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自治体におけるアウトソ-シング導入のポイント

出典:地方財務 2003年8月合併号

1 廃棄物処理事業におけるアウトソーシングの必要性新事業モデル具体化

本稿では、廃棄物処理事業におけるアウトソーシングの考え方について述べることとする。まず、廃棄物処理事業の概略について示す。廃棄物処理事業は、廃棄物の収集運搬、焼却等の中間処理、そして最終処分の3つの段階に分けることができる。1つ目の廃棄物の収集とは、自治体が廃棄物収集車で域内を回り、これを中間処理施設に運ぶまでの過程をいう。2つ目の廃棄物の中間処理で、これまで中心となって実施されてきたのが焼却である。廃棄物の焼却施設を建設し、これを運営することによって廃棄物を灰として処理するものである。3つ目の最終処分というのは、焼却ないし中間処理できなかった廃棄物を、処分場に運搬して埋め立てることである。近年では、リサイクルが進んだことにより、前記の3段階の前に、分別収集、リサイクルが積極的に進められている。一連の廃棄物処理事業の費用は、表1に示すように、日本全体で年間約4,640億円であり(内訳としては収集に約870億円、中間処理に約3,300億円、最終処分に約470億円)、上下水道事業の年間約7,200億円に次いで、自治体の一大事業となっている。廃棄物処理事業へのアウトソーシングを適用することは、自治体の負担を軽減する財政的な意義がある。廃棄物のアウトソーシングに関しては、前述の3段階のうち中間処理を対象として行うのが世界的な流れである。場合によっては、複数の段階を含めたアウトソーシングの例もあるが、主に行われているのは中間処理に対するアウトソーシングである。日本においてもこの部分に対する施設の運転委託等が行われてきた。ただし、連載第1回でも述べたとおり、廃棄物分野において日本で行なわれてきたのは、業務委託と呼ばれる単年度の役務提供に近い委託であって、アウトソーシングの目的である効率化の達成には必ずしも向いていない面がある。

2 アウトソーシングのメリット

ここで、第1回で示したアウトソーシングの手法である長期責任委託を適用すると、自治体にいくつかのメリットが生じる。一般的な内容については、第1回に示したので、ここでは廃棄物特有のメリットについて示すこととする。 1つは新しい技術への対応である。中間処理は廃棄物を灰に変えることで、最終処分量を減らすというメリットがあるが、近年、プラスチック等の製品が生活の中で使われることにより、焼却によるダイオキシン等の発生が問題となった。こういった状況から中間処理施設を対象として、ダイオキシンの排出を規制するために制定されたのがダイオキシン類対策特別措置法(以下、特別措置法)である。特別措置法は平成11年に制定され、平成14年12月までに対策を行うことが示された。これ以降、基準値を上回った場合は、施設運転を停止し、改善工事をすることが求められることとなった。このような背景から、従来の技術の高度化と同時に、新技術の導入も積極的に進められた。新技術の代表がガス化溶融炉である。ガス化溶融炉はごみを熱することによって熱分解ガスを発生させ、このガスの燃焼熱を利用して灰を溶融処理するものである。この技術は、従来のごみ焼却技術に比べていくつかの特徴がある。
1つ目は、処理温度が極めて高いことである。本技術では、ガス化から溶融までを連続して行うので、炉内を高温に保つ必要がある。ごみを固体のまま燃焼する従来の焼却炉に比べて、ガス化溶融炉は、ガスにしてから燃焼するため燃焼の効率がよく、炉内温度を上げることができるのだ。ただし、常時1,200℃から1,400℃程度で運転されるので、施設自体の耐久性に配慮が必要になってくる。
2つ目は、溶融の処理工程が複雑であるということだ。従来はごみを単に焼却していたが、ガス化溶融炉ではいったんガス化してから高温燃焼して溶融を行うというように、処理が分離することで処理工程が多段式となり、複雑化する。3つ目は、スラグと呼ばれる溶融物の粘度の管理である。スラグの粘度は、ごみの組成によって異なる。そのため、炉内に付着したり、スラグ排出口から安定的に排出されないというような事態が発生することもある。4つ目は、より高度な安全上の管理が必要となることである。従来の焼却では、常に空気を過剰に与えて燃焼を促進するのに対し、ガス化溶融炉ではガス化炉に必要以上の空気が流入しないように、ごみの投入口や隙間を適切にシールしなければならない。これができないと、熱分解ガスの漏れが生じたり、ガス化炉内でのガス燃焼が生じることによる、火災等の事故が発生してしまう。
自治体はこのような新しい高度化技術に対応する必要が生じてきたが、そのための十分な技術的なノウハウを持っているとは言い難い。また、技術者に関しては、昨今の経済的事情もあり、継続的に確保できていない自治体も相当数ある上、今後も技術者を増員することは考えにくい。特に、中小の自治体が新しい技術を導入するには、民間の力を導入することが必要とも言える。大規模な自治体においても、新しい技術に対する十分な知見を有しているとは必ずしも言えず、メンテナンス部分の責任委託などのアウトソーシングが求められている。このように、中間処理のためのアウトソーシングにおける第1のメリットは、新技術への対応を容易にすることができるということである。第2のメリットは、管理体制が改善さることである。これまでの中間処理では自治体が自ら施設を運営し、自ら排ガス等の基準値を管理するという体制で行われてきた。しかしながら、こうした体制には管理上の問題がある。自ら運転するものを自ら管理するということになるため、客観性を担保し難いからである。
また、これまでは管理するためのルールが必ずしも十分ではなかった。廃棄物処理施設を適切に管理するためには、管理基準を逸脱したときのルール、または逸脱しないようにするための管理ルール等を設定しなければならないが、筆者らの経験したいくつかの事例においても、ルールは必ずしも明確になっていなかった。こうした状況は長期責任委託することによって、改善することができる。というのは、長期責任委託では、官と民の間で、民間の業務を監視するために客観的なルールを設定せざるをえないからだ。そこで得られたルールに基づいて管理を行うことが客観性を高め、引いては住民等への説明性を高めることが可能となってくる。最近のように、中間処理に対する住民の監視が厳しい状況においては、官と民の明確な役割分担が大きな効果を発揮するのである。第3のメリットは、リスクの封じ込めである。廃棄物処理施設を財務的に見たとき、2つの特徴を指摘することができる。1つは、機械プラントが劣化することによって、ある一定の年月を過ぎると、更新を含めたメンテナンスリスクが大幅に上昇することである。データをみるとだいたい十年程度経過すると、コストが大幅に上昇している。20年も経過すると、施設投資額の10%程度のメンテナンス費用が必要になる場合もある。自治体が十分に知見と経験を有した施設であれば、こういったコストの立ち上がりを予測できるが、前述したような新技術に関しては、自治体が独力で回避することは極めて困難である。そこで、大きな機器等の更新が生じれば、都度、資本投入を行わなければならず、この面での財政管理が難しくなる。ここで、長期責任委託によって委託費を長期間一定額で民間に委託することができれば、コストの予想外の積みあがり、あるいは、不定期な資本的投下のリスクを回避することができる。自治体にとっては、将来的なリスクを封じ込めるとともに、財政の平準化を行うことができるのである。2つめの特徴は、施設の立ち上がり時のリスクである。特に新技術を用いた場合は、プラントメーカーも把握できない予想外の原因によって、施設が予定通りに立ち上がらないことがある。場合によっては機器の交換、改造、プラントの調整等を必要とすることもある。実際に具合的なケースでも、こうしたリスクにより、施設の立ち上がりの負担が大きくなっている例が見られる。ここに、民間委託を適用すれば、ある一定のコストで民間が施設の立ち上げのリスクを負うために、自治体としても予想外のコスト等が発生するリスクを回避することができる。

3 長期的責任委託の適用パターン

以上から、自治体の一般廃棄物処理事業に関しては、2つのパターンがある。これは、前述した2つの財務的なリスクに整合したものと考えることができる。1つは、立ち上げのリスクを封じ込めることである。立ち上がりの段階から民間に長期で運転維持管理を委託し、リスクを一定の範囲内に封じ込めることである。この際、性能保証期間を設定する等により、施設が引渡された後に発生する可能性があるリスクについて封じ込めることができる。本方式の本邦初の事例が石川県のRDF発電施設である。
RDFとは、"Refuse Derived Fuel"(ごみから得られる燃料)の略称であり、廃棄物を燃料化したもののことを指す。今年度初めに、RDFを利用した発電事業を行う施設が石川県内で完工した。本事業は、石川県北部の5つのRDF製造施設から運び込まれるRDFを、ガス化溶融炉にて熱分解・ガス化して残渣物や灰分を溶融処理するとともに、余熱利用の発電を行うものである。広域のごみを一箇所に集約して処理する先進的な事業であるとともに、最新のガス化溶融炉による高度処理を行うことで、ダイオキシン対策等を行った環境へ配慮した事業である。平成15年4月に施設が竣工し、民間事業者による15年間の長期の運営を開始した。また、本事業に含まれる、羽咋郡市広域圏事務組合および奥能登クリーン組合のRDF製造施設、および、石川北部アール・ディ・エフ広域処理組合のガス化溶融炉について長期責任委託が適用されている。長期責任委託のもう1つのパターンは、後年度のリスクを封じ込めるものである。先に述べたとおり、実際の廃棄物処理施設の更新リスクが高まるのは、15年あるいは20年を過ぎたところからである。民間委託の海外の例では、フランスの事例で長いもので十数年程度のものがあるが、これほど長期にわたるリスクが全て抱含できる長期責任委託は必ずしも一般的ではない。そこで、現在運転されているプラントの後年度のリスクを封じ込めることを目的として長期責任委託を行うのが第2のパターンである。財政が大変厳しくなってきたこと、施設の耐久性が向上したことから、プラントの実質的な耐用年数はますます増加する傾向にある。このような背景から、最低でも25年、長いものでは35年使おうとするプラントも現れており、長期のリスク管理を視野に置いた契約が必要になっている。
本稿では、廃棄物処理事業へのアウトソーシングの意義と、財務的な構造に基づいたアウトソーシング の考え方を示した。廃棄物処理事業においては、昨今の環境規制の強化やごみ発電のような新エネルギーの普及に伴って、新しい技術が次々に生まれている。このような状況に対応して、先端的な特徴を活かす、日本ならではのアウトソ-シング事業への取組みを検討することが、地域の環境保全や自治体の財政負担軽減に貢献することとなる。

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