オピニオン
CSRを巡る動き:児童労働だけが「子どもの人権問題」ではない~「子どもの権利とビジネス原則」の普及に向けて
2014年06月01日 ESGリサーチセンター
2014年4月11日、ストックホルムで「世界子どもフォーラム」が開催されました。そこで発表された研究成果のひとつが、『子どもの権利と企業セクター:ベンチマークの設定』(世界子どもフォーラムと、BCGによる共同研究)でした。この研究では8業種・1,032社の世界の大企業を対象に、子どもに関する公開情報が調査されました。その結果、全体の62%が児童労働に関する方針を開示している一方で、児童労働以外の子どもの権利に関わる課題については、「製品責任の遂行/子どもの安全」が14%、「子どもに対する責任あるマーケティング」は7%の開示にとどまっていることが明らかになりました。
同フォーラムではまた、『投資家による子どもの権利の評価視点』(世界子どもフォーラムとGES社による共同研究)というレポートも発表されました。ここでは、国連責任投資原則に署名している欧米の金融機関等195社にアンケート調査を行っています。回答は22社(回答率11%)にとどまりましたが、非回答企業の公開情報に基づく調査も合わせて実施されています。その結果でも、子どもの権利に関する認識としてはほとんどが「児童労働」だったといいます。
児童労働が、企業が関係する子どもの権利の項目のなかで重要であることには、間違いはありません。しかし、だからといって、子どもの権利に関する企業の責任はそれだけだ、と考えてしまうことは早計です。
2012年3月、国連グローバル・コンパクト、ユニセフ、セーブ・ザ・チルドレンは「子どもの権利とビジネス原則」という10の原則を発表しました。これは、2011年に策定された「国連ビジネスと人権に関する指導原則」を受け、特に脆弱な存在である子どもに焦点をあてたものです。企業には、その事業所、製品・サービス、経済・社会的開発を通じて、子どもの生活を改善する力も、また、劣化させる力も持っているという考えが根底に置かれています。児童労働の撲滅は原則の2番目に掲げられていますが、このほか、「若手労働者、親、保育者のディーセントワーク」「製品サービスの安全」「マーケティングと広告における配慮と支援」「環境や土地買収に関わる配慮と支援」などが挙げられています。
この原則の認知度は、まだまだ高くはありません。冒頭で紹介した1,032社の調査でも、参照している国際的な行動基準として開示されているのは、国連グローバル・コンパクトが58%、ILOの各種条約が41%、ISO26000が24%、国連ビジネスと人権に関する指導原則が7%などに対し、わずか1%でした。
このような状況のなか、ユニセフなどの機関では、「子どもの権利とビジネス原則」をさらに具体的に実践に移すためのツールとして、2013年12月に『子どもたちのことは全ての人に関わる(Children are everyone’s business): ワークブック 2.0』、『インパクト評価における子どもの権利』、『サステナビリティ報告における子どもの権利』という文書を公表しています。なかでも、『子どものたちのことは全ての人に関わる:ワークブック2.0』は、10の原則をひとつひとつ細かく解説しており、GRIとのつながりも記載されていることから、企業の担当者にとって有用な資料になるのではないかと考えられます。このような国際的なスタンダードに基づいて作られたテキストを参考に、足元で起こっている子ども関連の諸課題(子どもの貧困、いじめ、虐待、過度に競争的な教育環境等)に目を向ける国内企業が増えることが期待されています。