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CSRは企業をどう変え得るのか 広がるサスティナブル経営の領域
<-環境と経済の共生を目指して-> グリーンフォーラム21

出典:日刊工業新聞 2004年8月11日号

CSR-その本質と可能性・課題
利害関係者の支持を競争力に

CSRの背景には、厳しい時代の到来に対する人々の不安がある。今年1月のダボス会議でのアンケートでは、元来ポジティブ思考である世界の政官学のリーダー132人のうち、62%が「将来世代は今より危険な中で暮らす」と考えている。
03年はエイズで300万人が死亡。SARSが広まり、イラク攻撃も始まった。温暖化は依然進行。南北問題も変わらない。日本でも5年連続で3万人を超す自殺者が出ている。犯罪件数は昭和期の2倍になったが、検挙率は戦後最低。生活保護対象は100人に1人。90年代以降貧富の格差が拡大している。CSRは、海外からの”黒船”の側面は否めないが、こうした流れの中で盛んに取り上げられている。昔は企業が消費者に支持され、生み出した利益を納税で社会に還元することが社会的責任だった。80年代にはメセナ(文化擁護)やフィランソロピー(文化活動)が加わり、現在さらに範囲が広がった。法令順守、説明責任、情報開示、顧客に誠実である、人材尊重、環境保全の重視、発展途上国での生産・販売などグローバル市場での的確な行動ー。カネをだすだけでなく、社会活動に積極関与していく。新たに求められる企業像がCSRの意味ではないか。
米国の企業団体ビジネス・ソーシャル・レスポンシビリティー(BSR)の定義では、社会が企業に対して抱く法的、倫理的、商業的その他の期待に照準を合わせ、全ステークホルダー(利害関係者)の要求にバランスよく意思決定すること。社会が企業に今まで以上に多様な期待を抱く。市場のグローバル化の中で1国では対処できない問題が発生。欧州を中心に、企業行動を見つめる目が強まっている。
03年11月の米BSR年次総会でHPのフィオリーナ会長が、ノーベル経済学者フリードマン博士が70年にニューヨークタイムズ紙に寄稿した「企業の社会的責任は、利潤の拡大」という、有名な新自由主義的企業観を「近視眼的で持続可能とはいえない」と批判した。社会の構成要素の信頼感や機能に変化が出ているのではないか。02年に欧州と米国で4社会構成主体の企業、政府、NGO、マスコミについて信頼感を尋ねた世論調査では、欧州ではNGOが34%で企業が29、マスコミが19、政府が18。米国では9・11テロの後で政府は36と高いが、NGOも32あり、企業は40になっている。経済広報センターの02年世論調査では、62.4%の人が社会的責任を果たし倫理観を徹底させている企業の商品を優先購入すると答えた。企業間取引も変わる。イオンは03年から13項目のコード・オブ・コンダクト(取引要求事項)を採用。結社の自由、環境保全、贈答禁止などの協定を結んだ。学生の就職意識調査でも、一番多い「楽しく働きたい」が年々低下。「人のためになる仕事をしたい」「社会に貢献したい」が上がってきた。環境省の02年世論調査では、日本でも34.4%は投資の際社会的責任に関心があると答え、ある程度関心がある人を含めると8割を越す。03年7月に日本総研と住友信託銀行で商品化した企業年金向けSRI(社会的責任投資)ファンドは、25億円から始まり現在80億円規模。個人投資家向けは180億円を預かる。従来のNGOや消費者団体からの声や要求を「できればやり過ごしたい」から、彼らの期待や監視行動に積極的にこたえ、支持してもらうことで競争力に結び付けていく。いわば、「市場の進化」がCSRの本質。欧州でCSRが注目されているのも、拡大EU(欧州連合)経済圏を、アジア中心の安い労働力や米国の進出から守るために、域内で企業とステークホルダーのウインウインの関係をつくる狙い、いわば、「非関税障壁」戦略ではないか。CSR概念を海外にも輸出することで、逆に欧州企業優位に結び付ける。
日本でも同様の論点から、03年3月に経済同友会が出した「企業白書」など、経済界主導でCSR議論が起きた。気になることが2点ある。一つはCSRは法令順守経営の徹底だという認識で、あとは、CSRは日本的経営の長所の再評価・発信との理解。確かに大事な視点だが、これだけに偏重するのはいけない。ISO(国際標準化機構)がCSRの国際規格化に着手した。タイは輸出競争力の確保を狙いに03年、CSRの国家規格をつくり、9月には中国で初めてCSRの全国会議が開かれる。過去に日本企業が海外の事業活動で、CSR的な問題を引き起こして和解金や工場立地の変更などを余儀なくされた事例も多い。CSRは競争優位確保、裏返しでリスクマネジメントのツールであるとの着眼、高い感度がほしい。

 

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