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電子自治体実現への戦略(4) ASP活用で業務プロセスも改善

出典:地方行政 2003年1月号

電子自治体推進への3つの課題

現在、各都道府県および市町村は、国が掲げた2003年の電子政府/電子自治体の実現に向けて、LGWAN(総合行政ネットワーク)や住民基本台帳ネットワークへの接続など、様々な取り組みを行っている。しかしながら、自治体間の進捗状況や取り組みの積極性の差異は激しく、特に地方の市町村では、国が提示している電子自治体化のスケジュールに間に合わないケースが数多く出てくる可能性もある。このような背景には、前号(1/20号)でも触れたように、3つの課題があると推察される。
1つ目は、「財源不足」である。電子自治体の実現には、数多くの新しいアプリケーションを導入する必要がある。しかしながら、景気の低迷による税収の減少など、地方自治体の財政状況は厳しい。 2つ目は、「人材不足」である。電子自治体の実現に当たっては、どのような技術や商品が存在し、どの技術や商品を活用すれば効率的かなど、IT(情報技術)分野に精通した人材が必要である。しかしながら、ローテーション人事やシステム管理を民間に任せ切りになっていることなどから、自治体の中にITに精通している人材が不足している。
3つ目は、「ノウハウ不足」である。ITはあくまでもツール(道具)であり、それを有効に活用するためには、運用に関するノウハウが必要である。電子自治体を推進するために、新しいアプリケーションを導入しても、自治体職員や住民がそのアプリケーションを使いこなせなければ、その効果は半減する。しかしながら、このようなITを効果的に活用するための運用方法や工夫などのノウハウが自治体の中には不足している。 多くの地方自治体は、このような3つの課題を抱えながら、今後効率的に電子自治体を推進しなければならない。

自庁システムは限界、外部機関を活用せよ

これまでの自治体における情報システムは、ほとんどが「自庁システム」というコンピューターなどを庁内で保有し、運用・管理を行う形態である。しかしながら、電子自治体を実現するためには、今後多くの新しいシステムを導入しなければならず、すべて庁内で保有するとなると、保管場所、運用・管理するための人材、技術的知識など、庁内での業務負担が大きくなるため、自前でシステムを保有するのには限界が来る。
そこで、今後自治体が実践すべき戦略が、外部機関の活用、すなわち、「アウトソーシング戦略」である。政府の「e‐Japan2002プログラム」においても、アウトソーシング(外部委託)を活用した効率的な電子自治体の実現を打ち出している。 情報システムの分野においては、自治体よりも民間企業等の外部機関の方がはるかに技術的知識や活用ノウハウを保有しており、民間企業等へのアウトソーシングの活用により、効率的なシステム導入や運用が可能になる。 また、情報システムが我々の生活に及ぼす影響は近年ますます大きくなり、これまで以上にシステムの安全・確実な運用が求められている。
このため、各自治体が庁内でシステムを保有するよりも、データセンターなどを保有する専門の民間業者等に委託する方が、セキュリティー(安全対策)の向上につながる。 これまで自治体がシステムを自前で保有していた背景には、ほとんどのシステムが単体で運用されており、運用面、安全面においても庁内で保有することが望ましかったことがある。しかし、自治体の各システムがネットワーク化されてきた現在では、自前でシステムを保有するメリットはあまりなく、むしろ複雑化しているシステムへの対応という点では、外部の専門家に委託するほうがはるかに効率的である。 以上のように、効率的かつ質の高い電子自治体を実現するためには、自前でシステムを保有する考え方から、積極的な外部機関の活用という考え方へ180度転換することが必要である。

「ASP」の活用への期待は高い

情報システム分野のアウトソーシング(外部委託)の中で、最も注目されているのは、ASP(Application Service Provider)である。ASPとは、従来の情報システム分野におけるアウトソーシングのようにサーバー(「サービスを提供する者」=電子メールの送受信やデータベース機能などを果たすコンピューター)管理を委託するだけでなく、利用するアプリケーションも同時に提供する、いわゆるハードとソフトをパッケージ(一体)にして提供するサービスモデル(事業形態)である。ASPは、従来の情報システムの運用管理を行うアウトソーシングのメリットに追加して、アプリケーションのバージョンアップ(更新)などへの対応や、ラインセンス(購入したソフトの利用範囲についての許諾契約)管理などに手間がかからないといった利点がある。
特に、自治体の場合は、基本的なシステム機能において自治体ごとに違いはなく、他の自治体とアプリケーションを共有したASPの利用は比較的容易である。 2002年3月に財団法人ニューメディア開発協会が公表した「電子自治体の実現に向けた地方公共団体のアウトソーシングに関する調査研究」は、地方自治体におけるASPの活用状況も調べている(図表4―1参照)。この調査結果によれば、「ASPサービスを活用している」と回答したのは、全体の2.8%であり、まだまだ少ないことが分かる。
一方、「ASP活用をしている」から、「ASPサービスの検討を行っている」までを含めると、全体の35・6%になり、既に全体の1/3の自治体がASPについて何らかの検討を行っており、ASPに期待していることが分かる。 また、平成17(2005)年3月に期限切れとなる市町村合併の特例措置を背景に、現在都道府県が中心となり、電子申請や電子調達等のアプリケーションの運用に関する市町村共同運用センターの検討が始まっており、全国的にASP活用の検討が本格化している。 

海外ではASPによる効率化を実現

わが国におけるASPの活用は、東京都立川市や山口県下関市などで実践されているものの、まだ活用事例は少ない。一方、米国やオーストラリアなど海外の電子自治体先進国では、既に自治体連合や民間企業が積極的にASPビジネスに参入し、効率的な電子自治体の運用を実践している。(図表4-2参照) 米国西海岸のカリフォルニア湾岸の百以上の市町村などが参加する自治体連合であるABAG(Association of Bay Area Governments)においては、独自にIDC(Internet Data Center=インターネット・データ・センター)を運営して、ホームページの管理やオンライン決済システムなどのASPサービスを同連合の加盟自治体だけでなく、周辺の自治体にも提供している。
また、ABAGもASPを新しいビジネスと捉え、ランニングコスト(運営経費)分だけは収益を上げる形でビジネスを展開している。また、民間企業であるgovONE Solution社では、自治体向けに納税や水道料金、反則金支払等の収納業務の電子化を目的としたポータル(さまざまなホームページなどへの入り口となる「玄関」)サイトのASPサービスを提供しており、千七百を超える支払いのソリューション(問題解決や要求実現のための情報システム)を提供するとともに、納税者向けのヘルプデスク(相談窓口)や収納代行サービスの提供も併せて行っている。govONE Solutionでは、エンドユーザー(納税者など末端の利用者)のトランザクション(入出金などの処理)により手数料を取り、これを収益源としたビジネスモデル(業務形態)を実現している。 このように海外では、電子自治体分野におけるASPマーケットが顕在化しており、ASPによる効率的な電子自治体の実現に寄与している。 

活用には、まずASPの特徴を理解せよ

効率的な電子自治体の実現には、ASPの活用が有効ではあるが、メリットだけでなくメ リットがあるのも事実である。したがって、ASPを活用するためには、まずASPを十分に 理解することが必要である。図表4―3に、ASPのメリットデメリットを示す。 ASPの最も大きなメリットは、やはり初期投資が必要ないという点である。さらに、ハードとソフトを含めて、システムに関する運用すべてをASP事業者に委託することになるため、サーバー管理やアプリケーションの更新、ライセンス管理などの業務が軽減できる。その他、ASPは、共通アプリケーションを利用する形式が一般的であるため、短期間で導入できる等のメリットがある。 一方、デメリットとしては、システムに関する運用をすべてASP事業者へ任せることになるため、自治体内部においてシステムの活用に関するノウハウの蓄積ができなくなったり、庁内にIT分野に精通した新しい人材が育たなくなったりする恐れがある。
また、ASPはユーザー(自治体)側が共通の仕様に合わせることで、コストがかからないメリットがある反面、独自仕様には対応しにくく、各自治体が工夫した個性的なシステムを実現するのには適していない。 さらに、もう一つ考えておかなければならないのが、情報漏洩に関する問題である。ネットワーク経由による不正アクセスの防止については、ASP業者のような専門業者による管理の方がセキュリティー(安全性)は高いが、民間業者等にデータを委ねることに対するリスクはゼロではない。 これらの特徴を総合的に考慮すると、電子自治体分野における新規のアプリケーションの導入においては、導入すべきアプリケーションの数が多くコスト負担が大きくなること、統一した標準仕様が検討されていることなどから、ASPを活用する方がメリットが大きいと思われる。 以上のように、ASPの特徴を理解した上で、その時々の状況により、ASPの活用を判断することが必要である 。

積極的な姿勢でASPを活用せよ

ASPを活用する上で、注意しなければならないことは、ASP事業者に任せっ切りにしないことである。理由は大きく二つある。 1つ目は、ASPによりシステムの運用管理を外部機関に任せっ切りになることで、技術的な知識やIT活用に関するノウハウが、庁内に全く蓄積されなくなる可能性でる。このような状況が継続すると、自治体内において効率的なIT活用の発想ができなくなったり、また的確なシステム評価ができなくなる可能性がある。
さらに、システム全般について、民間企業と対等に議論できなくなる恐れがある。このような状況は、長期的な視点で考えれば、大きなマイナス要因となる。 2つ目は、ASPサービス事業者と自治体において、技術や経験の差が大きくなるため、事業者の管理を表面的にしかできなくなる可能性である。このような状況になれば、的確な業務に対する評価ができなくなり、コストメリットが失われる恐れがある。 このような状況を起こさないためにも、積極的・能動的にASPを活用する姿勢が重要である。
米国カリフォルニア州のサニーベール市では、現在新しい電子調達のアプリケーションに関して、隣のマウンテンビュー市や民間企業のマイクロソフトを巻き込みながら、積極的にASPアプリケーションの開発を行っている。このように単に既存のASPサービスを利用する立場でいるだけでなく、周辺自治体と連携して、独自のアプリケーションを開発したり、既存のASPを分析して自治体の側から新しいサービスを提案したりするなど、外部機関をうまく活用するような積極的・能動的な姿勢でASPにかかわっていくことが重要である。

ASP活用に併せて業務プロセスを見直せ

また、ASPの導入を考える時に、もう一つ重要な視点が、業務プロセスの改善である。特に電子自治体の実現においては、申請手続きや調達手続きなど、これまでと異なる新しい業務プロセスを導入することになる。また、ASPの基本的考え方は、これまでの独自の業務プロセスに合わせたシステムを導入するのではなく、ある程度標準化された業務プロセスのシステムを導入するということである。
このため、従前の業務プロセスの方を変えざるを得ない。そこでASPを導入する機会に、効率的な自治体運営の観点から業務プロセスを見直すことが必要である。 さらに、付け加えるならば、コア(核となる)業務を再確認することも重要である。ASPの導入により、自治体職員の業務負担が軽減される一方で、さらに付加価値を高めなければならないコア業務を明確化し、それに注力する新しい体制を構築することが望まれる。特に、これからの行政サービスは、多様化する住民のニーズに対応した高付加価値のサービスを提供することが望まれるため、これまで以上に人と人とが触れ合うヒューマンサービスが重要になると考えられる。 
ASPを活用して、外部に委託できる業務、また行政サービスのコア業務として職員が対応すべき業務を見定め、行政サービスの向上を図る絶好の機会を得るのも、ASP導入の大きなメリットである。

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