プロフェッショナルの洞察
リサーチ・コンサルティングの仕事を通じて見える世界 第2回 国際競争とプロフェッショナル (3)
2007年06月01日 新保豊
■ゲームに勝てる人材、プロフェッショナルとは
このような国際競争力強化、という場面においてコンサルタントはどんな役割を担うのですか?
きわめて重要なこととは言え、少し話が反れましたので話しを元に戻しましょう。コンサルタントの役割ですか。そうですね、そんなに偉そうなことは言えません(笑)。米国も英国も、ドイツ、フランスなど、どこも密接に絡みながら戦略を立てて国際競争の中で戦っています。国家存亡に関わるような重要なミス・失態を能天気にし続けているのは日本だけでしょう。マスコミや政府がやっていることには、理解できない、信じられないようなことが少なくありません。身の安全や資産の保全面などで国民の信頼を失った国からは、絶望した国民がやがて海外へ逃げ出す(移住する)ことになるでしょう。
コンサルタントとして、直接的には今のところ大したことはできませんが、明らかに国レベルのミス・失態につながりそうなことが事前に分かるような仕事は、引き受けないといったぐらいでしょうか。あるいは米国がやったから日本もそれを追っかけて同様の法制度を整える、それで企業はそれに従わねばならないといったような後ろ向きの仕事も、私個人としてはお引き受けしません。例えば、当の米国ではもう既に別の問題が露呈することにより、そのような法制度やシステムには見直しがかかっていることもあります。そのうち日本にもその余波がやってきそうなことが分かります。すると今日本企業が精を出してやっていることは、少し長い目でみれば無駄だと理解できます。具体的な表現はここでは避けておきましたが。
いまの法律が万能で絶対なんてことはあり得ません。アルヴィン・トフラーも『富の未来』で言っているように、法律の世界はこの世の中で動き・スピードが最も遅い。その前に必ず別の次元で予兆は現れているものです。「コンサルタント」という立場だけでは狭いかも知れません。これからは、真のシンクタンク機能(政策提言機能や、偏向報道に代わる真の“社会の木鐸”機能)を持ち合わせることが求められましょう。
ゲームに勝つには、他にももっと大事なことがあるということですか?
そうです。話しを少し広げましょう。ゲームに勝つ、特に収益ゲームのことばかり考えているのは頂けませんね。何でもかんでも、経済的価値だけを求め、利益追求をしていてはいけません。社会的価値はある意味それ以上に大きなものです。なぜなら、経済的価値を追求することは部分最適な傾向を生み、さまざまな問題を露呈しかねません。一方、社会的価値は社会システムを考えることになりますので、思考が全体最適を意識するようになります。優勝劣敗だけの経済的競争のみで世の中は回っているのではありませんので。もちろん、利益追求がダメといっているわけではありません。利益は自助自立のための源泉であり、その重要性を軽視するものではありません。繰り返しながら、でもそれだけではダメなのです。
日本は戦後、経済一辺倒で国づくりをやってきました。それで確かに世界有数の豊かさを手に入れました。便利さと食べ物のおいしさで、間違いなく日本は世界一でしょう。仕事がらさまざまな国を訪れることがありますが、中でも東京ほど便利が行き届いている木目細かな都市はないでしょう。これも諸先輩たちが一生懸命に築いた社会インフラの賜物によるものです。私たちは先人の恩恵の中で、毎日暮らしているわけです。それにイタリアン、中華、場合によってはフレンチでさえ、本国の一流どころで食べるよりも、東京の方がおいしいです。世界一の日本のテクノロジーによる結晶は、この料理のお皿の上でも確認できますね(笑)。
経済一辺倒のやり方でゲームをやることに、大きな問題点や落とし穴があるということですか?
はい。経済的豊かさは、前言のとおり、安全保障により支えられているものです。言うまでもなく経済基盤は政治と密接な関係があり、政治は軍事(防衛機能)と不可分です。経済だけ突出していた国の末路は、世界史を少し学んだ者であれば自明のことです。こうした基本的な認識をもった上で、これからは環境・エネルギーなど日本が持つ世界一の技術やノウハウをうまく世界に役立ていくことも、重要な課題です。
ただ、世界から尊敬を集めることばかりに気をとられてはいけません。過分に気を惹こうとするのは自信の無さの現れでしょう。明確な国家戦略のもと進めることが基本です。これまでのODAなど、国民の血税によるものだとの認識が、政府には無かったのではないでしょうか。明瞭な見返りなしに援助することは、単なるお人好しに過ぎません。いまや外貨準備高で日本を抜き、破竹の経済成長をしている、しかも核武装をしている一部の国に、いまだに多額のODAを続けていることは理解に苦しみます。ODA(外務省マター)は2008年度に中止される予定となっていますが、アジア開銀(日本の財務省の天下り先)から直近の年平均ODA額を大きく超える援助がなされています。こうした日本政府内の首尾一貫していない行為は、当事者(援助国・被援助国)間の過去の歴史問題を超えて、世界の非常識となっているものです。

1.モンゴル・長距離デジタルリンクによる学校インターネット整備パイロットプロジェクト(2005年度)
無線LAN技術を活用した、ルーラル地域のインターネット利用環境整備のためのパイロットプロジェクト
2.バングラデシュ・ICTインフラ整備計画
国際交換局・衛星地球局の整備、基幹通信網の光化等を実施、2006年6月閣議決定(円借款80億円)
3.マレーシア・ユニバーサル・マルチメディア教育プロジェクト
衛星を利用した遠隔教育システムへの支援(技プロ)
4.カンボジア・中部光ファイバー基幹通信網整備計画
プノンペンを中心に、約400km、約600メガビット/秒の光ファイバーを整備、2005年3月閣議決定(円借款30億円)
5.ベトナム南北海底ケーブル施設計画
ベトナム国内の南北約2,000kmに光海底ケーブル設備、2003年3月閣議決定(円借款195億円)
6.ベトナム第三国研修(電気通信)
ベトナム電気通信研修センターを核に近隣諸国の人材を育成(技プロ)
7.フィリピン・バンタヤン島ルーラル無線アクセス・パイロットプロジェクト
無線LAN技術を活用した、ルーラル地域のインターネット利用環境整備のためのパイロットプロジェクトを実施(2005年度)
8.インドネシア政府職員に対するICT能力向上計画
電子自治体の運用を担う中央省庁・地方政府職員の研修を2005年1月から実施(技プロ)
9.パプア・ニューギニア テレハウスライン・パイロットプロジェクト
ルーラル地域における無線アクセス構築のためのパイロットプロジェクト

明瞭で周到に計算されたリターンを確保する算段なしには、本当の意味でゲームに勝てることはありません。その意味で、わが国の政治家や官僚の中には、グローバルで勝つための知見と経験を持ち合わせたプロフェッショナルは、残念ながら殆どいないと言えましょう。国家レベルの国際競争とは、個人または特定チームレベルでその競争に勝てるための条件を備えていることが求められます。
そのプロフェッショナルには、どんな能力が必要なのでしょうか?
国家レベルのゲームに勝つためのプロフェッショナルとは、2、3の専門的な知見・経験を有した上で、それを核に大局的・包括的な視点で遠くを眺望できる能力の持ち主のことだと思います。専門家でもジェネラリストでもありません。アーキテクトとかデザイナーと呼ぶべきものだと思います。またこの場合の「経験」とは生半可なものではありません。修羅場をくぐり抜けて初めて手にできるものです。サッカーの中田英寿(ヒデ)や中村俊介のように、最も直接的で厳しい本場のフィールド(およびフィールド以外の生活圏すべて)で体を張って体得した者だけが手にできるものと言えましょう。彼らのようなスポーツエリートには及ばずとも、プロフェッショナルが体得すべき基本プロセスは同様です。
遠くを眺望するという観点では、企業人として、例えば、韓国サムスン電子の李健煕(イ・ゴンヒ)会長らを挙げることができます。自分の会社(オフィス)には殆ど出社せず、古今東西の書(知識・知恵)に触れ、想いを巡らしたと言います。そうした知恵を頭に入れることで先人が残した成果を追体験していました。そして、たまに出社し幹部を集め、あるときは競争力の弱いいくつかの自社製品を積み上げ、担当者の前で叩き壊して見せました。その後、再出発に向け自らのビジョン・構想とそれを実現するための戦略を熱く説いたわけです。李健煕さんは、それまでB級ブランドであったサムスンを見事にA級にまで引き上げることに成功しました。彼は組織文化変革における、A級のプロフェッショナルだったと言えましょう。ある意味、日産自動車のゴーン会長よりも、変革の本質を見抜いていたのではないかと思います。
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関連リンク
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02 国際競争とプロフェッショナル
03 100年後の国家存立基盤を見出し準備すること
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