オピニオン
需要家がサービスを作る時代に
2014年07月15日 赤石和幸
FacebookなどのSNSツールが発達してきました。スタンレー・ミルグラムの実験で有名な「六次の隔たり」という概念にあるとおり、知り合いを6人介すと世界中の人とつながるということがインターネットを通じて容易になってきました。これはインターネットといったバーチャルな世界だけではなく、農業、エネルギー、交通といったリアルな分野でも同じような現象が起きると考えています。インフラなどのユーザーつまり需要家がつながることで様々な変革が起きるということです。例えば、農業分野では、10年前は農協などを介してスーパーなどの小売りからしか農産物を購入することはできませんでした。しかし、生産者の情報がインターネット上に流通するようになり、生産者からダイレクトに購入できるようになりました。また、それを仲介するようなダイレクト販売を行うベンチャーなども登場し、上場まで成長する企業も登場しています。さらに、農産物の購入する人が生産者に共同投資して、こだわりのある農産物を自ら生産するといった動きも出てきています。
エネルギーも電力自由化に向けて新電力が200社を超えるなど需要家が複数の電力会社を選べる仕組みが出来てきました。需要家の固まりとしてマンションも挙げられますが、マンションの電力を一括受電し安価に調達するサービスも拡大しています。仮に10万世帯のマンションの需要家が集まると1.4万kw程度の電力需要を作り出します。これは、火力発電1基分くらいの電力需要になります。まだ、大規模な動きはありませんが、マンションの需要家が再エネなどのエネルギー事業を共同で投資して、自らが使うということも可能になってきています。交通分野も同じです。今、創発で取り組んでいるCOSMOS(※1)と言うモビリティサービスも同様です。これまでバス会社、タクシー会社が移動サービスの担い手でした。COSMOSでは、地域の需要家を抱える商業施設やケーブルテレビなどと組んで移動サービスを提供することにチャレンジしています。移動サービスを提供するのは、タクシー、バスなどの空き時間です。これらをITで効率的に管理することで安価な仕組みを作っています。
このように、農業、電力、交通などのリアル分野でのサービスは大規模な供給者が画一的なサービスを提供してきました。まだ、小さな動きかも知れませんが、需要家のニーズが多様化するなか、複数のサービスを選択できる時代になり、次は、需要家自身が集まってインフラを自ら作り始めるといった動きが増えると考えています。日本は長らく、大規模な供給者が市場を占有していましたので、これから需要家側が集まる動きには、新たなビジネスチャンスがあると思います。ぜひ、こういった市場を立ち上げ、自らが牽引できればと思っているところです。
※1:COSMOSとは、Community Oriented Stand-by MObility Serviceの略字、地域における住民の往来を活発化させることで地域活性化に貢献する全く新しい個人向け地域交通サービスのこと。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。