欧米で進みつつある。「修理する権利」の擁護は、消費者が製品の修理をする選択肢を増やせるよう、修理に関する情報にアクセスできる環境の整備や修理用のスペア部品の合理的な価格での入手方法の提供が柱になる、計画的な陳腐化防止などの措置も含まれる。当初は消費者権利保護の意味合いが強かった。ただ、欧州では2020年11月に欧州委員会が発表した循環型経済行動計画(Circular Economy Action Plan)の4テーマに位置付けられており、環境保護や循環型経済構築といった意味合いも濃くなっている。

 米国では、2021年7月に発行された大統領令14036でFTC(連邦取引委員会)において規則発行が指示され、同月FTCで規則の施行が全会一致で採択された。環境保護に加え雇用や経済への活性化、競争力の確保を期待する内容となっている。

 一般的に、「修理する権利」の対象は製品全体となっており、ハードウェアとソフトウェアといった区分はない。ソフトウェアのコードやドキュメントを解放してユーザが改修していくようなエコシステムはOSS(Open Source Software)の領域では広く普及している。他方、商業用ソフトでは知的財産尊重、消費者安全の保護、法規適合、サイバーセキュリティ確保などの観点で、「修理する権利」を利用者に認めていくことに、製造者・販売者側からの反発が強い。このため、製造者・販売者側に要求される保証の範囲や期間と合わせて、今後も議論を続けていく必要がありそうだ。

 製品故障は製品が使用されている場所であればどこでも発生し、故障内容は様々なため、状況に合わせて臨機応変に修理できるようにする必要がある。また故障状況や製品の種類、製造者・販売者側の姿勢によって修理の時間や費用が大きく変わる。このため、地元業者に修理を依頼するほうが効率的な場合も多い。ドイツやオーストリアでは修理に対するインセンティブを設定し、地元経済への好影響や廃棄物削減の効果について実証と分析が進む。ウィーンでは、修理の需要が大きく、短期間で用意した資金が尽きたものの、インセンティブを付帯した施策で、3ヵ月のうちに8,000台以上の製品が修理され、約190トンの二酸化炭素が削減されたという。オーストリアでは各実証地域での成功を受け、全土での施策の展開を検討している[2]

 日本で、欧州同様に「修理する権利」の導入を図る場合の課題は、誰が担い手となるかであろう。誰もが修理に必要な情報や物資を入手できるようになったとしても、公開された情報を読み、理解し、安全に正確に修理作業を行うためには、最低限の「もの作りの技能」が必要になるためだ。

 そこで、定年後のエンジニアに注目したい。2019年に行われた厚生労働省調査から製造業の定年退職者は7.5-11万人と推測される[3]。またエンジニアの定年後の就労意欲に関する調査結果では、8割以上の人が定年後も働く意欲を示しており、定年後の就労環境として「自宅から通いやすい場所」、「能力・経験が生かせる仕事」を望む人が多い[4] 。これら意欲のあるシニア人材に修理の担い手になってもらうのである。地域としてはスキル人材の確保ができ、参加するシニアとしては収入源の獲得が行えると思う。さらに修理は実物に触れる良い機会でもあり、若手エンジニアのOJT機会として活用することができれば、地域の根付くエンジニアの育成や技術教育の場ともなりえる。

 現在、欧米で修理する権利の対象となっているのは一部家電や農業機械、自動車などにとどまっている。今後、対象や内容の広がりは進んでいくだろう。フランス国内やiFixitウェブサイト[5]では製品の修理しやすさを評価して、スコアとして表示する動きも進んでいる。今後も、この運動が消失することは無いだろう。日本においてもこのような運動を活かしたエコシステムの構築を実現していきたいと考えている。


[1] 伊藤良一, "コンピューターおばあちゃん", 1981, EXPRESS/東芝EMI. 「NHKみんなのうた」にて放送され30年近くたった今でも人気である
[2] Germany and Austria implement repair bonuses, 2021/10/29閲覧
[3] 2019 年(令和元年)雇用動向調査結果の概況, 厚生労働省, 2021/10/29閲覧
[4] 【エンジニア意識調査】現役エンジニアの81.2%が「定年後も働きたい」。必要なのは「資格」「体力」「コミュニケーション能力」, fabcross for エンジニア, MEITEC,  2021/10/29閲覧
[5] IFIXIT, 2021/10/29閲覧

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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