オピニオン
集合住宅における訪問系サービス等の評価のあり方に関する調査研究事業
2013年06月06日 齊木大
*本事業は、平成24年度老人健康保健増進等事業として実施したものです。
事業目的
平成24年度の介護報酬の改定に伴い、利用者が居住する住宅と同一の建物に所在する訪問介護事業所が、その住宅に居住する利用者に対して、前年度の月平均で30人以上にサービス提供を行っている場合、その住宅に居住する利用者に行ったサービスに対してのみ1割減算となった。この調査では、訪問介護事業者の減算の実態、経営面への影響、訪問介護に伴う移動コスト等を把握するとともに、減算の妥当性を検証することを目的とした。
事業内容
(1)都道府県アンケート調査
東日本大震災の被災3県(岩手県、宮城県、福島県)を除く44都道府県の介護事業者担当課に対して、アンケート調査を実施し、減算訪問介護事業所について県内事業所数、名称、住所を把握するとともに、建物別の訪問介護事業所、減算回避に向けた訪問介護事業所の動向、特定事業所加算の届出状況などを把握した。
(2)訪問介護事業所アンケート調査
減算訪問介護事業所334か所と全国から無作為抽出した非減算訪問介護事業所4,000か所に対してアンケート調査を実施した。事業所調査票は1,120票を回収し、サービス提供状況、移動手段や移動コスト、減算の実態などを把握した。利用者データ調査票は1,016票を回収し、年齢、要介護度、利用サービスの種類や利用回数、利用者宅までの移動時間などを把握した。
(3)訪問介護の移動コストの分析
訪問介護事業所アンケート調査に基づき、収支、移動時間、移動コストなどについて、減算訪問介護事業所と非減算訪問介護事業所の比較分析を実施した。さらに、利用者宅までの移動時間を経済価値に換算した移動時間コストや、減算訪問介護事業所と非減算訪問介護事業所額の収支比率が等しくなる減算額の試算を実施した。
(4)減算の妥当性検証に関する課題
現状の減算制度では、居住場所(同一建物)と利用者数(前月30人が利用)によって減算対象が決まり、また、減算額は介護報酬額の1割と定められている。この減算制度の妥当性をさらに精緻に検証するための課題を整理した。
事業結果
(1)都道府県アンケート調査
43都道府県の減算対象の訪問介護事業所は350事業所であること、約6割が有料老人ホームと同一建物であることを把握した。さらに、334事業所の減算対象の訪問介護事業所の名称と住所を把握し、訪問介護事業所アンケート調査に向けた発送リストを整えた。
(2)訪問介護事業所アンケート調査
事業所調査票を1,120票(回収率25.8%)、利用者データ調査票を1,016票(回収率23.4%)を回収した。後者からは18,056名の利用者データを得ることができた。両者から減算対象と非減算対象の訪問介護事業所の体制、収支、移動コスト、利用者像などの実態を把握することができ、減算と非減算との比較分析をする上での基礎データを整理した。減算対象では、徒歩移動の割合が高く、時間・コスト面で有利なことが確認できた。
(3)訪問介護の移動コストの分析
移動コストが収入・支出占める割合は減算対象が低く、事業所の収支比率も減算対象が良好であることが確認できた。また、訪問介護員が利用者宅までの移動に要している年間移動時間を経済価値に換算した。収支比率や収入に占める移動コスト割合の比較から、1割減算の妥当性について分析し、現状では非減算対象と同水準の負担までには至っていないことがうかがえた。
(4)減算の妥当性検証に関する課題
減算水準の設定は、他の訪問系サービスも含めて移動コストの負担について検討が必要である。また、減算対象の回答数が限られ、統計的に有意な分析を実施することは困難であった。大規模な調査により地域別にもコスト分析すべきことが今後の課題である。
※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
報告書:集合住宅における訪問系サービス等の評価のあり方に関する調査研究事業
本件に関するお問い合わせ
総合研究部門: 齊木 大、渡辺 康英
TEL: 03-6833-5204 E-mail: rcdweb@ml.jri.co.jp