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「中国 静かなる革命―官製資本主義の終焉と民主化へのグランドビジョン―」 著者 インタビュー

  • 中国 静かなる革命
    中国 静かなる革命―官製資本主義の終焉と民主化へのグランドビジョン―
    著者:呉軍華
    日本経済新聞出版社/2008年8月9日/¥2,100(税込)

このたび、理事 呉軍華編著による「中国 静かなる革命」を東洋経済新報社より刊行いたしました。本書をお読みいただくためのポイントや、執筆の背景などについて、呉軍華よりご紹介させていただきます。

Q1:呉さんはエコノミストでいらっしゃいますが、今回、中国の「経済」ではなく「政治」に焦点をあてて本著を執筆しようと思ったきっかけは何ですか?

確かに私はエコノミストです。しかし、経済を研究することは決して私の最終的な目的ではありません。私の関心はあくまでも「中国という国の将来」にあります。つい近年までは経済が中国の進路を規定するに当たってのキーファクターだとの問題意識から、経済を中心に中国を眺めてきました。しかし、ここ数年来の中国で起きていることを分析した結果、これからの中国にとって、政治が最も重要なファクターとして登場してきたことに気付きました。そこで経済だけでなく、政治を含むより広範な視点から中国の将来像を描こうと思い、この本を執筆しました。

Q2:中国の将来に関する従来の予測と比べて、この本はどのような特徴を持っていますか。

大きく二つあります。一つは政治改革に向けての中国の流れ(グランドビジョン)を具体的に明示したことです。もう一つは、こうした政治改革を率いるリーダー層を描き出したことです。つまり、抽象的に中国の将来を予測するのではなく、予想しうる将来においての激動がいつ起こり、また、どのような人によって推進されていくことになるかの見通しを試みました。

Q3:中国の「社会主義市場経済」とは「社会主義」と「市場経済」いう相容れない用語が並んでいますが、結局のところ「社会主義市場経済」とは何なのでしょうか?

一言でいうと、共産党と政府という「官の意思」と「官のプランニング」によって進められる資本主義です。つまり、本当の意味での社会主義ではなければ、資本主義でもありません。中国の経済活動をスポーツの競技に例えると、ルールの制定から勝負の審判、プレーヤーといった役割を官だけに集めた形で経済開発を進めてきたといえます。よって当然、官とその関係者がその成長による恩恵を最も多く享受する構造が出来上がりました。私はこの仕組みを「官製資本主義」と定義しています。

Q4:なぜその「官製資本主義」は終焉し、民主化へと進むと考えられたのですか?

中国共産党にとって、民主化を進行せざるを得ない状態になっていると判断したからです。腐敗の進行や所得格差の拡大の問題が深刻化するなかで、現状を改めていこうとするプレッシャーが保革両陣営からかかってきており、共産党指導部にとって、政治改革の遂行はすでに背水の陣の状態になっています。 金融や資源・原材料産業分野での国有企業の独占・寡占化が進み、経済成長はますます投資と資源・原材料輸出の拡大に依存するようになってきました。官主導のもとで空前の投資ブームが沸き起こるなかで、経済の重化学工業化が進展し、それが世界的な資源高の原因の一つになったともに、中国の環境・生態系の悪化に拍車をかけました。
持続可能な成長に持っていくために、消費需要の喚起は不可欠です。そのために、「官製資本主義」のもとで形成された、官とその関係者に所得が偏重する構造を改めていかなければなりません。それを実現するには、政治改革の実行が不可欠になります。

Q5:共産党が民主化を進める、ということにイデオロギーの矛盾を感じるのですが。

 中国共産党というと「固い」「一党独裁」というイメージがあるようですが、実は中国共産党は柔軟性のある、学習能力の高い集団なのです。共産党は野党や世論の圧力で自らを改める必要はありませんが、自らの支配を維持するためなら、従来の原理・原則を変えてしまう力を持っています。なので、中国共産党がいずれ民主化を進めることに私は疑問を持っていません。
話はそれますが、中国共産党の持っているこのような力を見逃したことは「中国崩壊論」が幾度も喧伝されてきたにもかかわらず、結果的に、中国が崩壊するかわりに「中国崩壊論」が崩壊した最大の要因の一つだと思います。

Q6:呉さんのお話を伺うと、官は既に今でも十分利益を得ているので、民主化を進めるインセンティブがないように思えるのですが。

忘れてはいけないのは、中国は憲法上未だプロレタリア革命が合法性を持つ国であるということです。つまり、いくら経済が発展しようと、資本主義が浸透していようと、「一部の者が利益を独占するのはおかしい」という考えから、大革命が起きても法的には何ら不都合はない状態です。
ということは、官は今まで官製民主主義で得た自らの利益を奪われる不安を常に抱えていると言えるのです。しかし一方、民主主義は私的財産の所有を保障しています。よって彼らも名実ともに早く民主化を実現させ、自分の利益を確保したいという思惑があります。この点で官にとっても民主化は大きなメリットがあると言えるわけです。

Q7:ポスト胡錦濤体制として2012年に誕生する指導部は、どのようなリーダーで構成されると呉さんは考えているのでしょうか?そしてそのリーダーのもと、どのように民主化は進んで行くと考えられますか?

2012年の中国では、これまでにないような「異質」な指導部が誕生すると私は予想しています。この「異質」とは、二つの特徴を持っています。まず一つは、これまでのリーダーが共産主義・社会主義の理想を追い求め、またはその理想の教育を受けて育ってきたのに対し、この「異質」な指導部を構成するリーダーのほとんどは改革開放以降の中国や欧米諸国で高等教育を受けたという点です。つまり、程度の差はあっても、彼らにとって、自由や平等、人権尊重といった民主主義の理念は単なる概念ではなく、自らの生活体験を通じての実感を伴ったものであるというところに大きな特徴があります。

また、若き青春時代に「知識青年」として農村・山間部に行かされた経験を有することもこの指導部の「異質さ」を象徴するもう一つの特徴です。「知識青年」、とりわけ年齢的にポスト胡錦濤体制の指導部入りを果たすリーダーのほとんどは、文化大革命の初期、共産主義の理想を実現する名目で盛り立てられた、理想と使命感に溢れる熱血青年でした。毛沢東の権力闘争に利用された後、「知識青年」に仕立てられて辺鄙な農村に送り込まれた彼らは個人としての人生と、国家・民族としての将来に全く見込みが立たない絶望的な状態の中、チャンスを見つけては勉強し、個人や国家が進むべき方向を模索し続けました。二千年以上にわたる専制的政体の歴史を持つ中国で民主化を導入することは当然、容易いことではありません。これを成功させるためには、理想主義的で使命感が強いリーダーが必要であり、「知識青年」の一部はそういったリーダーとして成長したと言えます。
こうした「異質」なリーダーのもとで、中国は旧ソ連、東欧と違う共産党主導という形、つまり「静かなる革命」により民主化に踏み切ると、私は予想しています。

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