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【次世代農業】
農業ビジネスを成功に導く10のヒント~有望な新規事業の種はどこに埋まっているのか?~第5回 ヒント(4)地産エネルギー利用による施設園芸の収益性改善と地域活性化

2016年09月27日 岩本 典之


 産地リレーや施設園芸の発展により、私たちは一年を通じてさまざまな青果物を口にできるようになりました。トマト、キュウリ、ピーマン、メロンは6~7割が、イチゴでは約8割が現在、施設で栽培されているのです。施設栽培は作業量の季節変動、気象などによる営農リスクを低減できるうえ、高付加価値化などの工夫がしやすいことから、農業への新規参入においても選択されることが多くなっています。
 収益性に目を向けると、施設園芸における経費の中では暖房費に代表される光熱動力費、すなわちエネルギー費の割合が最も大きく、2~3割を占め、収益に大きく影響しています。そこで注目されるのが地域の未利用エネルギーです。地球温暖化やエネルギーセキュリティの観点から各分野で利用が進められようとしていますが、取り組みが踊り場を迎えているケースも多いからです。
 代表的な未利用エネルギーとして林地残材などのバイオマスが挙げられます。しかし、1年間で数万トンものバイオマスを必要とする大規模集中発電では燃料調達の面で限界が見えてきました。最近では、PKS(パームヤシ殻)などを輸入利用する計画も多くみられますが、大規模集積に向かない、薄く広く賦存するバイオマスもうまく活用していくことが重要です。年間に百トン規模のバイオマスで足りる施設園芸の加温は分散利用に適しておりバイオマスとの親和性が高い利用分野の一つです。

 未利用エネルギーとしては工場からの廃熱も注目されていますが、ほとんどはポテンシャルの低い200℃以下の中低温廃熱であり利用が進んでいませんでした。特に、80℃以下の温排水はバイナリ発電などのエネルギー回収技術はありますが、効率面の課題もあるため利用手段の多角化が望まれます。80℃以下の温水は施設園芸の暖房用には十分であり、ベッド加温は30℃程度で可能です。また、熱利用は発電に比較して効率が高いうえ初期投資も小さくて済みます。分離技術の実用化による工場排ガス中CO2の農業利用も考慮すると、施設園芸は工場廃熱に対しても親和性が高いと言えます。
 施設園芸の暖房用として重油の代わりに木質チップを使うことで3割程度の燃料コスト削減が期待でき(注1)、捨てられている工場廃熱利用ではさらに削減効果が大きくなります。また、バイオマス利用の副産物である灰は土壌改良材にもなり、農業資材コストの低減も期待できます。地域全体で見た場合には、地域外から購入する化石燃料を工場廃熱やバイオマスのような地産エネルギーに代えることで、地域外に出ていたおカネの地域内循環が生まれ、地域エネルギー関連事業や就農拡大など新たな雇用創出につながる可能性も秘めています。

 ハンドリング面での煩わしさ、貯留スペースや機器の大きさなどからバイオマスによる化石燃料代替に対して抵抗感があるのは事実でしょう。工場廃熱の利用も決して簡単なものではありません。しかし、農業への導入を進めることは、農業競争力の強化、未利用エネルギーの停滞感打破、地域振興などさまざまな波及効果が期待できるのです。
 一部にとどまる農業への未利用エネルギー導入を進めるため、工業団地には大規模農業施設を併設して廃熱を安く利用するとともに物流の面でも相乗効果を得る、山間部では住民参加で林地残材やもみ殻を集めて分散型バイオマス熱利用装置を利用する、などモデルプランを示していくべきです。政府が検討しているとされる農地法改正はコンクリートの土地を農地として認める内容であり、税制面でのインセンティブとして工場廃熱利用型の施設園芸への追い風となるでしょう。さらに、TPPや地方創生に関連した農業支援政策では、バラマキからインフラ投資への転換が謳われています。一回の支援により永く農業を下支えする規模が実現されれば、地産エネルギー農業は魅力あるビジネスに成長するはずです。
(注1) A重油の価格を1リットル80円としたとき

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※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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