オピニオン
CSRを巡る動き:COP17:京都議定書からの離脱と日本企業
2012年02月01日 ESGリサーチセンター
12月11日、南アフリカ・ダーバンで開催されていた国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)は、京都議定書の延長とそれに代わる新枠組みの開始を決定し、閉幕しました。会議では、20年に中国や米国を含む全ての締約国が参加する新たな枠組みを発効させる「ダーバン合意」が採択されるなど、一定の成果がありました。一方で、京都議定書については、13年以降の延長が決定したものの、「いつまで」という肝心の議論が来年のCOP18に先送りされており、各国の利害対立が改めて浮き彫りとなる結果となっています。
日本は、議定書離脱を表明したカナダと異なり、議定書批准国であり続けますが、議定書の延長には参加しないという決定を下しました。途上国の温暖化対策支援を通じて排出枠を得る国連クリーン開発メカニズム(CDM)などを引き続き利用できるよう議論が続けられていますが、我が国の企業による環境保全の取組みには、少なからず影響がでることとなりそうです。
日本は、京都議定書で2008~12年の間に1990年比6%減という削減義務が課されている状況です。このため、途上国の温暖化対策支援を通じて排出枠を取得するCDMや排出枠取引などの「京都メカニズム」を通じ、海外から排出枠を購入してくる必要がありました。
一方、削減義務を課されているのは日本、欧州など世界全体の排出量ベースで3割弱の国々のみであり、議定書への批准を拒否している米国や、締結当時に開発途上国とみなされていた中国などは義務が課されていません。省エネ対応の遅れた東欧を抱える欧州と比べても、日本は不利な状況にあり、これが、我が国の産業界が「京都議定書は国際競争上、不公平だ」との不満を持つ主な要因です。このような背景から、議定書延長への不参加という日本政府の決定に対し、産業界からは「日本の政府、産業界が主張してきた公平で実効性のある国際枠組みの構築に向け、一定の進展があった」と歓迎する声があがっていました。
従来、日本は08~12年の間に政府と民間による排出枠購入の合計で、6000億~8000億円の資金が必要となる見込みとされており、EUと並ぶ排出枠の大口の買い手でありました。しかし、COP17の結果を受けて、排出枠取引市場は大幅に相場を下げている状況です。13年以降も欧州連合(EU)などが継続して削減義務を負うことが固まった欧州と異なり、日本企業の間には、従来型の排出枠ビジネスは存続できないかもしれないという懸念も生じているようです。
日本政府は、これまで環境技術の海外輸出や途上国の排出削減への貢献を重視してきました。しかし、東日本大震災とそれに伴う原子力発電所事故を受けて、日本の産業界の温暖化ガス削減計画はすでに目算が狂っている状況です。電力業界では、火力発電所の稼働率が高まり、二酸化炭素(CO2)排出量が急増しており、25%の削減を謳った鳩山イニシアティブの達成はほぼ不可能という見方が強まっています。
京都議定書からの離脱を受け、日本企業は13年以降、政府の削減目標に沿った自主的な取り組みに移ります。この状況で削減義務から解放されれば、企業によるCO2排出量は更に増加することも予想され、我が国の地球温暖化問題に対するコミットメントが今後も維持されるのかに国際社会の注目が集まっています。
政治的なイニシアティブや、経済的なインセンティブが失われることによって、中には温室効果ガス排出量の少ない生産プロセスの開発や、再生可能エネルギーへの投資を見送る企業も出てくることでしょう。また、事業機会として環境ビジネスの市場に参入していた企業においても、事業計画の見直しが行われることが予想されます。
今後も、自主的な取組みによる環境保全活動が、従来の水準で維持しうるかどうかは、企業による、まさに社会責任へのコミットメントにかかっています。自発的に高い水準の取組みを続ける企業が果たしてどの程度出てくるのか。それは我が国産業界におけるCSRの成熟度を計るバロメーターとなるでしょう。