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特集「金融と環境」国連環境計画
金融イニシアチブ 東京会議から考える

出典:月刊地球環境 2004年2月号


昨年10月20日、21日に開催された金融イニシアチブ東京会議は、500人以上が参加し無事終了した。国連環境計画からは、元ドイツ環境大臣であるトッファー事務局長が出席、日本からも小池百合子環境相がスピーチした。国連環境計画は1972年から、環境保全と両立する経済発展を促進させるための活動を進めてきた。銀行家や投資家も、利益を確保しつつ環境保全に対する貢献ができるとの認識から、1991年に地球サミット準備作業の一環として、国際的金融機関にそうした役割に関して認識の共有を求めた。これに呼応して、銀行界としての環境保全のコミットメントを宣言する動きが起こり、1992年におよそ30の銀行により「環境と持続可能な発展に関する銀行声明」に署名がなされた。この宣言は、金融業の環境配慮行動の社会的意義とそのあり方を簡潔に要約したもので、1997年に「UNEP環境と持続可能な発展に関する金融機関声明」と改称され、現在に至っている。また、国連環境計画金融イニシアチブは、当該声明の署名金融機関の自主活動組織である。

世界のコンセンサスが日本にも浸透

「金融機関は、環境分野での積極的な投融資活動や環境リスクマネジメント、さらにはガバナンスや説明責任・情報開示などを積極的に進めることにより、自らの存立基盤でもある経済社会の持続可能な発展に貢献できる」という考え方は、金融機関の「社会に対する責任」であると同時に、社会の「持続可能性」の進展にも大きな推進力となりうる。こうした世界のコンセンサスが、徐々に日本の金融界にも浸透し始めていることを、今回の東京会議は示したといえるだろう。例えば、3年前には皆無だった「UNEP環境と持続可能な発展に関する金融機関声明」に署名する邦銀の数は、現在では4行にまで増えている。環境問題と金融機関の関係は
1 環境負荷を生じさせる事業者としての責任の側面
2 金融機関の経営に影響を及ぼすリスクの側面
3 金融機関が新たな役割を果たせる事業機会の側面
の3つに分類できる。
環境負荷を生じさせる事業者としての責任の側面では、ISO14001審査登録件数が銀行、証券、保険の3業種で合わせて48件(2003年9月現在、日本規格協会調べ)に達した。これら金融機関では、紙の使用、廃棄物の排出抑制と適正処理、電力等エネルギーの使用について、目標値を設定して、その達成に向けて取組が行われている。金融機関の経営に影響を及ぼすリスクの側面では、2003年2月の土壌汚染対策法の施行がその認識を深める大きな引き金となった。土地を担保とする融資においては、土壌汚染の有無が担保価値を大きく左右することになり、実際、融資審査にそうしたリスク評価を反映させる金融機関も現れ始めた。金融機関が新たな役割を果たせる事業機会の側面では、企業の環境保全目的の設備投資が高い伸びを見せていることに呼応して、そうした資金需要に対する融資の拡大や社会的責任投資への関心に呼応した金融商品の開発が進んだ。また、土壌汚染に関連した保険商品の誕生も見られた。

ガバナンス、途上国問題に関心が薄い日本

ただし、日本の金融機関の関心や取り組みがまだ部分的であるという課題もある。今回の東京会議で国連側は「ガバナンス」、「情報開示」、「途上国における貧困と環境保全」、「生物多様性」、「NGOとのパートナーシップ」などのテーマをよりクローズアップさせたい意向だった。このことは、「環境」を所管するUNEPですら「グローバリゼーションの進展する世界の中での企業の社会的責任」という潮流を意識せざるを得ない現実を示している。グローバリゼーションの進展は、南北間の格差のみならず、途上国のなかでの所得格差を拡大させており、途上国の環境問題は貧困問題と密接に結びついている。国際的なNGOの関心も、もはや先進国ではなく途上国における多国籍企業の行動に向けられている。しかし、会議では「ガバナンス」や「途上国問題」に関するセッションに日本人の姿は少なかった。国内の不良債権問題に追われ、世界の金融市場でのプレゼンスの低下著しい日本の金融機関にとって、やむを得ない面はあるにせよ、「欧米の人たちは、ビジネスにならない途上国支援の話題に、何故あれほど熱心になれるのか」という戸惑いの声は、「途上国支援=政府の仕事」という規制概念の弊害を感じさせた。欧米諸国は植民地時代からの歴史的関係を背景に、自らの経済や社会システムが「途上国問題」と切り離せないことの認識を深めている。発展途上国が自国企業の潜在マーケットであり、その国の社会的安定が自国の社会的安定や世界の平和的秩序を形成するという考え方を金融機関も強く意識している。

温暖化防止でも欧米金融機関が積極的役割

また、地球温暖化防止の観点でも、欧米の金融機関は積極的な役割を果たしている。2002年から始まった「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト」では総資産残高4.5兆ドル(1ドル=120円換算で540兆円)を超える35の欧米機関投資家や資産運用機関が、世界の500社の大企業に質問状を送付し、温室効果ガス削減に関して投資関連情報を開示するよう迫った。これは、エンゲージメントと呼ばれる手法で、金融取引上の立場を利用して、企業に行動の促進や改善を要請するものである。2003年の活動は、11月に再開され、同様の質問状を送付しているが、今回は87機関、総資産残高9兆ドルにまでその規模を拡大している。ちなみに、今回このプロジェクトに参加した日本の金融機関は3機関にすぎない。われわれはグローバリゼーションという怒涛のなかで、それでも企業を、経済を、社会を持続可能なものとして存続させていかなければならない。今回の国連環境計画金融イニシアチブ東京会議にUNEPが揚げたコンセプト、"Sustaining Value"はまさにそのことを意味していることを再確認したい。

 

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