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連携の仕組みと進め方

-産学連携で日本を再生 1-

金子直哉

出典:アエラムックNo.93  2003年10月10日

研究開発促進
ベンチャー誕生
知的財産移転

東京工業大、東京電機大など

産学連携の議論が活発化しています。大学が産業界との連携を強化し、製品開発や事業創出に貢献することで、日本全体の競争力を高めていくことが求められているからです。産学連携には次のようなメリットがあります。
(1)研究開発の促進
(2)大学からベンチャーを生む
(3)大学の知的財産を移転する

大学は以上の役割を果たすために、一体どのようにして産学連携を強化していけばよいのでしょうか。
そのための方法に焦点をあてて、具体的に考えてます。

1.研究開発の促進

大学が産業界との連携を強化していくプロセスは、(1)企業とのネットワーク拡大、(2)企業の代わりに研究する、(3)企業と共同で研究するーに分類できます【図・産学連携を強化する仕組みの概要】(※略)。

[1]企業とのネットワーク拡大
奨学寄付金や寄付講座・寄付研究部門の仕組みを活用することができます。奨学寄付金は、企業などが大学に対し、研究や教育の充実・発展を目的に寄付を行うものです。寄付を行う際に、支援研究を指定することもできますが、基本的には大学の研究活動全般を対象としています。

寄付講座・寄付研究部門の場合、奨学寄付金を基に大学の中に寄付講座(学部、学科などに設置)や寄付研究部門(研究所や共同利用機関などに設置)を開設します。国立大学などに限定しても、これまでに36の大学で73の寄付講座と33の寄付研究部門が設置されています(2002年8月現在)。いずれも特定の研究テーマを対象としたものではありませんが、これらの仕組みを通じ、大学の研究人材や研究活動の特長を企業にアピールしていくことができます。その結果、企業の具体的ニーズが顕在化してきます。

[2]企業の代わりに研究を行う
受託研究員や受託研究が役割を果たします。受託研究員は、特定のテーマを対象に企業が自社の人材を大学に派遣し、教授などの指導のもとで研究を行う仕組みです。全国の企業を対象としたアンケート調査によれば、回答企業の37%が国内の大学などに研究者を出向させていると答えています。

受託研究になると連携の度合いはさらに強まります。大学の教職員が特定テーマの依頼を受け、企業の研究者に代わって研究を行うことになるからです。この場合、必要な研究費は企業が負担することになります。国立大学などに対する企業からの受託研究費の総額は、01年度時点で24・1億円に達しており、前年対比で6・6%の伸びを示しています。

[3]企業と共同で研究する
共同研究や包括提携がそのための仕組みになります。共同研究は、企業からの研究者や研究費を大学が受け入れた上で、大学と企業の研究者が共同で研究を進めるものです。国立大学などの01年度における共同研究件数は5264件となっており、やはり高い伸び(前年対比で30・7%の増加)を示しています。

その上で、もう1つの包括提携が最も高度な産学提携の仕組みになります。連携形態が、それまでの「企業と教職員・研究室の連携」から「企業と大学全体の連携」へと拡大するからです。包括提携の場合、特定分野でを対象とした複数の研究テーマに同時に取り組むことが可能になるため、産学連携先進国であるアメリカでは最も重視される仕組みになっています。

日本でも、02年に京都大学とNTT、パイオニア、日立製作所、三菱化学、ロームの5社による包括提携が発表されました。有機系エレクトロニクスデバイスを対象に、分子設計、有機合成、機能デバイス化などをカバーした16の研究テーマが選定され、大学から90名、企業から80名の研究者が参画した大規模な研究が進められています。この他にも、九州大学と大日本インキ化学工業が光機能性有機材料をテーマに、大阪大学と三菱重工業がエネルギー・環境技術をテーマに包括的提携を結ぶなど、大学と企業の包括提携の動きは拡大傾向を示しています。

2.大学からベンチャーを生む

アメリカでは年間約400社の大学発ベンチャーが生まれ、産業界の製品開発や事業創出に大きく貢献しています。
日本の現状はどうなっているでしょうか。経済産業省の調査により、03年3月現在で、531社の大学発ベンチャーが生まれていることが確認されています。累計数で比較すると、前年対比で22・1%の伸びを示しており、日本においても大学発ベンチャーの創出が活発化していることがわかります。

531社の内訳を見ると、大学で生まれた研究成果をもとに起業したベンチャーが317社、大学と関係が深いベンチャーが214社に上っています。また、事業分野については、「IT(ハード)」「IT(ソフト)」「バイオ・医療」「環境」「素材・材料」「機械・装置」「その他」の七つに区分した場合、ITソフト分野の企業が全体の30・9%でトップを占め、第2位がバイオ・医療の24・7%、第3位がその他の21・7%(コンサルティング事業や教育、マーケティングや食料品を扱う事業などサービス業が中心)、第4位が機械・装置の14・1%、第5位が素材・材料の10・5%となっています。

実際にどのようなベンチャーが生まれているのか、各社のウェブ情報を中心に、大学発ベンチャーの内容をいくつか紹介してみましょう。まず、起業数が最も多いITソフト分野では、「ラティス・テクノロジー」などの動きが注目されます。1997年10月に慶應義塾大学教授らが中心となり設立されたソフトウェア会社で、ネット上の独自のグラフィックソリューションを提供しています。

バイオ・医療分野では、「イニシアム」などの動きが注目されます。99年10月に設立された会社で、東京工業大学から生まれた水晶発振子の技術を核にしています。バイオセンサーを製品化しています。この2つの事例で特に強調したい点は、大学からベンチャーが生まれただけでなく、そのベンチャーから新たな製品が生まれ、実際に販売されているということです。日本でも大学発ベンチャーが製品開発や事業創出の一翼を担い始めていることがわかります。

こうした事例の代表が、機械・装置分野の「ダイマジック」になります。99年6月に設立されたこの会社は、東京電機大学と英国のサザンプトン大学の共同研究成果をもとに、画期的な音響機器を実用化しました。大学の研究成果を新製品に結びつけた大学発ベンチャーの好例となっています。

3.大学の知的財産を移転する(TLO、特許関係)

アメリカの大学では、年間およそ1万1000件の発明が発表され、9000件の特許が出願され、3000件の特許が成立しています。こうして集積された知的財産の中から4000件のライセンス契約が結ばれ、11億ドルの収入がもたらされています。その中核を担っているのが技術移転機関(TLO:Technology Licensing Organization)であり、100を超えるTLOが活発な活動を展開しています。日本においても、すでに30以上の大学(単一大学や複数大学のグループ)でTLOが設立されています。

なぜ、TLOが必要になるのでしょうか。特許出願にかなりの費用がかかるためです。日本の場合、1件あたり数十万円の費用がかかると言われています。特許出願の時点では、まだ移転先となる企業は決まっていないわけですから、研究者が独力で特許を出願しようとすると、収入の見込みが全くない段階で、数十万円の支出が発生してしまうことになります。そこでTLOの役割がとても重要になります。

研究者が発明をTLOに持ち込むと、TLOはその内容を評価し、価値があると判断すれば、発明者に代わって特許出願を行ってくれます。もちろん費用もTLOが負担します。その上で、移転先を見つけ出すためのマーケティング活動を行います。移転先が見つかり、収益が得られると、その一部が発明者に還元されます。分配方式はTLOによっても異なりますが、特許出願などにかかった必要経費を除き、残った収益を発明者と大学とTLOで分配するのが一般的です。つまり、研究者は発明をTLOに持ち込むことで、自らは費用を負担せずに、移転先を探索することが可能になるのです。

ただし、一つだけ注意しなければならないことがあります。「発明の新規性」の問題です。大学の研究者の場合、本来、研究成果を学会で発表したり、学会誌に投稿することを目的としていますから、特許出願前に、成果を外部に発表してしまうことがよくあります。その結果、自分自身の発表が公知例となり、新規性が失われ、特許として出願できなくなるのです。

実際には特許法第30条により、こうしたケースを救済する例外規定が設けられています。「グレース・ピリオド(発明の公表に伴う、新規性喪失の猶予期間)」と呼ばれるもので、日本では、学会などで発表しても6ヶ月間は特許としての新規性が失われないことになっています。ただ、マーケティングなどの手間を考えると6ヶ月は決して十分な時間ではありません。発明を移転したいのであれば、できるだけ早くTLOに相談にいくことがポイントになります。そうすれば、外部への発表時期を含め、研究成果を最大限に活用するための適切なアドバイスを受けることができます。

以上、産学連携をテーマに、連携を強化する仕組み、連携がもたらすメリットをまとめて示しました。これらの仕組みを基本に、独自の工夫を重ねた大学が、産学連携がもたらす大きな果実を手にすることになります。


【産学連携を強化する仕組みの概要】

 ネットワークを拡大する
 1.奨学寄付金
  ・企業や個人が、研究や教育全般の充実・発展を目的に、大学に対して寄付を行う
 2.寄付講座・寄付研究部門
  ・企業や個人からの奨学寄付金をもとに、大学が講座や研究部門を開設する

 企業の代わりに研究する
 3.受託研究員
  ・特定テーマを対象に、企業の研究者を大学に派遣し、教授等の指導のもとで研究を行う
 4.受託研究
  ・大学の教職員や研究室に対し、企業が特定テーマの研究を依頼する
  ・研究費用は企業が負担する

 企業と共同で研究する
 5.共同研究
  ・企業が大学の教職員や研究室と共同で、特定テーマの研究を行う
  ・基本的に研究費用は企業が負担し、研究人材は企業、大学の双方が提供する

 6.包括提携
  ・企業と大学が提携し、特定分野の複数の研究テーマを対象に、共同で研究を行う
  ・基本的に研究費用は企業が負担し、研究人材は企業、大学の双方が提供する

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