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ICタグを用いた廃棄物の情報サービスビジネス

出典:産業新潮 5月号 Vol.54 No.632

産廃ビジネス市場の期待分野

「廃棄物市場は2010年に22兆円」と言われて久しいが、新しい事業がなかなか立ち上がらないと感じられる方も多いだろう。特に有望視される「情報化」に関しては、数十億円にとどまり、あまり伸びていないというのが現状である。その理由は、廃棄やリサイクルに新たな情報投資をするだけのメリットが、排出者や処理事業者などに得られなかったからである。しかし、近年、環境リスクが高まっていることや、リサイクルの品質管理が求められるようになったことから、事態は変わり始めている。「廃棄物・リサイクルの情報サービスビジネス」が注目されている。

信頼性が問われる 産業廃棄物の収集・処理

法制の強化
1999年、ダイオキシン類対策特別措置法が制定され、産業廃棄物の取り扱いには、これまでにない厳しい制約が設けられた。汚染の被害から考えれば、ダイオキシンを抑制する法律の制定は当然のことと言えるが、それによる産業廃棄物処理の業界への影響は大きかった。この時期に、処理技術の面で対応しきれない多くの事業者が廃業となった。さらに、2000年、社会問題化する大規模な不法投棄に対応すべく、廃棄物処理および清掃に関する法律(通称、「廃掃法」)の罰則強化が行われた。本改定により、不法投棄を意図的に実施した場合の罰金は最大1億円(法人に対して)となった。このような規制強化に伴って、廃棄の信頼性を確保する動きが活発となってきた。

新しい事業環境
一方、リサイクルに関しても、これまでに制定されてきた各種のリサイクル法が実施年を迎えている。自動車リサイクル法は今年の1月に適用が始まった。本法律によって、従来、問題となっていたシュレッダーダストを処理する仕組みが構築された。また、食品リサイクル法では今年度中の実施体制の確立が求められている。このような規制の強化は、従来の処理方法では事業の継続が難しくなったことを意味しており、廃棄物処理事業者に新しい展開を迫るものとなっている。その1つがリサイクルである。また、1つには、自ら信頼性の高い事業者であることを証明して、厳しい環境を逆に味方に付けて、顧客を増やすという戦略である。いずれにしろ、何かしらの戦略を立てることが必要となってきたのだ。 

信頼性確保のための社会システム

不法投棄問題の根源
不法投棄問題の根源はどこにあるのか。さまざまな見解はあるが、その主な理由の1つに、マニフェスト制度の仕組みの問題がある。マニフェストとは、廃棄物の排出者が発行する適正処理の管理票である。収集運搬や処理施設の方がそれぞれチェックして最終処分まで確認を行う。それぞれ関与した方々が排出者に控えを返送して、それがすべてそろえば適正処理の終了となる。このシステムが適正に機能すれば、廃棄物は最終処分までされたことになる。しかし、。実際には、マニフェストと廃棄物が一体になっていないために、マニフェストが確認終了しても、適正廃棄が行なわれていないという事態も生じる。これを解決するには、情報(マニフェスト)と物(廃棄物)が一致(情物一致)しなければならないのだ。

注目されるICタグ
「情物一致」を行うのに、極めて有効なツールが開発され、このところ話題になっている。それは、「ICタグ」または「IDタグ」と呼ばれる、非接触で情報の読み書きができるICチップである。技術的には古くから利用されているものであるが、近年、JR東日本の「Suica(スイカ)」などに利用され注目を再燃させた。 以前に比べて、小型高性能化、安価になったのがその理由だ。中には、0.4ミリ角の中に、情報処理するチップと、電波を拾って、返信用の電波を発するアンテナが一体となっているものもある。電池内臓でない場合、電波の届く距離は短いもので数センチ、長いものでは数メートルに達する。バーコードのように、貼ってある場所を探して読み取る必要はなく、電波が届く範囲内なら読むことができる。

ICタグの課題
便利で、情報を物単位に持つことができるという点で、「次世代ITの主役」とまで言われるICタグであるが、現時点では一部の工場内の在庫管理などに利用されるにとどまっている。その理由はコストだ。便利ではあるが、バーコードなどの既存システムを置き換えてまで利用するメリットが得られ難いのだ。また、複数の関係者がメリットに応じたコストの分担をし難いという課題もある。このため、最も期待される物流分野になかなか普及していない。

課題克服のために
これらを解決するためには、ICタグのシステムを提供するということではなく、ICタグを用いたサービスの提供を行うビジネスが求められる。前述の課題は、いかにしてシステムを導入するかを考えた場合に発生する問題である。これに対して、サービスの提供を受けて、メリットに応じた対価をサービス提供者に支払う「サービス提供型」のビジネスを行えば、課題の多くは解決される。しかし、このようなサービス提供を行うためには、システムやICタグなど機器の導入に比べて、より高い付加価値がないと「サービス料」の対価が支払われることはない。この点を十分考慮し、サービスモデルで顧客に大きなメリットを提供できる事業が求められるのだ。

付加価値サービスの提供を行うビジネス
不法投棄の抑制を行うための管理を行えば、処理事業者にとっても、排出者にとっても、処理の信頼性が向上し、不法投棄を抑制するためのさまざまな間接費が軽減できるといった付加価値がある。しかし、この付加価値だけでは、多くの人に受け入れられる普及が可能なモデルにはならない。というのは、現実には、「信頼性のある処理事業者に委託をしているのだから、それ以上の信頼性確保の支払う予算はない」と考える人は多いからだ。このような場合に、ICタグの識別機能によって、排出部署ごとの分別精度を管理することで、廃棄物の処理コストを削減することにも貢献できるシステムは有効だ。このような新たな付加価値を提供するサービス提供事業者の出現が期待される。現在、日本総合研究所を中心として、36の企業・団体が組成するMATICSコンソーシアムでは、病院、環境先進工場において、このようなサービス提供型の事業開始に向けて、実証試験を行っている。2005年度中のサービス開始を目指す。

今後の展開 

廃棄物の情報サービスという新市場
ICタグは、環境分野の新市場として、廃棄物・リサイクルの情報サービスという新たな事業分野を切り開く。トレーシングによる信頼性の確保はもちろんのこと、取得した情報を適切に分析・加工して排出者の経営層に提供すれば、経営改善のツールにすることも可能だ。表立って計測し難い排出部門の管理効率の確認などは、貴重な経営データとなる。MATICSコンソーシアムでは、病院や工場と共同でシステム開発を行うことで、このシステム構築ノウハウを蓄積し、実サービス提供に備える。

導入始まる
ICタグを用いた廃棄物トレーシングの試みは、福岡ではすでに始まっている。東京でも本年度から数ヶ所の病院にてICタグのシステム導入が始まる予定だ。これらの新たなサービスを導入するかどうかは、時代の流れに乗るかどうかの別れ道となる。積極的な対応が排出者と処理事業者に求められることになる。

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